腫瘍内科医のひとりごと 168 集中治療室体験記

佐々木常雄 がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長
発行:2024年12月
更新:2024年12月

ささき つねお 1945年山形県出身。青森県立中央病院、国立がんセンターを経て75年都立駒込病院化学療法科。現在、がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長。著書に『がんを生きる』(講談社現代新書)など多数

3日ほど前から、息切れがする。ベッドに臥床すると、なんとなく動悸を感じる。心臓が〝ここにある、ここにある〟と訴えている気がした。

左背痛、時々ある。血圧は110~120/60~70、いつもとあまり変わらない。ある大学病院で心臓・冠動脈バイパス術を受けてから13年、ステントを入れて5年。

通院している循環器内科の次の受診日には、まだ1カ月ある。担当医から「何かあったらいつでも連絡下さい」と言われていたのを思い出し、ある金曜日。朝、外来に電話をしてみた。

「11時ころまでに病院に来てください」と言われ、娘と一緒に急いでタクシーに乗り、ぎりぎり11時に病院に着いた。

心臓で金曜に緊急受診

臨時の患者担当の医師から、至急、心電図、採血、胸部X線写真を指示されて、循環器内科外来に戻った。

再度診察時に、症状を話したところ、「カテーテル班の医師を紹介するので、処置室で待つように」と言われた。

K医師が来て、左腕に点滴開始。娘は入院の手続きに行くように言われた。

しばらくして、K医師に車椅子に乗せられ、B階へ。

「今日はこのB階の集中治療室から、同じ階の血管造影室に行きます。ちょうど午後、たまたま血管造影室が空いていました。同意書はあとにしましょう。よろしいですね」

看護師が来て、「着ているものはすべて脱いで、手術衣に替えましょう」と言われ、そしてアッという間に、「もし、手首の動脈から入らないときは、鼠径部の動脈を使います。そのときのために、鼠径部の毛を剃ります」と両側、鼠径部に剃刀が入った。

後で考えると、金曜日の午後である。よほどの緊急でない限り、今を逃すと月曜日になる。そして数分後には、私は手術台に運ばれた。約1時間、右手頸の動脈から、カテーテルが入れられ、何回か冠動脈造影が行われた。終わったのが5時過ぎ、同階の集中治療室に戻った。

集中治療室で眠れぬ一夜を

なにがなんだか……、緊張の連続。ベッドでは、左腕点滴、右手頸は動脈から出血しないようにぐるぐる巻きに固定されている。

「今晩は、ここで過ごします。夜中の12時になったら、医師が右手頸の固定は緩めます。今は両腕は使えませんが、トイレでもなんでも、看護師を呼んで下さい」

夜、7時ころになって、ワゴン車にカルテを載せてきたK医師から、「大丈夫です。2年前の造影とほとんど変わらなかったですよ。大丈夫です」と言われて、画像を見せていただいた。

私は50数年、がん医療で入院患者さんを中心に診療させていただいてきた。患者さんのイレウスなど、緊急手術には立ち会ったが、この循環器科の対応の手順、スムースさは驚くほど見事だった。

夜中に右手頸のぐるぐる巻きの圧迫は取れ��。

集中治療室でのこの夜、遠くから赤ちゃんの泣き声も聞こえてきた。

看護師さんに「赤ちゃんは、どうしたの?」と聞くと、「開胸の手術をしたのです」との答えだった。

なんということか、みんな命を支えてもらっている。

どなたかが押したナースコールの音を聞きながら、褥瘡防止のため自動で空気が移動するベッドで、動悸もなく、安堵したはずなのに……、眠れぬ夜を過ごした。

ただただ、感謝の一夜であった。

同じカテゴリーの最新記事