がんになった今こそ伝えたいことがある。副作用対策、治療の充実、そして…… がんサポート編集発行人・深見輝明 × 鎌田 實
がん患者さんを網羅できる患者団体の連合をつくりたい
鎌田 4番目は?
深見 患者支援活動の拡充です。これを具体的に進めようとしていた矢先に倒れてしまったわけです。実際、前立腺がんやトリプルネガティブ乳がんの患者会づくりに動き始めていました。
鎌田 「がんサポート」自身が患者支援活動に積極的にコミットしようと考えていた、ということですか。
深見 そうです。現在、大半のがん患者さんは支援活動を受けていない状況です。大腸がんや前立腺がんの患者会は数も少なく目立っていません。患者会が活発に活動しているのは乳がんぐらいですから、支援活動も乳がんに向かっているのが現状です。
鎌田 乳がん患者会の組織はしっかりしていて、患者さん同士が集まり、情報を共有し、お互いに癒し合える場があるけれども、他のがんについては、まだ道半ばですね。前立腺がんや、腹部のがんについても、乳がんのような組織にしていきたいわけですね。
深見 がん種ごとに患者会をつくり、それらを土台にして、日本がん患者団体総連合といった日本一の患者会を組織したいと構想しています。これは私の夢なのですが、がんになったことで、患者会づくりは一時中断状況になっています。
鎌田 ただ、「がんサポート」を10年やってきて、読者を安定的に増やすのは、とても難しかったでしょう。がん患者さんは亡くなりますから。読者が「がんサポート」を通して、同じ病気の人のために何かしたいと思っても、自分が死んでしまいますからね。乳がんを除いて、患者会があまり大きく成長しなかったというのも、そこに原因があります。
深見 やはり、サポーター制度を採り入れるべきです。健常者ががん患者さんの支援活動をするシステムですね。
がんでも豊かに楽しく生きる「エンジョイヤー」構想

鎌田 「がんサポート」はその接着剤になり得ますか。
深見 実は、そういう視点も含めて、「がんサポート」の10周年記念事業を考え、鎌田さんにも相談しようと思っていたのです(笑)。
鎌田 どんな記念事業を考えていたの。
深見 「がん闘病記大賞」をつくるつもりです。
鎌田 これから呼び掛けて、夏から秋にかけて作品を集め、大賞を選ぶわけですね。これが一番の柱ですか。
深見 それと患者会設立支
援活動が大きな柱です。それに「がん暮らしフェア」の開催ですね。
それから、鎌田さんにぜひお願いしておきたいことは、「エンジョイヤー」という構想の実現です。これは何年も前から温めていた構想です。
鎌田 エンジョイヤーというのは、「エンジョイ」から来ているのですか。
深見 そうです。「生楽者」、要するに「楽しく生きる人」という意味です。私は10周年を機に、がんになっても、がんが治っても治らなくても、自分の人生を楽しく豊かに生きようとしている人を支援していこう、という活動を展開しようとしていたのです。
1990年代にアメリカで、がん患者さんを「生」の観点から見直す、「サバイバー(生存者)運動」が起き、日本にも波及しました。私は、「生きる」ことを目標に据えたサバイバー運動を、さらに一歩進め、がん患者さんが楽しく豊かに生きる、「エンジョイヤー(生楽者)」運動を提唱し、普及させたいと思っていたのです。
鎌田 それは大切な視線ですよ。それが私に対する宿題なんだ(笑)。エンジョイヤーをしっかりやってくれと。
深見 このことは鎌田さんに何としても伝えておかなければと(笑)。
鎌田 先ほど4つの宿題を与えられたような気がするけれど、エンジョイヤーを含めると、5つの宿題になりますね。(エンジョイヤーの資料を見ながら)もうスケジュールもできてたんだ。すでに動き出してたの?
深見 いや、構想段階です。
鎌田 こうして深見さんの問題意識や構想を聴いていると、深見さんはがん医療界の司令塔になれる人ですよね。何とか元気になってもらわないと。深見さんが闘病している間、「がんサポート」のメドは立っているのですか。
深見 何とかやっていく手は打ってあります。また、外部から支援してくれる人もいます。いずれにしても、私の定められたいのちが、あと何年か、半年か、数カ月か、誰にもわかりませんが、社員を路頭に迷わせることのないよう、安定した形で会社を継続していけるよう、闘病中にも全身全霊で考えてみたいと思っています。
「10年の実績を生かすためここは乗り切ってほしい」
鎌田 考えてみると、この10年、本当によくやってきたよね。もうやめようと思ったことはなかった?
深見 とにかく突っ走ってきましたからね(笑)。私は大のサッカーファンですから、ドイツワールドカップも、南アワールドカップも行きたかったのですが、「がんサポート」があるので我慢してきました(笑)。
鎌田 10年間潰さないでやり続けてきたことは、本当に立派です。この10年間で、日本のがん治療は長足の進歩を遂げました。そこには「がんサポート」の力もあったと思います。「がんサポート」はがん患者さんをサポートしただけではなく、日本のがん医療もサポートしてきた。深見さんが積み重ねてきた経験、人脈、チャンネルは大事ですよ。それを次代にバトンタッチする意味でも、何としてもここは乗り越えてほしい。
深見 脳梗塞で倒れたとき、これでもう起きられないのかと、一瞬思いました。しかし、やるべきことがいっぱいあるので、ここで倒れているわけにはいかないと(笑)。
鎌田 そうね、深見さんは頭の中に、やるべきことがいっぱいあるからね。今は、その思いを語るのに、少し時間がかかっているけど、一時は言葉が出ない状態から、数日間でここまで言葉を発することができるようになったというのは、奇跡的だと思います。まだまだよくなりますよ。
深見 抗がん薬治療を再開して、よくなってきたところで、もう1回、鎌田さんと対談をして、私の思いを聞いてほしいと思います。
鎌田 正直のところ、きょうは深見さんの思いを聴いとかなくちゃと思って駆けつけましたが、よし、深見さんの言葉がクリアになった時点で、もう1回、対談しよう。深見さんのがん治療の話を、読者ももっと聞きたがっていると思う。
10年前、深見さんが信州の私の家まで訪ねてきて、「がんサポート」への協力を口説かれたときのことを、今、思い出した。私は男性の口説きにはそうそう乗らないのだけど(笑)、そのときの熱意のこもった真剣なまなざしに、私は「この人、身上を潰すんじゃないか」と思いながらも、その情熱に打たれて、協力を引き受けた。それが10年も続いた。心から尊敬しますよ。何度も繰り返しますが、ここは何としても乗り切ってください。私も「エンジョイヤー」の資料を読んで、深見さんの復帰に備えますよ(笑)。
深見 勉強しておいてください(笑)。本日は会社にまでご足労いただきまして、本当にありがとうございました。
(このあと2人はがっちりと握手して別れた――)
※深見輝明はこの対談(2月6日)のあと、2月16日盲腸がんのため永眠しました。
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