【第九時限目】抗がん剤治療Ⅱ 副作用のつらさはガマンしないで訴える。これが抗がん剤治療の秘訣

構成●吉田燿子
発行:2004年7月
更新:2019年7月

多彩な攻め方でがんを攻撃する

ところで、医療の現場では、抗がん剤はどのように使われているのでしょうか。

現在、主流となっているのが、複数の抗がん剤を併用する「多剤併用療法」です。「抗がん剤の効果を最大にし、副作用を最小にする」ためには、今のところこの方法がベストでしょう。

抗がん剤は薬の種類によって、がん細胞に働きかける作用が異なります。いわば、「攻め方」が異なるわけです。

これは、サッカーなどのスポーツにたとえるとわかりやすいかもしれません。たったひとつの攻めパターンしか持たないチームよりは、敵の出方に応じて多彩な攻めが展開できるチームのほうが、どうしたって強い。速攻で攻める選手、パスが得意な選手、守りが得意な選手、いろんな選手がいたほうがいいですよね。

同じように、1種類の抗がん剤だけを使うよりも、複数の抗がん剤を使ったほうが、バリエーションのある効果的な攻撃が可能になります。これが、多剤併用療法が効果的な理由のひとつめです。

ふたつめの理由として、「多剤併用のほうが副作用を軽くできる」ということがあります。

抗がん剤は、正常な細胞には「毒」となる物質から作られています。このため抗がん剤を投与すると、がん細胞をやっつけると同時に、正常な細胞にもダメージを与えてしまいます。これが「副作用」の原因です。

一般薬では、よほどたくさん使用しないかぎり副作用は出ないし、大抵はそんなにたくさん使わなくても薬の効き目が出ます。ところが抗がん剤の場合は、一般薬とちがって、効果の表れる量と副作用の出る量にあまり差がありません。このため、効果が出るまで量を増やしたとたん、副作用にも苦しむことになってしまうのです。

そこで、多剤併用療法です。複数の抗がん剤を組み合わせると、単剤を使用するよりも全体の薬の量を抑えることができます。つまり、より少ない副作用で、より高い効果を上げることができるのです。

患者の立場に立った治療を

では、抗がん剤治療はどのようなスケジュールで進められるのでしょうか。

一般には、(1)薬を投与する時期、(3)効果が表れる時期、(2)体力回復期の三つを合わせて1サイクル(1クール)とし、これを何回か繰り返す形で治療が進められます。

また1日の中でも、「抗がん剤を投与するのに適した時間」というのは、たしかにあるようです。たとえば、大腸がんは夜間に細胞分裂が活発になるので、抗がん剤は夜に投与したほうが効果的だし、副作用も小さい。ところが、そういう場合でも、日本ではお医者さんや看護師さんの負担を減らすため、昼間に治療を行うケースが多いと聞きます。

現場が大変なのはわかりますが、患者の側からいえば、やはり「ベストな状態で抗がん剤治療を受けたい」と願うのは当然のこと。「抗がん剤の治療を夜にしたほうが効果的な場合は、ちゃんと夜にやって欲しい!」これは、声を大にしていいたいところです。

さて、副作用の話が出てきたところで、ぜひふれておきたいことがあります。それは、抗がん剤の副作用��の対策はめざましく進歩している、ということです。

たとえば、ブリプラチン(一般名シスプラチン)やアドリアシン(一般名アドリアマイシン)などの抗がん剤を使うと、しばしば強烈な「吐き気」や「嘔吐」に悩まされます。しかし、いまではよい制吐剤が開発されたこともあって、こうした症状は、ほぼ気にならない程度にまで抑えることができます。

また、副作用の中でも怖いもののひとつに「骨髄抑制」があります。抗がん剤によって骨髄の造血細胞がダメージを受けると、新しい血球を作れなくなる。この骨髄抑制によって白血球の数が減ると、患者さんは感染症などの危険にさらされてしまいます。しかし、90年代に、体内で白血球の増殖をうながす「G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)」が発見されたことがきっかけとなって、骨髄抑制の治療薬が開発されました。そのおかげで、私たちは安心して抗がん剤を使うことができるようになったのです。

「こんなにつらい」と訴えよう

さて、私はこの場を借りて、患者さんにぜひお薦めしたいことがあります。それは、「副作用をガマンしないこと」です。

私たち日本人は、「万事に遠慮深くて忍耐強い」という美質を具えています。それだけに、少々副作用があっても、つい我慢をしてしまいがちです。でも、副作用のつらさは本人にしかわからない。苦しいときは、日頃の美質をかなぐり捨てて、主治医の先生に遠慮なく訴えましょう! 「ここが痛い」「こんなにつらい」と医師に伝えることは、抗がん剤治療を進める上での知識やノウハウとなって生きてきます。患者さん1人ひとりが副作用のつらさを訴えることが、明日の医療をよりよいものにするのです。

「あなたの我慢は万人のソン」。

このことは、ぜひ頭に入れておいていただきたいものです。

前回と今回の2回にわたり、抗がん剤について皆さんと一緒に学んできました。

抗がん剤も、ただ漠然と恐れているのでは意味がありません。自分のがんを知り、それに合う抗がん剤とは何かを勉強することが第一歩です。

まずは「敵を知って、味方につける」。お医者さんと一緒に情報を集めながら、前向きに治療を進めましょう。そんな“アクティブ療法”は、きっといい効果を生むと思います。

今回、紹介した抗がん剤は、全国的に広く使われるようになってきています。しかし、選択肢は無論、これだけではありません。医学の最前線では、いまこの瞬間も、新しい抗がん剤の研究開発が時々刻々と進められているのです。

希望を失わず、前向きに。そして情報収集。何度も繰り返しますが、これががん治療の最善の方法ではないでしょうか。

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