がんになった今こそ伝えたいことがある。副作用対策、治療の充実、そして…… がんサポート編集発行人・深見輝明 × 鎌田 實
抗がん薬開始の直後に脳梗塞を発症し転院
鎌田 それで新年に入り、がん研で精密検査をしたのですね。
深見 1月8日に検査入院をし、いろいろ検査をしましたが、検査をすればするほど、病状が進んでいることがわかってきました。そして、盲腸に原発巣である大きな腫瘍があることもわかりました。腫瘍が盲腸の奥にまで入り込んでいたのです。
鎌田 盲腸以外の大腸部分に、スキップするようにがんがあったわけではないのですね。
深見 はい。盲腸に腫瘍ができたとしても、胃で消化されたものはまだ液体状ですから、その腫瘍に引っ掛からず、素通りするのです。その点、大腸がんは引っ掛かりますから、早期発見しやすいわけです。盲腸がんだったことが致命的でした。気がついたときには、すでに、肝転移、肺転移、骨転移になっていたのです。
鎌田 骨転移はどこの骨ですか。
深見 椎体骨と肋骨です。
鎌田 腰が痛かったのは背骨への転移ではない?
深見 違うと思います。とにかく、いろいろ検査をしまして、やっと1月22日から、XELOX療法*+アバスチン*の化学療法を始めることになりました。
鎌田 それを始めたとき、脳梗塞になったのですね。
深見 22日はエルプラットと吐き気止めの点滴に4時間かかったのですが、途中点滴漏れのトラブルがありましたが、まあ順調に終わりましたから、ひと安心していました。そして、1月26日土曜日の9時半前に1階のコンビニへ買い物に行き、戻ってきてシャワーを浴びて、ベッドに横になったら、起き上がれなくなったのです。10時に看護師さんがおやつを届けに来て、私の様子がおかしいことに気づいたそうですから、コンビニに行って来て、シャワーを浴びたあとすぐに脳梗塞を発症したようです。
鎌田 そのときは病室に1人だったのですね。
深見 そうです。12時20分頃、病院から自宅の妻に、「ろれつが回らないから、すぐ病院にきてください」と電話があったようです。妻が2時過ぎに到着したときには、全然しゃべれない状態でした。
直ぐに、CTを撮ってがんの転移ではなく、脳梗塞の疑いがあるとわかったようです。しかし、がん研では脳梗塞の治療はできませんから、転院先を探したのですが、その日が土曜日だったためか、なかなか決まらず、東京済生会中央病院への転院がやっと決まり、病院に到着したのが、3時20分過ぎぐらいだったそうです。それからMRI(磁気共鳴画像装置)を撮りました。
普通、脳梗塞の初期治療には血栓溶解剤を使いますが、発症から4時間半を過ぎているからということで、使えなかったようです。
*XELOX療法=ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラット(一般名オキサリプラチン) *アバスチン=一般名ベバシズマブ
がん専門病院では治療できない脳梗塞
鎌田 そうか、血栓溶解剤は使えなかったのか。そのときの症状は?
深見 右手が使えないのと、言葉が出なかったですね。しかし、翌日には右肩が動かせるようになり、4日目ぐらいから言葉が急に出るようになりました。
鎌田 右手麻痺と失語症があったのですね。右足は?
