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- 赤星たみこの「がんの授業」
【第四時限目】腫瘍マーカー 教訓!「腫瘍マーカーの数値に一喜一憂しないこと」!!
数値の変動をチェックしながらがんの進行状態を知る
では、腫瘍マーカーによる診断は、実際にはどのように行われるのでしょうか。
先ほどもふれたように、マーカーの数値には個人差があります。AさんとBさんが同じ腫瘍マーカーの検査を受け、仮に同じ数値を示したとしても、Aさんは陽性でBさんは陰性だったということがありうるのです。このため、正常値をはるかに超える結果が出た場合はともかく、普通は以前と比較して値がどう変化したかをチェックすることになります。
手術の前に行う腫瘍マーカー検査は、転移の可能性を探るために行うものです。また、手術の後、定期的に行う腫瘍マーカー検査では、がんの再発の可能性がチェックされます。
たとえば抗がん剤治療を行っている場合、腫瘍マーカーの値が一定であれば、使用中の抗がん剤が効いていると判断することができます。この数値が上がってくると、がん細胞が抗がん剤に対して耐性を持ってしまった可能性が考えられるので、抗がん剤の種類を変えるなど、治療方法の切り替えを行う参考にすることもあります。
しかし、とくに理由もなく腫瘍マーカーの数値が急激に上昇した場合は、がんの悪性化が進んでいる可能性があります。このように、数値の変動をチェックしながら、がんの進行状態を知る目安とするのが、腫瘍マーカーの一般的な利用方法といえます。
一方で、現在の腫瘍マーカーの使われ方に疑問を投げかけるお医者さんがいるのも事実です。ある専門医の先生はこんなふうに話してくれました。
「日本の病院では、がんの再発をチェックするための術後の腫瘍マーカー検査が習慣化していますよね。でも、これは実はあまり意味がないんです。なぜなら、再発がんの場合は、仮に早期発見できたとしても、根治できる可能性がそれだけ上がるわけではないからです」
腫瘍マーカー検査の最大の弊害は、患者さんのストレス
つまり、再発がんの治療法が確立していない現代の医療では、いったん転移すると根治がむずかしい。再発がんの早期発見にそれほど意義が見出せないにもかかわらず、腫瘍マーカーの検査だけはひんぱんに行われている。「目的がはっきりしない検査を習慣的に行うのは、日本の医療の悪いクセ」というお医者さんの意見には、たしかにうなずけるものがあります。
アメリカでは現在、根治の可能性が高い一部のがんを除き、腫瘍マーカー検査をひんぱんに行うことはなくなっているそうです。ところが日本では、とりあえず、念のために腫瘍マーカー検査を行い、数値が上がってきたら抗がん剤を打つ。もちろん、耐性を持つがん細胞の数が少ないうちに抗がん剤を打ったほうが、延命に結びつく可能性も高くなるかもしれません。しかし、再発がんの根治がむずかしいという事実は変わらない。「とりあえず」「念のため」が好きなのは、日本人の国民性なのかもしれませんね。
腫瘍マーカー検査をひんぱんに行うことから来る最大の弊害は、患者さんのストレスの問題です。患者さんは再発がんにおびえながら、腫瘍マーカーの値の変化に一喜一憂し、数値が上昇すると目に見えて憔悴してしまう……。そのことで患者さんの体が抵抗力を失い、がん細胞にさらに勢いを与えてしまったとしたら、まさに本末転倒ですよね。
腫瘍マーカーの数値はがん以外でも上がる

私自身も、腫瘍マーカーの検査結果について主治医の先生にこう言われたときは、かなり落ち込んだものです。
「ウーン、今回、腫瘍マーカーがちょっと上がってるんだよねー」
「えっ……」
「このところずっと、少しずつ上昇カーブを描いているんだよ。正常値の範囲内だけどね」
暗い顔で帰宅した私が夫に報告すると、夫は即座にこう断言したのです。
「腫瘍マーカーはそんなに信頼性が高いもんじゃないから、心配ないよ!」
その言葉を聞いてフッと力が抜けました。主治医の言葉より素人の夫の言葉に救われたわけですが、夫は私ががんになったのをきっかけに、がん医学の専門書を片っ端から読破していたのです。まるっきり素人というわけではない、と私は夫を信頼していたのです。
その経験から得た教訓は、「腫瘍マーカーに一喜一憂しないこと」。
腫瘍マーカーの数値には個人差もあるし、多少数値が高いからといって、即、がんの再発ということにはならないのです。血液検査だけで済むならいいけれど、CTやMRIも行うとなれば、医療費もかさみます。
こうした事実を念頭において、「本当にこの検査が必要なのか」について、主治医の先生とよく相談してみてはどうでしょうか。もちろん、多少ビクビクさせられたとしても、腫瘍マーカー検査をしたほうが自分は安心だと思うのなら、それもひとつの選択です。
いずれにせよ、よりよい検査や治療を受けるためには、患者の側も自分なりに勉強したほうがいいと思います。
私の場合は夫が医学・医療の勉強をしてくれたおかげで、腫瘍マーカーの数値が上がってもうろたえなくてすんだし、情報収集、知識の蓄積はとても大きな武器になると私は思います。
今はインターネットからも、がんの検査や治療法についてかなり詳しい情報を得ることができます。
「私はがん全般に関しては素人だけど、自分自身のがんについては誰にも負けないくらい詳しくなってやる!」くらいの思いで、がんと向き合ってみませんか?
がんをむやみに恐れるのではなく、正しい知識と最新の情報で立ち向かいましょう!
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