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- 赤星たみこの「がんの授業」
【第十五時限目】遺伝性のがん がん家系だからといって、悲観することはありません
がんが遺伝しているかどうかがわかる「遺伝子検査」
ところで、がんが遺伝しているかどうかは、どのようにして確かめることができるのでしょうか。その方法として、遺伝子検査があります。
これは、がん患者さんの遺伝子を腫瘍や血液などから採取し、遺伝子に異常があるかどうかを調べる方法です。その結果を家族と比較すれば、がんが遺伝しているかどうかがわかるというわけです。
検査結果がクロだからといって、100パーセントがんが発症するとは限りません。
遺伝子は二重らせん構造といって、同じものが二つで1セットになっています。二つのうちどちらか一方の遺伝子が傷ついただけでは、がんは発症しません。繰り返しになりますが、ここは強調しておきます。

がんが遺伝するということは、親から受け継いだ遺伝子の一つがすでに変化した状態にあるということです。そういう人は、二つのうちすでに一つが変化しているわけですから、リスクもそれだけ大きくなるというわけです。
遺伝したがんを発症させないためには、残りの遺伝子が傷つかないような工夫をする必要があります。食生活や生活習慣を見直して、がんになりにくい体質づくりに励む、リラックスして免疫力を高めることなどです。あとは、定期健診をまめに受けて早期発見・早期対策を心がけましょう。
遺伝子検査には、いくつかの問題点があります。一つは、遺伝子検査をして遺伝が明らかになったところで、決定的ながんの予防策がないということです。
そして、もし家族の誰かが遺伝性のがんの遺伝子を持っているとわかれば、自分やその子供にもその遺伝子が受け継がれているかもしれないと、家族全体が不安に苦しむことになります。それがかえってストレスを高め、病状の進行を早めることにもなりかねない。これが最大の問題点です。ですから、遺伝子検査を受けるかどうか、家族の中で十分に話し合いをすることも大切です。
将来を予測してがんの発生率を下げる「予防的切除」
しかし、予防策がまったくないというわけではありません。将来がん化する可能性の高い臓器をあらかじめ摘出してしまう、「予防的切除」という方法があります。
この方法は、遺伝子診断の先進国であるアメリカでは広く行われています。たとえば、乳がんや卵巣がんの原因遺伝子であるBRCA1とBRCA2が傷ついていることがわかれば、予防的に乳房や卵巣を摘出することも行われています。
この予防的切除は、今のところ日本ではあまり行われていません。しかしFAP(大腸がん)に関しては、ほぼ確実にがん化することもあって、大腸の予防的切除が広く行われています。
ただし、予防的切除を行うとたしかにがんの発生率は低くなるのですが、100パーセントがんにならないという保証はないのですね。手術をすればQOL(生活の質)が低下する場合が多いわけですから、予防的切除をするか、生活習慣を改善して予防に努めるかは、患者さん本人の選択にゆだねられることになります。よく勉強して情報収集をしておきましょう。それが第一歩です!
さて、今回の勉強で、「がん家系というものはたしかにある。しかし、遺伝をするのは非常にレアケースである」ということがおわかりいただけたかと思います。

自分ががん家系だからといって、悲観することはないのです。まずは、原因となっている、悪しき生活習慣をあらためることから始めましょう。タバコはやめて魚や野菜を中心の食事に切り替え、不規則でストレスの多い生活から足を洗うこと。
と、夜更かししながらこの原稿を書いている私ですが、ここから変えていかないといけないですね……。でも、私はタバコはやめましたよ! 1日5箱も吸っていた私でもできたんです。少しは励みになりませんか? あとは早寝早起き。これは自分自身に言い聞かせています。がんばりましょう!
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