【第十四時限目】がんの進行度 正面からがんと向き合うために、まずはがんの進行度を理解しよう

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2004年12月
更新:2019年7月

TNM分類はがんの攻略法を見つけるカギ

さて、少し話が横道にそれましたが、TNM分類に話を戻しましょう。

がんの進行度が、T=腫瘍の大きさ、N=近くのリンパ節への転移状況、M=他臓器への転移状況、この3つの要素で決められるということは、小さくて転移がなく局所にとどまっているがんが「初期のがん」、ということでもあります。反対に、がんが大きくなり、リンパ節や他の臓器への転移が進めば進むほど、「進行したがん」だとみなされるわけです。

ところが、必ずしも「大きければ進行がん」とは言い切れないのが、がんという病気の厄介なところ。たとえば腎臓がんなどでは、5センチぐらいの大きながんでも転移がない場合もある。ところが、がんの場所や性質によっては、わずか1、2センチの小さながんでも浸潤や転移が進んでいる場合もあるのですね。

その意味では、すい臓がんなども厄介ながんの一つかもしれません。すい臓がんは臓器が腹部の奥にあるので発見されにくく、それでいて進行が早いのです。このため、自覚症状が出てきたときには、すでにかなり進行していることが多いのだそうです。

また、がんによっては、最初は進行がゆっくりだったのに、ある時点で急に進行を早める場合もあるとか。日々、治療という名の迫害を受けているがん細胞も、生き延びるために遺伝子の変化によりさらに性質を悪くしているわけです。ウーム、がんとはなんと狡猾なやつなんでしょう。

それなら、私たちも負けてはいられません。「がん細胞でさえ変身している」のなら、患者はその上を行かなくては。つまり、自分のがんの進行度を的確に知り、敵を知って攻略法を学ぶことが必要になってくるわけです。では、どうしたら効果的ながんの治療法を知ることができるのでしょうか。そのための目安となるのが、実は、先ほどからご紹介しているTNM分類でありステージなのです。

このTNM分類には、世界中の臨床データを反映して定期的に修正が加えられています。こうしてUICCから最新版が発表されると、それが新しい国際標準として採用されることになります。

この分類の決め手は「進行度」だけではありません。実は「治療法」も大きなポイントとなっていて、特定の段階のがんに対して有効な治療法が登場した場合、それに対応してステージが追加されたり、細分化されたりするのです。つまり、がんのステージと治療法を詳しく説明してくれるのがこのTNM分類法なのです。

実際にUICCのホームページなどを見ると、臓器別のがんのステージごとに有効な治療法、最新の治療法が紹介されています。ということは、自分のがんのステージがきちんとわかれば、「適正な治療法とは何か」も自分で調べることができるのです! これは素晴らしいことだと思いませんか?

自分のがんの大きさや転移状況を正確に理解し、情報を持っていれば、今自分が受けている治療の意味がわかるはずです。最新の治療法もわかるはずです。

正確な理解も情報もなければ、治療が終わった後、「���は苦しいだけのムダな治療を受けさせられていたのではないか?」と疑問がわいたとしても、それを判断することもできないわけですからね。

何度も言いますが、がん患者は自分の病気が何がんなのか、進行度はどれくらいなのか、このことをしっかり理解しないと、正しい立ち向かい方がしにくくなると思います。

がんと向き合う覚悟をして闘っていこう

しかし、ここで大きく立ちふさがるのが、「告知」の問題です。

適正な治療が何かを知るためには、きちんと告知を受けていることが前提となります。とはいうものの、すべての患者ががんに対して前向きに向き合えるわけではないのも事実です。

たとえば、主治医の先生に「あなたは○期の△△がんで、治癒率は7割です」と言われたときに、「よかった! 治癒率7割なんて、けっこう確率高いじゃん」と、誰もが思えるとは限らない。「自分は残りの3割に入ってしまうんじゃないか」と、落ち込む人も多いのです。「だから簡単に告知なんかしないで欲しい」という人もいるでしょう。

しかし、連載5回目で紹介した本『がんに負けない41の簡単な方法』で、著者のマージー・レヴァインさんはこう言い切っています。「自分の病気の治癒率が1割なら、その1割のほうへ入ってやろう! そのために、あらゆることをやってみよう!」と。そして彼女は余命半年と宣告されたあと、情報収集を始め、新しい治療法にチャレンジし、いいといわれることはすべて試し、そして10数年生きているのです。

こういうことは、まず自分の病気のことを正確に知り、それから自分に合った有益な情報、最新の情報を集めて、そこで初めて出来ることだと思います。 「あなたのがんは何期で、5年生存率は何パーセントです。この抗がん剤治療をすると、生存率は何パーセントまで向上しますが、副作用がこれだけ出て苦しい思いをすることになります。この治療を受けますか?」

そこまで主治医からハッキリと聞いた上で、医師と一緒に治療の可能性を何度も検討し、その治療を選択するかしないかを患者自身が決める。これこそが、インフォームド・コンセントの本来の姿ではないでしょうか。特に、検討を重ねる、ということが大事です。

何度も打ち合わせ、検討を重ねさせてもらいたい、でも、お医者さんは忙しいからなかなか話す時間が取れない、どうしよう……と悩むのであれば、自分でまず調べておいて、少なくともTNM分類法の意味と、いくつか他の治療法のことも知っておくと話が早く進むと思います。

医師に対して誠意を求めるだけでなく、患者の側にも、がんととことん向き合う覚悟がなくてはならない。そうでなくては、がんと本当に闘うことはできないのだということを、私たちも肝に銘じておきましょう

医師と患者の真の協力体制は、真実を恐れないことから始まります。いたずらに怯えることなく、行きつ戻りつしながら、自分のぺースでがんと向き合っていきましょう。あせらず、あわてず、あきらめず、です。

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