【第七時限目】外科手術 手術万能から、手術を含めた集学的治療へ

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学外科助教授
構成●吉田燿子
発行:2004年5月
更新:2019年7月

完治させる可能性が高い外科手術

ところで、がんの治療法として考えた場合、手術はどういう場合に有効なのでしょうか。

それは、「がんが局所(発生場所)にとどまっている場合」です。1センチのがんの中には10億個のがん細胞があるそうですが、これだけの量のがん細胞をゼロにするには、やはり手術で切除するのが一番手っとり早いのです。だから、もし、がんが原発巣にとどまっていて転移していない状態であれば、手術によってがんを完治させる可能性が高いといっていいでしょう。

問題は、がんが転移した場合です。目に見えないがん細胞が血流に乗って体内に散らばってしまえば、それらをすべて手術で取り切ることは難しくなります。そこで、全身に治療効果があるホルモン療法や抗がん剤治療などを手術と併用したりして、全身に広がったがんを叩くことになります。これが、現在行われているがんの一般的な治療法です。

では、「手術による治療が有効」と診断されたとしましょう。すると、今度は「どこまで切り取るか」という問題が出てきます。広く大きく切除する「拡大手術」にするか、最小限の部位を切除する「縮小手術」にするか、という問題です。がんの再発を防ぐためには、がん細胞が散らばっている可能性がある周囲の組織も、ある程度は切除しなければならない。しかし、切除する範囲が大きければ大きいほど、合併症や後遺症が深刻になる。その辺の兼ね合いが難しいのですね。

後遺症や美観に配慮した縮小手術が主流

乳がんに例をとって考えてみましょう。乳がんの治療法としては、19世紀末以来、乳房や脇の下のリンパ節だけでなく、胸の筋肉や脂肪まで大きく切除する手術が広く行われていました。なぜなら、乳がんはまず脇の下のリンパ節に転移し、それから血液に入って全身に転移すると考えられたためです。

再発を防ぐため、がんが転移した可能性がある周辺の組織まで、広範囲に切除する。確かに安全かもしれませんが、しかし、大きな犠牲を患者さんに強いるものでした。手術で乳房から脇の下にかけて大きくえぐりとられることによる、上腕のむくみや美容的損失などのさまざまな後遺症と精神的な苦痛。それに患者さんは耐えなければならなかったのです。

1970年代に入ると状況は変わってきます。乳がんの「拡大手術」をしたからといって、再発を防ぐ効果が目に見えて上がるわけではない、ということがわかってきたのです。このため今では、乳房全体ではなく、がんの周囲とリンパ節だけを切除し、あわせて放射線治療を行う「乳房温存療法」が主流になっています。

手術の範囲を限定して後遺症や傷跡の美観にも配慮し、患者さんのクォリティ・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を高める、これが「縮小手術」の考え方です。しかし、手術の範囲を限ったことで、主病巣の周囲に残る微細ながん細胞を取り残すのでは意味がありません。ですから、縮小手術を行う場合は、放射線治療などを併用するのがふつうです。

最近は放射線治療や抗がん剤治療の進歩もあって、縮小手術が選ばれる傾向にあるようです。でも、「拡大手術」をとるか、「縮小手術」をとるか――これはハムレ���トならずとも悩ましい問題ですよね。がんは百人百様ですから、双方のメリット、デメリットを両天秤にかけながら、主治医とよく話し合って最善の治療法を選択するしかない。その最終的な判断は、実は、私たち患者自身にゆだねられているのです。

一方で、こうしている間にも医療技術はめざましく進歩しています。たとえば、強力なエネルギーでがんを破壊するレーザー治療もそのひとつです。また最近では、“飛び出す映画”の原理を応用した三次元画像システムによる内視鏡手術も行われています。この方法なら、内視鏡の立体画像で体内の様子が鮮明につかめるので、さほど内視鏡に慣れていない外科医でも、比較的安全に手術を行うことができるそうです。

ほかにも、外科医の手の動きに合わせて手術を行う「手術支援ロボット」や、このロボットと通信回線を利用して、専門医が遠隔地から手術をする「遠隔手術」など、まるでSFのような世界が現実になろうとしています。私たちもあまり悲観的にならず、前向きな気持ちで医療の未来に期待しようではありませんか。

大切なのはリラックスすること

最後に、私の経験から一言アドバイスを。がんの告知を受けたときはだれしもショックなものですが、手術を受けるときに一番大切なのは「リラックスすること」です。

なかには「がん」と聞いただけでパニックになり、病院ジプシーとなって漂流する人もいます。でも、冷静になることを放棄するような態度は、百害あって一利なし。「そんなの、冷静になれるわけないじゃん!」なんて言わないで、「落ち着こう。落ち着くんだ!」と、自分をマインドコントロールしてみましょう。自分が冷静にならずして、自分の治療法を責任持って選択することはできない、そのことだけはたしかなのですから。

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