免疫ビッグ対談第2弾 「がんばらない」の医師 鎌田實 VS 免疫学の大家 安保徹

撮影:岡田光二郎
発行:2004年7月
更新:2013年8月

血流をよくするための生活ためのポイントは?

鎌田 ところで先生は、がんの再発を防ぐもう一つの方法として、「体を温かい状態にしておくこと」を挙げていらっしゃいますね。その一環として、「爪もみ療法」を提唱されています。僕もここ数日、電車に乗っている間に試してみたのですが、なかなか調子がいいんですよ。

安保 「爪もみ療法」は、そんなにむずかしいものではありません。自己流で、ちょっと痛い程度に爪の横を押せばいいのです。適度に痛みの刺激が入れば、勝手に血流は増えてくれますから。健康な人は掌に湿り気があり、握ると手がポカポカしてしっとりしてきます。ところが、血流の悪い人は乾燥肌で、握手すると冷たい感じがするんですね。そういう人も、「爪もみ」を繰り返すことで、徐々に手がポカポカ、しっとりしてきます。ただし、ふだん刺激に慣れていない薬指だけは避けたほうがいいかもしれません。
コツは、「少し痛いぐらいにやること」。すると、体はビックリして、血流を増やして刺激を洗い流そうと、副交感反射を起こすのです。これが、東洋医学で鍼灸の世界が延々と続いてきた理由だと思います。

鎌田 「爪もみ」をすることで、副交感神経を刺激して血流をよくし、がんと闘える体制にするわけですね。それから、先生は「体を冷やしてはいけない」ということを、繰り返し著書に書かれていますね。

安保 患者さんを見ていると、「冷房が発がんの原因になっている」と思われる人が多いのです。体が冷えると交感神経が緊張状態になり、気温が高い場所に移ると、血流回復が一気に起こって痛みや発熱が起こる。それを抑えようと痛み止めを服用すると、痛みは止まるが、血流も止まってしまう。そして交感神経の緊張状態に入り、発がんに至るんですね。
体の中で一番冷えやすいのは皮膚と、乳房のように突出した場所です。しかもダイエットでやせると、冷えによる循環障害が促進されるから、ますます破綻をきたしてしまう。30代・40代女性が乳がんや子宮がん、卵巣嚢腫や卵巣がんになるケースでは、冷えから始まる症例が多いのです。

鎌田 すると冷房もよくないし、冷たいものを飲むのもよくない。やはり寒い冬は、熱燗で日本酒がいい(笑)。

安保 特に女性は、冷房や冷たい飲み物には注意が必要です。血行をよくして副交感神経を刺激するためには、体操や入浴もいいでしょう。

卵巣嚢腫=卵巣にできる腫瘍は、卵巣嚢腫(のう胞性腫瘍・良性のことが多い)と充実性腫瘍(悪性のことが多い)

食生活で心がけたいことはどんなこと?

鎌田 先生は���人間のエネルギーシステムにも言及されていますね。エネルギーシステムの観点からいえば、健康にとって大切なのは、食と呼吸である、と。そのことについてもお話いただけますか。

安保 一般の人にぜひ知っていただきたいのは、「消化管の働きが、完全に副交感神経に支配されている」ということです。したがって、副交感神経を優位にするための一番手っ取り早い方法とは、「消化管を動かすこと」なのです。

鎌田 そのためには、肉は少量にして、海藻類とかコンニャク、キノコなど繊維の多いものをたくさんとったほうがいい。たとえばキノコなどは繊維も多く、免疫機能を活性化させる効果があるそうですね。

安保 肉や消化のいいものばかり食べていると、ほとんど消化管を使わないまま終わってしまいます。ところが、玄米の殻や野菜の食物繊維、キノコ・海藻類などを食べると、消化に時間がかかるので、副交感神経が長時間刺激されるんですね。その意味で、食養生というのはとても大切なのです。
また、サプリメントを利用するのも一つの方法だと思います。昨年私の研究室で行ったマウス実験でノルウェーで開発されたパン酵母から抽出した多糖類のベータグルカンを摂ると腸管でのリンパ球が増えることがわかりました。この実験結果はアメリカの『セルラー イムノロジー』という雑誌に掲載されましたが、パン酵母から高濃度に抽出したベータグルカンをマウスに1週間口から摂取させて腸管でのリンパ球数をみたところ、与えなかったマウスとの差が5倍もあったんです。このパン酵母から抽出したベータグルカンは、ノルウェーの特許を使って作られ、サプリメントとして日本でも販売されています。

生活パターンはどう変えたらいいのか

鎌田 なるほど。それから、先生は著書『免疫革命』の中で、「生活のパターンを見直そう」「がんの恐怖心から自分を防御しよう」「免疫に悪いことはやめよう」「副交感神経を刺激しよう」という四つのことを示唆されていますね。これらについて説明していただけますか。

