生きてる限りこのファッションスタイルを貫きたい 福祉美容師・篠田久男 × 鎌田 實
福祉美容師で施設訪問 子ども・お年寄りに笑顔

鎌田 体調が良くなってから、福祉美容師の資格を取り、最近は、一般のお客さん相手ではなく、いろんな施設をボランティアで回っているんですよね。
篠田 それが主流になっています。
鎌田 施設の子どもたちは喜ぶでしょうね。
篠田 ボクはカットに少し懲りすぎてしまう傾向がありますので、施設側にすれば程よい時間でカットも終わってほしいと思っているかもしれませんね(笑)。
鎌田 施設側は坊っちゃん刈りとか、おかっぱとかにこだわるんですか。
篠田 最近はうれしいことに施設側の方々にも信頼が出てきてヘアースタイルもおまかせになってきました。ボクはひと味加える気持ちが大事だと思いますね。それが子どもたちやお年寄りたちの笑顔を引き出すんですよ。
鎌田 そりゃあ、プロにひと味違うカットをしてもらったら、子どもたちもお年寄りも嬉しいでしょう。勇気も出てきますよ。
篠田 ハイ、それはあるみたいです。ボクはできるだけバリカンもハサミも静かなものを使用して、カットをするよう心がけています。また今日まで学んできた技術をミックスしてより良いヘアスタイルを作り上げるよう心がけています。
鎌田 まあ、カットをしてもらうほうは、プロの力を信じて、「まな板の鯉」になるしかない。(シャキ、シャキと心地よいハサミの音を聴きながら)こうして鏡に映った篠田さんの姿を見ていると、ホントにカッコイイなぁ。美人の奥さんを射止めた理由がよくわかるね(笑)。
篠田 ボクにはもったいない妻です。恋愛中より今のほうが妻を深く愛しています。ボクには世界一素敵な妻です。苦労かけたので大切に思っています。
鎌田 奥さんも篠田さんが元気になって、ホントに嬉���いでしょうね。重い障害を持ったお子さんを二人三脚で育てて来られたんだからね。お子さんはいくつに?
篠田 最近25歳になりました。子どもを育て上げていくことも大変でしたがその過程で学び取ることも多大にありました。
鎌田 大変だったろうね。それだけで十分立派だよ。もし、篠田さんが病気になっていなかったら、お店も3つ持っていたし、もっとすごかったと思う。
篠田 ボクは最終的な夢を持っていました。どこか空気のいいところに別荘を持ち、お客さんを呼んで、料理でもてなし、カットしてお帰りいただくという夢です。貸衣装部門を併設して記念写真を撮ったり、出張結婚式をやったり、そんなことも考えていました。
鎌田 篠田さんなら大成功していたと思います。
篠田 先生からの暖かい言葉はボクには言葉のギフトです。
家族のことを考えて余命 1日まで頑張る
鎌田 ステージⅣの悪性リンパ腫は、抗がん薬治療で小さくしたあと、手術で取ったんですか。
篠田 その後は血液内科での治療はなしで今日まで来ました。
鎌田 首のほうにもリンパ腫の腫れがあったようですが。
篠田 以前はありましたが治療はしていません。ボクがここまで治ったのは、鎌田先生と対談できたことが大きなきっかけだった気がします。まさかと思っていた遠い存在の先生と出会うことができ、対談までさせていただいた。そこで励まされたことは良い治療の言葉に感じられ、ボクを奮い立たせてくれたんです。
鎌田 いや、私なんか、あの対談のとき、泣いたんだよ。あんなことは初めてだったよ。
篠田 ボクは父の愛を知らないんです。鎌田先生に肉親のような温かさを感じるんです。包容力と言うんでしょうか、オーラと言うんでしょうか。それに甘えてしまいました。
鎌田 (薄茶色の染髪が始まる)あぁ、この髪の毛なら、娘も奥さんも喜ぶかも。
篠田 もう少し赤っぽい茶系にしたいと思ったんですが、抑えめにして薄い色にしました。
鎌田 悪性リンパ腫、なぜここまで治ったと思う?
篠田 病院の先生に一生懸命治療していただきましたし、周りの人たちにも励まされ、助けていただきました。また、家族のことを考えたら、このまま倒れるわけにはいかないと思い、「余命1日」と言われるまで、がんばろうと思ったんです。
鎌田 篠田さんは手術から2週間後に、「人がいないから」と頼まれて、ボランティアとして立川マラソンに参加し、知的障害を持った男の子と手をつないで走ったんですよね。腹部に手術をしたばかりなのに走っちゃうなんて、普通は考えられないことだけど、私は、篠田さんのそういう生き方が、奇跡を起こしているような気がしてならない。
篠田 そういう無茶をするという意味では、ボクはヤンチャ坊主なんでしょうね。
鎌田 走っていて苦しかったでしょ?
篠田 あのマラソンを走るということは、当時のボクにとって、かなり高いハードルでした。たしかに苦しかったです。でも、走り終えたあとは、気持ちがすごくラクになりました。あれ以後、あの苦しさ以上の苦しみは味わっていません。あの苦しみがあったからこそ、今日があると思っています。
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