新春特別対談 「がんばらない」の医師 鎌田實 meets 群馬大学教授・食の専門家 高橋久仁子

撮影:塚原明生
発行:2005年1月
更新:2019年7月

「これさえ食べれば」の研究者ががんになっている

鎌田 最後に一つだけ。ビタミンの大量投与ががんに効果的、というのはどうですか。

高橋 ノーベル賞受賞者ポーリングは栄養学者でも何でもないのですが、ビタミンCの大量投与はあれにもいい、これにもいいと言って混乱を招きました。ビタミンCといえども大量にとれば、やっぱり安全ではないんですよ。

鎌田 でも、抗酸化物質だから、悪玉酵素をやっつけるとか……。

高橋 代表的な抗酸化ビタミンをビタミンA、ビタミンC、ビタミンEの頭文字をとって、エースと呼んでいます。でも、ビタミンCの研究者は言っていますよ。ビタミンCもベータカロチンもどちらもアンチオキシダント、抗酸化物質ではあるが、量によってはプロオキシダント、酸化前駆物質になりうる諸刃の剣であると。坑酸化性が言われますが、私は大量のビタミンCががんにいいという論文を直接には一つも知りません。
とにかく、さっきも申し上げたように、「これを食べていればがんにならない」という食べ物や栄養素は、今のところないんです。なのに、みんながそう思ってしまうことに関しては、残念ながら学会や研究者も加担していると思います。食品の機能性に関する研究には企業からお金が出やすいため、「ある食品にこういう機能をもつ成分がふくまれている」というようなことばかりが、大々的に宣伝されてしまう。本当は、近所のスーパーに売っているものをこう調理してこう食べると、こんなふうに健康管理ができますよ、というのが一般の人たちにとって大事な情報なのに、そう��う研究にはお金がまず出ませんからね。

鎌田 たしかに、栄養学者の中にフード・ファディズムを誘発するような方がいますね。その情報がウソか本当か見分けのつかない一般の人たちにとって、「学者がいいと言っている」のは大きな判断基準になりますから。

高橋 実は、私が講演などで必ず例を出す3人の研究者がいます。お茶を丸ごと食べることを奨めたKさん、アガリクスの広告塔だったMさん、大豆を食べれば万病解決と説いたOさんです。Kさんは44歳、Mさんは69歳、Oさんは65歳で、いずれもがんで亡くなられました。「これを食べれば万全」と一般の人たちがあまりにも信じているので、悪趣味ですがあえてこの3例を出すんです。

「心地よく」食べることを忘れないで

鎌田 それじゃ、がんになって生活を変えようと思った人が玄米食にしたりすることには意味はあるんでしょうか。

高橋 ないと思います。そもそも玄米は白米よりいろいろな微量栄養素をふくんでいますから、総合的に考えて「体にいい」と言っていいと思います。でも、おいしさはやっぱり劣るし、食べにくい。玄米がおいしいと思う方は召し上がったらいいと思いますが、食欲の落ちた患者さんに「体にいいから食べろ」というのは、私は酷だと思いますね。

鎌田 体によくても苦しみながら食べるなら、やめたほうがいい、白米でいいと。

高橋 温かいおいしい新米に、これからおいしくなる筋子とかお刺身とか食べるほうが、はるかに意義があると思います。

鎌田 がん患者さんに向けた、もっときびしい食事療法もありますが、これなどはいかが。

高橋 きちんとしたデータのそろったものはないのでは? 私はいわゆる「正食」と呼ばれるマクロビオティックも危ないと思っています。日本人がアメリカで広め、芸能人やスーパーモデルが実践して有名になった食事法ですね。でも、肉魚はもちろん卵や牛乳も食べず、植物の中にも食べてはいけないものがいっぱいある。非常に極端で、熱心な実践者のお子さんが栄養失調になって、問題になっています。

鎌田 それと関連した話だと思うんですが、ナチュラルキラーという名の細胞があります。がんと闘ってくれる免疫機能を持つ細胞ですが、最近はその測定ができるようになり、どんなときに増えるかデータとしてわかってきています。それによると、きれいな花や緑を見たり、よく笑ったり音楽を聴いたりすると増えるそうです。その延長として、食事も楽しむことを考えたほうがいいということですね。

高橋 おいしいと思って食べると、本当にナチュラルキラー細胞が増えるといいですね。

鎌田 それじゃ、無農薬野菜にこだわるのはどうでしょうか。

高橋 うーん、たいていの場合、意味があるとはいえないと思います。アメリカの栄養士会のホームページには、「今までに行われた調査研究によれば、どういう栽培方法かということより、摂取量の問題が大きい」とする会の見解が提示されています。安心や心の平和のためにそうした野菜を買うのはいいけれど、有機野菜をちょっぴり食べるよりは、近くのスーパーで売っている普通の野菜果物をたくさん食べるほうが、はるかに効果があるというんですね。

鎌田 ナチュラルキラー細胞もね、活性をはっきり落とすのはタバコ、アルコールの飲み過ぎ、過労、ストレス。逆に、はっきり上げるのは軽い運動、たっぷりした睡眠……。

高橋 私たちが心地いいことですね。

高橋久仁子・鎌田實

鎌田 結局、がんにならないためには、「心地いいこと」をしていることが大事で、そうした心地よさを味わわせてくれるものの中に、食が入っているのが望ましいということですね。 今日は勉強になりました。どうもありがとうございました。

(構成/半沢裕子)

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