【第二時限目】がんの再発と転移Ⅰ 「再発」って何? 「転移」って何?

構成●吉田燿子
発行:2003年12月
更新:2019年7月

「高分化がん」から「未分化がん」へのプロセスと不思議

しかし、それだけではありません。同じ部位のがんでも、さらに転移しやすいタイプと転移しにくいタイプに分かれるのです。

では、転移しやすいがんに共通する特徴とは何でしょうか。

それは、まず細胞の種類からお話しなければなりません。細胞には未分化細胞と高分化細胞があります。未分化細胞は胎児の細胞のように、細胞分裂が活発で、どんどん成長していく状態です。通常の細胞なら、分裂が高まりある程度分化が進むと分裂をやめます。これが正常な細胞です。

しかし、がん細胞とは、分裂をどんどん繰り返し、増殖を続けてしまう異常細胞のことです。そして、この増殖の仕方が、まるで胎児の細胞のように活発なものを「未分化がん」と呼びます。問題は、がん細胞がこの成長能力を獲得してしまうと、コントロールがきかなくなって爆発的に増殖してしまうということ。

「未分化がん」は、成長能力が大変旺盛ながん細胞の中でも、とくに増殖しやすく転移しやすいのが特徴。「がんの転移能力が高い」ということは、イコール「がんの悪性度が高い」ということでもあるのです。

これに対して、高分化のがんは、比較的転移しにくい。たとえば同じ胃がんでも、未分化の状態の胃がんはなかなか治りにくいけれど、高分化のタイプは早期発見で治るケースが多いのです。

でも、これってなんだかヘンだと思いませんか? 同じ胃がんなのに未分化の胃がんや高分化の胃がんができるのでしょうか?

これは遺伝子に原因があります。紫外線や発がん物質の刺激によって細胞の遺伝子に傷がつくと、細胞が高分化の状態から未分化になり、増殖が激しくなったり運動能力を獲得したりする。これが細胞の「がん」化です。その遺伝子の傷がどういう情報を細胞にもたらすかによって、未分化に近いがんになったり、高分化に近いがんになったりするのです。

がん細胞は、近くに伸びてきた新生血管の中に入り込み、元いた場所からはがれて血管の中を泳いでいく。

こうした異常な能力をがん細胞が獲得するのも、すべては遺伝子に傷がついて変化してしまったことが発端なのです。

もしそうだとすると、これを逆手にとらない手はない。

細胞が未分化の状態になってがんになるのだとすれば、未分化のがん細胞を高分化の状態に戻せばいいわけです。そこに注目して、最近は、細胞が分化するスピードを早める抗がん剤の開発が進められているそうです。

再発や転移をすると治らないか

それにしても、がん細胞の持つ高度な能力には驚嘆するほかありません。しかし見方を変えれば、がんの研究をすることで、医療は長足の進歩を遂げるかもしれません。

現にがんの増殖能力を利用して、指先欠損の治療やアルツハイマーの特効薬に応用する研究も進められているようです。こうなると、がん細胞もあながち、はた迷惑なだけの愚連隊とはいえませんね。将来はがん細胞も更生してベンチャー企業の社長になり、新薬開発で世のため人のために尽く���……なんてことも夢ではないかもしれません。

さて、がんに対して皆さんが感じる最大の不安とは、「再発や転移をすると治らないのか」ということではないでしょうか。

たしかに、再発がんが、最初にできたときよりも治りにくいのは事実です。

それはひとつには、再発がんが転移能力や血管を作る能力に磨きをかけ、悪性のものになっているケースが多いため。

もうひとつは、がん細胞が最初の治療で使った抗がん剤に対して耐性を持ってしまい、再発後は同じ抗がん剤を使っても効かないことが多いためです。

いたずらに不安がらず、日々、免疫力を高めていく

私の姉も乳がんの再発を経験しています。最初の手術のとき、主治医は、ここで抗がん剤を使ってしまうと、がん細胞のほうに耐性ができてしまい、万一再発したときに効き目が弱くなってしまうかもしれない、というリスクを話されました。しかし、姉は「もし5年後に再発したとしても、そのときにはもっといい薬ができているはずだから」と考え、抗がん剤を使いました。

私も、姉の考え方は正しいと思います。

すべてをマイナスに考える必要はないのです。がんはたしかに恐ろしい力を持っています。しかし、それを研究することで、がんの治療法が確実に進歩しているのも事実です。

いたずらに再発や転移を恐れるのではなく、気を楽にして、定期的に検査を受け続ける。体によくて美味しいものを食べて、明るく楽しく生きていく。そうして免疫力を上げることが、がんの再発を防ぐ一番の方法かもしれません。

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