「がんばらない」けど「あきらめない」 鎌田實のがんに負けないための発想の転換7箇条

発行:2004年10月
更新:2013年4月

第4条 希望を持ち続ける

病気を治すいちばん大きな力は、人の体に内在している、治ろうとする力、自然治癒力だと僕は信じています。人の体の中には、ナチュラルキラー細胞という免疫細胞とか、がん抑制遺伝子といった自らを守ろうとする細胞や遺伝子が実際にあります。希望がナチュラルキラー細胞を増やすといわれています。それなのに日本の多くの病院では、患者さんは不安の中で管理され、ナチュラルキラー細胞をむしろ減少させられているのです。治ろうとする細胞を元気づけて、自分の中から治ろうとする力を活性化させることが大切なのです。どんなときでも希望を持ち続けましょう。一つ悪い結果が出たからといって絶望に陥ってはいけません。次の新しい希望を持つことが大切です。いつでも希望を持ちましょう。

第5条 笑う

免疫機能をよくするためには、希望を持つことと笑うことが大切。がんになって笑えといわれても、顔が引きつってしまうかもしれませんが、演じるのでもいいから笑うと不思議な力を生み出します。とにかく、むずかしいことは考えないで、笑いましょう。ユーモアが大切。ダジャレでもかまわない。周りの人に笑わせてもらうのもいいが、周りの人を笑わせることができれば、免疫機能はさらに上がってきます。がんに負けない人は、実によく笑っています。

第6条 逃げない。がんと向きあうこと

医師の説明をきちんと聞きましょう。事実を認めて、逃げずに、がんと闘い、がんに打ち勝つイメージをつくることが大切。悪いことは知りたくないと思っている人が多いようですが、自分の体に起きていることを正確に把握していなければ、ベストの闘いはできません。闘うためには、きちんとした状況分析をして、戦略と戦術をたてるべきです。やるだけのことをして、あとは運に任せるのです。緻密さといい加減さの両方を大切にしながら、がんから逃げないことが大事です。

第7条 ささやかな日々の営みを丁寧に行う

「がんばる」人間って、がんばれなくなったとき、すぐにあきらめてしまう。だから初めから「がんばらない」意識をちょっとだけ、常に持っていることが大切なのです。「がんばらない」ってことは、「あるがままを認めて、だけどあきらめない、希望を捨てない、自分らしく生きる」という肯定的な意味なのです。

僕は2年前アウシュビッツに行きました。そこでいろいろな話を聞きました。ナチスの収容所で生き抜いていく人々に注目しました。無理して希望を持ってがんばる人は、希望が実現しないと気がついたときに絶望に陥り、生き抜く力を奪われたと聞きました。毎日のささやかな営みを大切にする人が、絶望の中でも生き抜いたと言っていました。

今、がんといわれ、希望なんかもてないほど、気持ちが落ち込んでいるなら、むずかしいことは考えないで、日々の営みを丁寧に行うことが大切です。

僕は、それまで「がんばる」一辺倒できた医療に対して、まず自ら「がんばらない」を掲げてやっていこうと考えました。日本人は我慢、我慢で、「がんばる」ことを哲学にしながら生きてきたけれど、それももう限界にきています。「がんばらない」という言葉を大事にしながら、その裏側に「だけど投げ出さない」という感覚を身につけていくと、病気の場合だけでなく、人生につまずいたときも、自分を苦しめず、落ち込まず、我慢しないで気楽に生きていける。そうすると、日本人はもっと生きやすくなるのではないでしょうか。

毎日の暮らしの中から健康を見ていくことが大切です。ところが最近はお手軽に、健康づくりがすぐ得られるみたいな風潮になっています。あるとき、外来診療をしていたら、患者さんに「クルミを四つ食べると血液がサラサラして、先生、だいじょうぶ、私は脳卒中で倒れない」って言われました。今、テレビで健康番組が多い。健康不安の裏返しだと思います。「これを食べれば健康になれる」という一点健康法がほとんどです。でも健康は、暮らしの仕方を変えていく過程、プロセスの中に生じるものだと思います。「これさえ食べれば私は健康だ」と思ったと同時に、不健康が始まる。

病気を一つや二つ持っていること自体は、ちっとも不健康ではありません。豊かに生きるための手段である健康を目的化してしまうことが、不健康をもたらすのです。「健康なら、死んでもいい」という言葉は、とても病的です。

健康というのは、あらかじめ一つのモデルがあるのではなく、もっと多様なものです。健康そうに見えるときでも、実は病気が隠れていたなんてザラにあるのです。病気のときも、それぞれのときに合せて健康はあり得ます。たとえがんでも、そのときの自分の状態を知り、一生懸命生きていくとき、健康はありえるのです。がんにおびえないことが重要です。がんに気持ちで負けないために、発想の転換をしましょう。この7箇条で、がんとの闘いに勝ちましょう。たとえ勝てないときでも、負けない闘い方があるのではないでしょうか。「がんばらない」けど「あきらめない」という言葉にヒントが隠されているような気がします。


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