深見 足はまったく大丈夫でした。ただ、転院してからしばらくは、すぐトイレに行きたくなり夜眠れない状態が続きました。看護師さんがそれに気づいてくれて、泌尿器科を受診して、その原因が膀胱炎と前立腺肥大だったことがわかり、何とか窮地を脱しましたが、それまでの5日間ぐらいは苦しみました。
鎌田 MRIの結果はどうでした。
深見 画像を見ましたが、小さな脳梗塞のあとが点々とありました。あと側頭葉にもうっすらとありましたが、「太い血管には全然ないですね」と言われました。
がん研有明病院で、「化学療法をやらなければ、余命は3カ月」と言われましたから、私としては早く化学療法を再開したかったのですが、今度は、入院先が脳血管内治療科なので、がんの治療はしてもらえないのです。でも、転院してから順調に脳梗塞は回復していたので、「鎌田さんとの対談を早くしてほしい」と、自分から編集部に連絡したわけです。
鎌田 私も結構わがままですが、深見さんもわがままだから、言い出したら聞かないんだね(笑)。抗がん薬治療はいつから再開されるか、まだわからないのですね。
深見 まだ決まっていませんが、がん研の化学療法科トップの水沼信之先生も脳梗塞の具合を聞いて、治療を早められそうだと言っているようです。普通、化学療法は2クール目からは通院でやりますが、私の場合はしばらく入院して化学療法を行うことになります。
鎌田 抗がん薬の治療中に脳梗塞になることもあり得ることだから、血栓溶解剤を早期にやるとか、もう少し緊急対応のシステムが決まっていてもいいと思いますが、日本のがん専門病院の限界なのかなぁ。
例えば、脳梗塞が起きた場合、脳外科医のいる病院に画像を送信して指示を仰ぎ、患者さんをクルマで移送中にも、血栓溶解剤を投与するとかね。
深見 がん研や国立がん研究センターは、がんの治療はできますが、がん以外はできないというのが実情ですね。一考の余地はあると思います。
「リンパ管症」と言われ抗がん薬なしでは余命3カ月
鎌田 がんに特化しているわけですから、しようがないと言えば、しようがないわけですが、実際に深見さんのような事態が起きた場合、どう対応するか、しっかりしたシステムはつくっておくべきでしょうね。近々、がん研に戻って抗がん薬治療を再開するわけですが、これまでの治療の成果というのは、まだわかりませんよね。
深見 いや、それまではコンコンと咳が出ていたのですが、1回抗がん薬をやった後、ピタッと止まりました。また、胸が苦しく、息切れがすることもあったのですが、それも止まり、酸素濃度も上がりました。だから、抗がん薬が効いているのだと思います。ただ、飲み薬であるゼローダは誤嚥性肺炎が怖いということで、止められています。1回目の化学療法は抗がん薬が7割方入っていたわけですが、それが効いたように感じます。
鎌田 なるほど。酸素分圧が少し上がったとか、息苦しさが減ったとか、咳が止まったということはあるわけですが、多角的にレントゲンで確認したわけではないですね。
深見 そうです。「リンパ管症」という言葉がありますね。
鎌田 その説明を受けたのですか。
深見 はい。それで、「どうしてもやりたいことがあるので、余命はどれくらいなんだ」と、がん研の化学療法科の担当医を問い詰めたのです。そうしたら、「リンパ管症というのは、余命3カ月ぐらいです」と言われました。それでちょっと焦ったのです。
鎌田 一般的に肺がんは、気管支や肺胞に沿ってできるのですが、リンパ管症というのは肺胞の周りのリンパの流れのところに、がんが侵略するようにまだら状に広がるから、そこにある血管と肺胞が酸素を交換するのがしづらくなって、すごく息苦しくなるのですね。転移が1カ所にあるパターンと違って、浸潤する形になるから、なかなか厄介なのですが、薬が効いて消えてしまうことも、あることはあります。
深見 そういう意味では、自分では効いているのでは、という思いがあります。
鎌田 薬が効いているような思いがするわけだ。実際は、CTを撮ってみなければわからないけれどね。
深見 がん研に戻れば、CTを撮ると思いますので、楽しみにしています。
鎌田 薬が効いているという自覚があるので、ちゃんと抗がん薬のフルコースをやって、叩けるだけ叩きたい。脳梗塞の直後だけれど、早くがん研に戻って、リスク覚悟で抗がん薬治療をやりたいということですね。しかし、余命3カ月と言われたときはショックだったでしょう。
深見 たしかに、「リンパ管症は抗がん薬も何もしなければ3カ月」と言われましたが、水沼先生は、「抗がん薬がうまく行っていたのに、脳梗塞が起きたのは本当に残念です」と言われたそうです。水沼先生の話では、1回目の抗がん薬治療で脳梗塞が起きるケースはほとんどなく、何度も抗がん薬治療していると起こることもある程度らしいです。データ的には脳梗塞が起きる可能性は5パーセント程度ということです。今は、「抗がん薬で3年、4年と余命を延ばした人もいる」という水沼先生の言葉を信じて、抗がん薬治療を受けるしかありません。
がんになり改めて考えたがん医療の4つの問題点

鎌田 原発が大腸がんなら、手術をして、長期戦で延命し、パーセンテージは低いですが、完治まで行く人もいますよね。
深見 2011年10月号で鎌田さんとの対談にも出ていただいた、南相馬市・原町中央産婦人科医院の高橋亨平先生が、去る1月22日に亡くなられましたね。直腸がんで肺転移と肝転移があったそうですが、よく頑張られましたよね。
鎌田 高橋先生が直腸がんと診断されたのが、大震災直後の5月で、私たちが病院へインタビューに行ったのが7月末でした。
先生は震災後すぐに病院を再開され、亡くなるまでの2年足らずの間に、80人の赤ちゃんを取り上げられました。大腸がんは奇跡的なことが起きることが多いがんです。深見さんの場合、抗がん薬が効いているということであれば、結構期待できるという感じがします。
それにしても、焦って鎌田實と対談しようと思ったのはなぜですか。
深見 やはり伝えたいことがあるからです。
鎌田 自分が丸裸になっても、10年やってきた「がんサポート」の編集・発行人として、伝えたいことがある!
