【第十時限目】ホルモン療法 副作用が軽微な治療法、ホルモン療法ってどんなもの?

構成●吉田燿子
発行:2004年8月
更新:2019年7月

ホルモン療法の副作用

さて、ホルモン療法のもう一つのメリットに、「他の抗がん剤と比べると、副作用が穏やか」ということがあります。抗がん剤の治療では、吐き気やだるさ、脱毛、骨髄抑制などの強い副作用をともなうのが普通ですが、ホルモン剤の場合、これほど激しい副作用に悩まされることはありません。

ところが、意外なところに伏兵がいました。それが「更年期障害」です。

「更年期障害? そんなの誰にだって来るし、たいしたことないでしょ」と思わないでください。更年期障害はその苦しさをわかってもらいにくいことから、人知れず悩み苦しむ人が多いのです。

かく言う私も、子宮頸がんの手術をしたときに卵巣を摘出し、更年期障害に苦しんだ経験があります。症状として顔のほてりや多汗、むかつき、動悸、腰痛などがありますが、もっと深刻なのが精神面の影響です。意味もなく落ち込んだりイライラしたりして、理不尽にも周囲の人に当り散らしてしまう。私も夫と何度となく離婚を考え、夫婦仲や友達関係も険悪になったものです。

また、更年期障害は女性だけのものではありません。ホルモン療法の影響で男性にも更年期障害が出るのです。

私の義父が前立腺肥大の治療でホルモン剤を服用していたときのことです。義父は70代ですが、いつもはとても元気な人でした。その父が、ホルモン療法を始めて半年ほどたったころ、グッタリと落ち込んで、泣いたりわめいたりするようになったのです。

夫の実家に電話をかけると、電話の向こうから怒鳴り声が聞こえる。これは更年期障害だわとピンと来て、「お義父さん、ツライねえ。わかるよー」と慰めたら、「そうなんだよ、ツライんだよー」と電話口で泣くんですね。

義父はホルモン療法を受ける前に「この治療を受けると女性の更年期障害に似た症状が出ますよ」ということを聞いていたにもかかわらず、自分の体と心に起きた変化についていけなかったのです。

もれなく更年期障害がついてくる!!

更年期障害とは、ホルモンバランスが乱れた時期(つまりこれが更年期のことです)に起きる体の不調のことです。ホルモン療法では擬似ホルモンやホルモンをとめる薬を体に入れますから、必然的に体内のホルモンバランスが今までと変わってきます。バランスが乱れるといろいろな症状が出てきます。その症状が「障害」になるのか「症状」程度ですむのかは、事前の心構え、そして周りの理解によってかなり違ってくると思います。

ホルモン療法を受けて必要以上にイライラしたり落ち込んだら、更年期障害だと見てまずまちがいなしです!

「ホルモン療法には、もれなく更年期障害がついてくる」ということを頭に入れて、必要な治療を受けることをお薦めします。更年期の治療には抗うつ剤や漢方薬も効果的ですし、ホルモン療法を受けながら更年期障害を和らげることも可能なのですから。

女性ホルモンのエストロゲンを補充すると、場合によっては子宮体がんや乳がんのリスクが高くなるといわれています。

しかし、同じ病院の若い先生に相談したところ、「あなたの場���は子宮頸がんですから、まあ大丈夫でしょう。最近はホルモン療法もやる流れになってきていますからね」と、すんなり薬を出してくれました。同じ病院でも医師によってずいぶん考え方がちがうんだなあと驚いたものです。

現在、ホルモン剤の使用にあたっては、抗がん剤と併用するケースが多いようです。しかし、効果のほどは証明されているとはいいがたく、併用療法とホルモン剤の単剤使用のどちらが有効なのかはよくわかっていません。

ともあれ、ホルモン療法に対する考え方や知識レベルは、医師によって千差万別です。

たとえばホルモン・レセプター一つとってもいろいろな種類があり、乳がんでホルモン療法を受けるときには、事前の検査で「エストロゲン・レセプター」と「プロゲステロン・レセプター」の2種類を調べる必要があります。

しかし、ホルモン剤のことをよく知らない医師だと、1種類の検査でこと足れりとしてしまう場合も少なくない。そもそも検査自体をしないケースもあるというのですから、注意が必要です。

ホルモン剤に詳しい先生も限られています。そこで、患者としては、ホルモン剤に精通した内科の先生がいるのであれば、手術後にセカンドオピニオンを求めるのも一つの方法です。

めざましい進歩を遂げるホルモン療法に期待

いずれにせよ、ホルモン療法は近年めざましい進歩を遂げています。何よりも、他の抗がん剤と比べて副作用が弱く、正常な細胞へのダメージが少ないのは大きな魅力! というわけで、ホルモン療法の未来には大きな希望を寄せたいところです。

患者さんの側でも、もし自分の病気にホルモン療法が適用できそうな場合は、主治医の先生に提案してみるのもいいかもしれません。積極的に勉強して、病気の治療法に対する選択肢をどんどん広げていきましょう。そのポジティブな姿勢こそが、がんと闘う原動力になるのですから。

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