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- 赤星たみこの「がんの授業」
【第六時限目】内視鏡検査・手術 内視鏡検査を受けるには医者選びが肝心
わかってほしい、検査を受ける患者の苦痛

私は91年ごろに胃カメラをのんだことがありますが、これがもう、本当に苦しかったんです! それは実に単純なミスで、喉の奥を麻酔する薬を、私がちゃんと服用しなかったからです。麻酔薬をうがいをするように喉の奥まで到達させていれば、胃カメラを飲むときのあの痛さはかなり軽減していたはずでした。それを、口の先だけで溜めていたので、しびれたのは唇のまわりだけだったのです。おかげで内視鏡の先端が喉を通るときはものすごくつらい思いをしました。あまりのつらさに、なんと私は「ヤメテ! もういいです」と言って、自分でズルズルと胃カメラを引き出してしまい、先生に叱られたほどです。
とりあえず最後まで検査はしましたが、でも、せめて「あと何分で終わりですよ」とか、「あと何センチ入れれば終わりですからね」などと教えてほしかった。それだけでも、検査を受ける患者の苦痛は和らぐものなんです。それと、事前に「うがいをするようにして、しっかり喉の奥まで麻酔薬を入れてください」という説明をしてくれるといいと思います。
熟練度というのは、実際にカメラを左右に動かすやり方だけではなく、患者さんへの事前の説明がどれだけうまくやれるかということも含まれると思います。どうやって説明すればうまく伝わるか、というのは患者さんにアンケートを取るとか、そういう簡単な方法でわかるはずですから、医療関係者の方たちは、ぜひ、患者さんの声を拾い上げて欲しいと思います。
切り開かず、傷つけず、痛みもない

ところで、内視鏡検査を行う場合、がんを見落とす危険はないのでしょうか。
*憩室や虫垂などにできた一部のがんを除けば、内視鏡検査は「最も死角が少ない検査法」だといわれています。とはいうものの、人間が判断する以上、見落としの危険は常について回ります。
最近は、見落としをなくすためにも、内視鏡の映像を記録して保管することの重要性が叫ばれ始めています。実際には保管コストの問題もあり、すべての内視鏡のデータを保管するところまではいっていないようですが、病院によっては、患者の希望に応じて、内視鏡映像のビデオやDVDを有料で提供するところもあります。
最近では内視鏡を使った手術もさかんに行われるようになりました。
今では、前がん状態の粘膜内がん(がんもどきとも言われる)なら内視鏡で簡単に切り取ることができるし、内視鏡の発展型である腹腔鏡や胸腔鏡などが開発され、これらを用いた手術も徐々に広まり出しています。
では、内視鏡を用いた手術はどのように行われるのでしょうか。内視鏡手術では、まず口やお尻などから内視鏡の管、すなわち先端に鉗子やワイヤー、注射針などを付けた棒状の器具を挿入します。ポリープ状の早期がんの場合は、がんの根っこのくびれた部分に輪の形をしたワイヤーをかけ、高周波の電流を流して焼き切った後、鉗子で取り除きます。がんが平らな形のときは、患部に生理食塩水を注入して粘膜を浮き上がらせ、ワイヤーがかかりやすいようにして焼き切るのです。
私自身は内視鏡手術を受けたことはないのですが、知人が受けた卵巣嚢腫の内視鏡手術のビデオを見せてもらったことがあります。そのビデオには、レーザーメスで嚢腫をジュッと焼き、患部を生理食塩水でシューッと洗い流す場面などが鮮明に映っていました。それを見て、「すごいなあ、医学の進歩ってすごいなあ」と、またまた感心したものです。
一般に外科手術は、患部を切り取るために健康な組織まで切り開くわけですから、精神的にも肉体的にも大きなストレスがかかります。しかしこの方法なら、体を大きく切り開く必要はなく、傷も小さくてすみます。手術後の痛みもほとんどなく、回復も早い。傷跡が小さいので、場所によってはビキニの水着もOK。美容上の問題も難なくクリアできるとあって、患者の側からみれば、まさに言うことなし! すべての手術を内視鏡でやってもらいたいと思いますが、すべてというわけにはいきません。
*憩室=胃や腸にできた、袋状にとび出した部分
進行がんの治療には注意が必要
では、内視鏡で病変を見つけた場合、その場で切り取るか、外科手術に回すかの判断はどのように行うのでしょうか。
一般には、がん細胞が粘膜内部にとどまっている初期のものか、粘膜下層でも大きさが1センチぐらいまでのがんであれば、内視鏡でみつけたときに切除してしまうことが多いようです。
しかし、注意が必要なのは、進行がんのケースです。最近は、進行がんにも腹腔鏡や胸腔鏡などの内視鏡手術で対応しようと試みる医療機関が増えています。しかし、その場合は、外科手術よりも再発の危険が大きいことを知っておく必要があります。なかには病状が進行しているにもかかわらず、進行がんを内視鏡手術で治そうとして、ドクター・ショッピングを繰り返す患者さんもいるそうです。しかし、無理に内視鏡手術を強行すると、がん細胞を取りきれず、かえって転移・再発を誘発・増悪することになりかねません。「内視鏡はすべてのがんに適用できるわけではない」。このことは、患者の側もよく知っておいたほうがいいと思います。
とはいうものの、将来は内視鏡も治療や手術の面で一層の進歩を遂げるにちがいありません。さしあたりは、がんの早期発見・早期予防のために、積極的に内視鏡検査を受けてみてはどうでしょうか。恐がることはありません、心配なら、なるべく上手なお医者さんを探せばいいのです。まだ「がんもどき」のうちに、がんを摘発し、その場でやっつけてしまえるなら、これほどありがたいことはないのですから。
本郷メディカルクリニック TEL:03-5842-7415
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