深見 あります。第1にがん治療と緩和医療の併用。簡単に言えば、副作用対策への注力。第2に、がん拠点病院の充実。第3に、早期発見・早期治療に変わるがん治療のスローガン、遅れてがんが見つかった人にも適正な治療を行う「遅期発見、適正治療」の確立。第4に、がん患者さんに対する支援活動の拡充――などです。これらを鎌田さんの力で推進していただきたいと思います。
鎌田 なるほど。がん専門誌の編集・発行人を10年やってきて、がん治療も進歩してきたけれども、まだ道半ばの部分があるということですね。たしかに、いま挙げられた4点は、大事な視点ですよね。まず第1が、がん治療の副作用に対して、まだ十分な態勢・システムができていない。
深見 がん治療はかなり進んでいますが、副作用対策が二の次になっているのは否めない事実です。
鎌田 そこは「がんサポート」でも何回も主張してきましたよね。いくつかのがん専門誌があった中で、「がんサポート」だけが残ったのは、そうした主張を行うことによって、日本のがん医療をサイドから刺激するという、深見さんの心意気があったからだと思います。
副作用対策の遅れを指摘してきた深見さんが、抗がん薬治療を受けたとたん、脳梗塞という副作用に襲われたわけです(笑)。怨んでいるわけではないけれど、内心複雑な思いがあるでしょう。
そして、2番目ががん拠点病院の充実ですか。拠点病院の中には、クオリティの高いところもありますが、まだまだ名前だけのところもありますね。全国的に見て、そう感じますか。
遅れてきたがん患者さんにも充実した適正ながん治療を
深見 感じます。同じ拠点病院でも、例えば前立腺がんの治療に対応できていない病院もあります。そういう拠点病院を見ると、遅れているなぁと感じます。
鎌田 なるほど。がんの腹部外科などは充実しているけれど、泌尿器科系や婦人科系のがん治療には十分なスタッフもいなくて、治療態勢ができていないところがある、ということですね。その部分をもっと前進・充実させたいという思いが、深見さんの中にあったということですね。 3番目は、早期発見・早期治療に乗り遅れた人への対応ですか。
深見 たしかに早期発見・早期治療はがん治療の基本かも知れません。しかし、盲腸がんではありませんが、早期発見されにくいがんもあるわけです。だから、遅れてがんが発見された人に対しても、充実した適正な治療を提供できるようにしてほしいと思います。
鎌田 今回、自分が盲腸がんになって、遅れてきたがん患者さんになってしまったわけですが、そういうことは以前から考えていて、「がんサポート」10周年では、それも訴えようとしていたということですね。
深見 そうです。
鎌田 遅れて発見された進行がんの人に対しても、「もうやるべき治療はない」などと言わないで、できるかぎりの治療ができる態勢を構築すべきだと。
今回、深見さんは脳梗塞を併発して大変ですが、それ以前に、大腸がんに肝転移、肺転移などがあるわけですから、何年か前だったら、「もうダメですね」で終わっていたケースですね。それが今、がん研では抗がん薬治療にチャレンジしようとしている。いい病院では遅れて発見された人にも、充実した適正な治療を提供する方向になってきたわけですね。がん研では、全然あきらめなかったですか。
深見 あきらめませんでした。
鎌田 ドクターは顔��知りでしたか。
深見 はい。消化器センター長の山口先生は、専門は胃がんですが、病室にニコニコした顔で入ってきて、握手をして、「頑張りましょう」と声を掛けられました。また緩和治療科の向山雄人先生も病室に来て、胸を診てくれて、おだやかな音でいいねと言ってくれ、ほっとして救われた気持ちでした。
鎌田 センター長も来てくれて、できるだけの治療はしようということで、専門医が集まってチーム治療を展開しようとしているわけですね。そういう態勢を見て、進歩しているなという感じはありますか。
深見 がん研や国立がん研究センターは進歩していますが、地方はまだまだですね。
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