【第八時限目】抗がん剤治療Ⅰ 抗がん剤って何? 本当にがんに効くの?

構成●吉田燿子
発行:2004年6月
更新:2019年7月

使われ方にもいろいろある

ところで、いま医療の現場では、抗がん剤はどのように使われているのでしょうか。

抗がん剤の使われ方にはいろいろなパターンがあります。

そのひとつが、がんの摘出手術をした後、再発を防ぐために抗がん剤を使う使い方です。従来「補助化学療法」と呼ばれていた方法ですが、最近は手術の「補助」ではなく、れっきとしたメインストリームの治療のひとつとして認識されています。一方、がんが全身に転移しているようなケースでは、手術をせずに、抗がん剤でがんを小さくし、症状を緩和したり延命を図る方法がとられます。

このほか、乳がんなどでは、抗がん剤でがんを小さくしてから手術をする「術前化学療法」が行われています。これは、乳がんの場合、治療を始めたときにはがんが大きくなっていたり、すでに微小ながんが転移していたりするケースが少なくないからなんですね。

そこで、がんの原発巣を抗がん剤で小さくし、転移したがんも早めに叩いてしまう。そうすることで、大きいがんでも乳房を全摘せずに、がんの周りだけを切り取る「乳房温存療法」が可能になるわけです。

このように、がんの種類や抗がん剤の種類、人それぞれの症状や進行の度合いによって、抗がん剤の使われ方はさまざまです。

また、副作用の表れ方もケースバイケースなので、患者さんと抗がん剤の“相性”を慎重に見極めなければならない。それだけに、抗がん剤の選択や使い方については、患者さんと主治医の先生がよく話し合うことが必要です。

ここまで、抗がん剤の基礎知識をザッとおさらいしてきました。

抗がん剤でがんは治るか

しかし、皆さんが一番お知りになりたいのは、「抗がん剤で、がんは本当に治るのか」ということではないでしょうか?

抗がん剤の効果を判定するにあたっては、「腫瘍が半分以下になったかどうか」が医学的な基準となります。臨床試験でがんの大きさが半分以下になり、その状態が4週間以上続いた場合に、「この薬剤はがんに対して有効性がある」、つまり効果があると判断されます。

抗がん剤の効果を示す「有効率」「奏効率」という言葉があります。たとえば、100人の患者さんにAという抗がん剤を投与したとする。そのうち20人以上の人に対して有効性が認められれば、「Aという抗がん剤は20パーセントの有効率がある」と言います。

最低20パーセントの有効性がなければ厚生労働省から薬の認可が下りませんが、「抗がん剤が効く」ということは、「がんが治る」ということを意味しているわけではないのです。

もちろん医療の現場では、がんの根治をめざして抗がん剤治療が行われていることはいうまでもありません。しかし、実際にはなかなか根治というわけにはいきません。

それは、ひとつには「薬剤耐性」の問題があるからです。

ある抗がん剤を長期間使っていると、がん細胞が耐性を持ってしまい、その抗がん剤が効かなくなってしまうのです。

強面の白バイ隊も、慣れてしまえば怖くない、というわけです。

���外の標準抗がん剤を使えるようにしてほしい

その場合は他の抗がん剤を使えばいいのですが、問題は、認可されている抗がん剤の数に限りがあること。ということは、闘病が長引けば長引くほど、使える抗がん剤の数が少なくなってくる。

にもかかわらず、日本では、世界でスタンダードに使われている抗がん剤でもいまだに未承認になっている薬が多いのです。がんの患者さんにとっては、それこそ死活問題です。

だからこそ、厚生労働省には声を大にして言いたい。

「海外で認められているスタンダードな抗がん剤ぐらいは、早く使えるようにしてほしい!」と。

……これが、抗がん剤治療を取り巻くきびしい現実です。

とはいうものの、悲観することはない、と私は思うのです。

なぜなら、先ほども紹介したように、最近は、昔とは比べものにならないほど効果の高い画期的な抗がん剤が、次々と開発されているからです。

たとえば、白血病や悪性リンパ腫、睾丸腫瘍、絨毛がんなど数種類のがんは、今では抗がん剤だけで治すことも可能だといわれています。

では、実際には抗がん剤の治療はどこまで進んでいるのでしょうか。

それについては、次回に詳しくご紹介したいと思います。

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