免疫ビッグ対談第2弾 「がんばらない」の医師 鎌田實 VS 免疫学の大家 安保徹
「がんばらない」と「あきらめない」のバランスは?
安保 『がんばらない』と『あきらめない』のバランスは、実は自律神経のバランスとも一致しているのです。今まで私は、無理しすぎることの破綻ばかり強調してきたかもしれない。しかし一方では、リラックスしすぎることも破綻なのです。「美味しいご馳走を食べて、体を動かさない」、あるいは「希望を失って身動きしない」というリラックスの極限も、バランスを崩す原因になりうる。
暮らしが豊かになって出てきた不思議な病気に、「慢性疲労症候群」があります。これは、家事程度の作業でも、すぐに疲れて寝込んでしまう病気なんですね。国が豊かになると、どこへ行くにも車で移動したり、美食に走ったり、テレビの前からあまり動かないような生活が普通になる。そういう副交感神経寄りの生き方が極限まで進むと、今度は「無気力、疲れやすい、希望がない」という世界に入っていくのです。だから、「無理をすることだけが、自律神経破綻の原因ではない」と私は提唱したい。先生がおっしゃる『がんばらない』と『あきらめない』のバランスは、まさにその点に関わっているのです。
鎌田 そうだとすれば、どのぐらいが適切なバランスなのでしょうね。今は誰もががんばりすぎている時代だから、6:4か7:3で、副交感神経を優位にしたほうがいいのではないかと思うのですが。
安保 私は、全員に同じアドバイスはしないことにしています。無理している人にはがんばりすぎないように、運動不足で疲れやすい人には「なるべく歩きましょう」と言うようにしています。その人の偏り具合に応じてアドバイスを変えたほうが、プラスになると思いますから。
健康なときのリンパ球の数、脈拍の値はいくつか
鎌田 なるほど、その通りだと思います。ところで先生は、免疫力を上げるためには、白血球中の顆粒球とリンパ球のバランスがとれていることも大事だと書かれていますね。そのバランスは数値上、どのように把握すればよろしいですか。
安保 白血球中のリンパ球は、比率にして35~41パーセント、絶対数にして血液1立方ミリメートル中2000~3000個の間であれば、大体は健康といえます。ところが、無理をしている人はリンパ球が30パーセントを切り、のんびりしすぎて疲れやすい人は45~50パーセントまで数値が上がってしまう。リンパ球が多すぎると、ちょっとした抗原にも反応してアレルギーや炎症が起こったり、虫さされで腫れ上がる、風邪をひくと高熱を出すといった反応が出てきます。
鎌田 病院で血液検査を受けたら、データのコピーをもらって自己管理することも大事ですね。自分のリンパ��の数を意識して、多すぎるようなら体を動かす、少ないようなら、ゆったりした生活のリズムに戻す、といった工夫をすればいい。
安保 自律神経のバランスは、外見からもある程度はわかるんですよ。無理した生き方をしていると、分子酸化が進んで顔の色が黒くなります。他にも、筋肉が張る、肩がこる、脈が多くなる、血圧が高くなるといった現象が起こる。反対に、のんびり暮らしていてリンパ球の多い人は、色白になるし、脈が少なく、血圧も低い。だからリンパ球の数を調べないまでも、自分の自律神経のバランスを、顔色や脈拍、筋緊張などで判断するといいと思いますね。
鎌田 脈拍はどのぐらいを目安に考えればいいですか。
安保 60~70の範囲であればいいと思います。無理している人は常時70を越し、のんびりしすぎている人は50ぐらい。
がんを再発させないリンパ球の目安は?
鎌田 なるほど。次に、がんの再発のことについてお伺いします。本誌の読者の中には、がんの手術を終え、再発の不安を抱えて生活している方も少なくないと思います。先生は、がんを再発させないための一つの目安として、「リンパ球が1800個ぐらいあること」を挙げておられますね。では、病院から検査データをもとに、どのような計算をすればリンパ球の数がわかるのでしょうか。
安保 血液検査の結果が、仮に「白血球総数」もしくは「WBC」が6000、リンパ球の比率が30パーセントだったとします。そのときは「6000個×0.3=1800個」というふうに計算すればいいのです。
鎌田 すると、リンパ球が1800個以上であれば、がんと闘える体制は一応できているということですね。血液検査で白血球分類が行われていない場合は、病院に対して「白血球の分類もしてくれ」と言えばいい。
安保 そうですね。漠然と心配するよりは、検査データを見て安心したほうがいい。患者さんが不安で怯えると、交感神経が緊張状態になって、リンパ球を減らしてしまいますから。それと、必要な白血球の数は、体型によってもちがってきます。体重が多い人は白血球の要求量が多く、反対にやせ細った人は、白血球数が1500程度でも大丈夫。だから、白血球の数が多少、基準値をはずれているからといって、そんなに怯える必要はないのです。
同じカテゴリーの最新記事
- 遺伝子を検査することで白血病の治療成績は向上します 小島勢二 × リカ・アルカザイル × 鎌田 實 (前編)
- 「糖質」の摂取が、がんに一番悪いと思います 福田一典 × 鎌田 實 (後編)
- 「ケトン食」はがん患者への福音になるか? 福田一典 × 鎌田 實 (前編)
- こんなに望んでくれていたら、生きなきゃいけない 阿南里恵 × 鎌田 實
- 人間は死ぬ瞬間まで生きています 柳 美里 × 鎌田 實
- 「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」医療スタッフ編――患者さんが幸せに生きてもらうための「あたたかながん診療」を目指して
- 「鎌田 實の諏訪中央病院へようこそ!」患者・ボランティア編――植物の生きる力が患者さんに希望を与えている
- 抗がん薬の患者さんに対するメリットはデメリットを上回る 大場 大 × 鎌田 實 (後編)
- 間違った情報・考え方に対応できる批判的手法を持つことが大切 大場 大 × 鎌田 實 (前編)