安保 まず「生活パターンの見直し」についてですが、一般には「特殊な食べ物を食べたから発がんする」ということはなく、むしろ無理をしたり悩んだりすることのほうが、発がんの原因になりやすい。だからこそ、「がんばりすぎる生き方が交感神経の緊張状態を作る」ことを自覚して、仕事を1割でも2割でも減らし、体への負担を減らす努力をして欲しい、ということなのです。

鎌田 つまり、ささやかな日々の営みのパターンを変える、ということですね。「がんの恐怖心から自分を防御しよう」という点についてはいかがですか。

安保 がんを宣告された患者さんは、頭の中が真っ白の状態が1カ月ぐらい続きます。そんなときは、発がんの時点よりもリンパ球の減少傾向が強くなっている。だから、「絶望がリンパ球を大きく減らす」ということを知って欲しいのです。

鎌田 最近は医療訴訟を回避するために、考えうる最悪のケースを患者さんに言う医師が多くなっています。医師が訴えられないように、自分の身を守るために、「あと3カ月の命です」などと、平然と言い放つ医師が増えましたよね。

安保 ところが、患者さんにとっては、余命宣告のほうが、発がんそのものよりつらいわけです。発がん時点ではリンパ球が25パーセントぐらいある患者さんでも、医師に脅かされたり余命宣告をされたりすると、10パーセント台まで下がってしまうんですね。
今は本人の前でも余命宣告をする医師が多くなりましたが、余命宣告をされると明らかに免疫力が下がる。免疫力はがんと闘う力だから、余命など本人に直接言ってはいけない。そういう感覚を医師が持たなくてはだめです。

泣くことはマイナスではないのか

鎌田 余命など誰にもわからないのだから、そういうのは信用しないほうがいい。ところで先生は、がんと共生しているときに痛みや発熱が出た場合、それが治癒へと向かう反応である場合もあるから、やみくもに抑えてはいけない、と書いておられますね。

安保 がんに加えてボケも始まった老年の患者さんがいるのですが、つい2週間前、発熱のせいでボケが治ってきたんですね。このように、発熱で血流が増えると、いろいろなプラス作用がある。だから腫瘍熱も、いちがいに悪者扱いはできない。発熱には、血流を増やして組織を修復したり、がんと闘う体制を強めたりといった面もあるわけですから。

鎌田 熱が出たからといって安易に解熱剤を投与するのではなく、少し我慢したほうがいいということですね。ところで、先生は「転移というのは治るチャンスでもある」とも書いておられますが、これはどういうことですか。

安保 仲間の医師の間では、CTやMRIでがんの転移が見つかった後、治癒へと向かうケースが20例ぐらい出ています。だから、転移すれば、あとは悪化の一途であるとは考えないほうがいい。「転移は治癒へと向かうチャンスである」可能性が十分にあるのです。

鎌田 原発巣にがんがいたたまれなくなって、他の場所に逃げ出し、そこにも棲みつけないまま消えてしまう。つまり「転移とは、がんが消えるサインでもある」ということですね。それから、笑うことや泣くことも、副交感神経を刺激するにはいいそうですね。

安保 そうなんです。患者さんの奥さんに「ご主人は、ここ1年間笑っていますか?」と聞くと、ほとんど笑っていないんですね。そのぐらい、交感神経の緊張状態というのは、笑顔がない世界。笑顔があれば、私たちは、我に返ることができる。笑うことが、深刻さから脱却するきっかけになるのです。

鎌田 笑うだけでなく、泣くことも、副交感神経を刺激するにはいいそうですね。

安保 結局、唾液や涙、鼻水も含めて、分泌現象というのはすべて副交感神経支配なんですね。笑いがいやなものを吐き出す世界だとすれば、涙は悲しみを洗い流す世界なのです。

鎌田 なるほど、泣きたいときは泣いていいんだ。自分の感情に素直になって、楽しいときは笑い、悲しいときは泣く、それが大事だということですね。

安保 そうそう。だから、いろいろな病気を抱え込む中年期に涙もろくなるのは、いい兆候なんです。それともうひとつ、忘れてはならないのが「呼吸」の問題です。人間、ゆとりのないときは、背中が丸くなって胸郭が圧迫され、息が吸えなくなりますよね。だから苦悩している人は、浅くて速い呼吸をしているわけです。でも、胸をはってゆっくりと深い呼吸をすれば、副交感神経が優位になる。呼吸だけで病気を治した人がいるぐらい、呼吸は健康法の基本をなしていると思います。

鎌田實・安保徹

鎌田 なるほど。今日はおかげさまで、基本的なお話がたっぷり聞けました。がんに負けないヒントをいっぱいいただきました。しかも、毎日の生活の中で実践できることばかり提示していただきました。とても役立ちそうです。どうもありがとうございました。

(構成/吉田燿子)

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