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腫瘍内科医のひとりごと 170 がんに負けず納得のゆく人生を

思えば民主党参議院議員山本孝夫さんが、国会本会議で自らのがんを告白され、これが1つのきっかけとなり、2006年6月に国の「がん対策基本法」が成立しました。そして、翌2007年には各都道府県で毎年「がん対策推進協議会」が開催されるようになり、東京都では2008年3月、「東京都がん対策推進計画」が発表されました。そして昨年3月には国の第4期「がん対策推進基本計画」が示され、都では第3次改定がされました。
2025年開催の「東京都がん対策推進協議会」では

今年は、2月10日6時から、第35回東京都がん対策推進協議会があり、Webで出席しました。コロナ流行によりWeb会議が主になり、毎回2時間です。
終了後に、議論が足りなかった点がしばしば頭に浮かび、次回に反映されることを考えます。
この東京都がん対策推進計画は、分野別施策として、「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」「基盤の整備」に分けて計画されています。
がん予防では、1次予防としてあげられたのは主として禁煙で、喫煙率は東京都の男性は2001年の47.2%から2022年には20.2%と、最近は喫煙率がかなり減ってきました(2022年の全国男性は24.8%)。
少し気になっているのが、HPVワクチンのことです。ワクチン接種で、ほとんどの子宮頸がんを予防できるのです。HPVワクチン接種は、一時期〝神経毒性の疑い問題〟で、接種の奨励を行わなかった9年間の空白期間がありました。現在は復活してはいますが、この空白期間が、10年後、20年後にどう影響が出てくるのか? ということです。
がん死亡率は減少しているものの
がん年齢調整死亡率は、減少しています。がん年齢調整死亡率とは、たとえば、がんは高齢者が多いほど死亡率が高くなるため、基準人口に合わせて年齢構成を調節した死亡率のことです。
しかし、がんは死因の第1位であることには変わりがありません。いつも75歳未満での統計で、75歳以上の統計はどうなっているのか。高齢者でのがん死亡数が増えているため、検診など75歳以上のがん対策が今後の重要課題であると思います。これが、あまり議論されていないのが気になります。
もうひとつは、がん再発のことです。がんの診断技術が大きく進歩しましたが、再発のことについての議論は少ないように思っています。
早期診断、治療の進歩で、長期生存の方が増えてきました。それでも、死因の第1位はがんです。転移した���行がんで見つかった方が、運よく分子標的薬の発売のタイミングで使用できたため、完全に治った方がおられます。がんとの共生などの議論も進んでいますが、がんとの共生とはいっても、がんの部位により異なると思います。また、医療費のことで、とくにAYA世代では、たくさんの方が苦労されています。そして、就労、感情、心の問題では、まだまだと思います。
この2年ほどは、AI(人工知能)が医療分野にも活用されるようになりました。その一方で、いまだにいかがわしい診断や治療法が横行していますし、セカンドオピニオンの普及も気になります。
この連載を始めたのは2011年の1月号からで、「死の許容なんて必要はない」と、6カ月の命と宣告された患者に私の思いを伝えたものでした。それからこれまでさまざまな問題を取り上げましたが、亡くなった方のご遺族の深い思いも大変なことです。どうか、皆さま、検診を受け、がんに負けず、納得のゆく人生を送っていただきたいと思います。
最後に、がんの知識を得るためには国立がん研究センター「がん情報サービス」、そして各都道府県のがん対策推進計画、「東京都がんポータルサイト」をご利用いただければ幸いと思います。
今回が「腫瘍内科医のひとり言」の最終回になります。これまでありがとうございました。