【第十三時限目】がんと免疫 免疫療法は開発途上。過信せず、賢くつき合おう

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2004年11月
更新:2019年7月

思うように上がらない「免疫療法の効果」

ところで、がんの免疫療法の中でも注目されてきたものに、「養子免疫療法」があります。

この療法では、まず患者の体内から免疫細胞のリンパ球を取り出し、実験室で増殖・活性化させます。こうしてバージョンアップしたリンパ球を患者の体内に戻して、がんと闘わせます。

いってみれば、患者さんのリンパ球を外に“養子”に出して、他人に育ててもらうようなもの。だから養子免疫療法というのだそうです。

この養子免疫療法も、残念ながら、治療成績は思うように上がっていません。しかし、肝臓がんでは再発防止のための補助療法として使えば効果があるそうです。つまり、がんが大きくなったら太刀打ちできないのですが、がんが目に見えない小さいうちならやっつける能力はある、ということです。

この他にも、免疫療法の最先端では、ワクチン療法や遺伝子療法など、さまざまな治療法の研究が続けられています。なかでも興味深いのが、「樹状細胞」をがん治療に利用しようという試みです。

樹状細胞は免疫細胞の一つで、強力な抗原提示能力があることで知られています。つまり、がん細胞がどんなに逃げ隠れしようと、がんの看板を立てて目立たせ、リンパ球を現場へ急行させる力を持っているのです。

現在研究されているのは、この樹状細胞を患者さんの体内から取り出し、免疫誘導能力をパワーアップさせて体内に再注入する方法です。そうすれば、がんの抗原がしっかり目立ち、免疫システムが総攻撃をかけることができる、というわけです。

しかし、この方法もまだ臨床試験の段階で、残念ながら実用化のめどは立っていません。

このように過去30年間、さまざまな免疫療法が登場し、研究が進められてきました。ところが、腎臓がんや悪性黒色腫といった一部のがんを除けば、思うような効果が上がっていないのも事実です。

健康食品・代替療法は主治医に相談してから

それと反比例するかのように、世間では免疫力アップをうたった健康食品や代替療法が盛んに喧伝されています。では、私たちは、こうしたものとどうつきあっていけばよいのでしょうか。


たとえばキノコの一種である「アガリクス」。これはあるお医者さんから聞いた話ですが、同じ病室で抗がん剤治療を受けていたがん患者さんが、次々に亡くなったことがあったそうです。よく調べてみると、その病室の患者さんが医師に内緒で大量のアガリクスを飲んでいた。アガリクスにはそれなりの薬効があるので、投与中の抗がん剤と相乗効果を起こし、劇症肝炎を起こして亡くなってしまったというのです。

こうした健康食品にまつわる最大の問題は、「医療者によるコントロールがきかない」ということです。病院の処方薬の場合、医師の指導のもとに適切な量を飲むことができます。ところが、健康食品には規制がないものだから、「体にいいから」といって、安心して大量に服用してしまう。これが問題なのです。

だから、私はここで声を大にしていいたい。「免疫力アップをうたった健康食品だからといって、むやみに摂るのは危険です。服用するときは、必ず主治医に相談しましょう!」と。

実際、免疫の仕組みは大変複雑で、一筋縄でいくようなものではないのです。その証拠に、免疫力が高まりすぎると、逆に病気になってしまうこともある。その代表的な例がアレルギー疾患やウイルス性肝炎です。

だから、単純に「免疫力が上がればいい」というものではない。それほど人間の免疫の仕組みは複雑にできているのです。

免疫学というのは進化の途上にあり、今後発展する余地を十分に残しています。免疫療法だって、将来、画期的な治療法になるかもしれません。しかし、どんなものにも過剰な期待は禁物です。免疫力神話を盲信して、健康食品やサプリメントに依存していては、かえって健康を害しかねないのですから。

それよりも、正しい情報を学びながらバランスのよい食生活を送り、ニコニコ笑って体の自然治癒力をべースアップしていく。

それが、賢い患者の生き方なのではないでしょうか。

劇症肝炎=肝細胞が急激に大量に壊れることにより、その機能が低下していく病気

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