【第二十時限目】リスクファクター がんのリスク、リスクファクターって何?

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2005年6月
更新:2019年7月

ウイルスも強力なリスクファクター

タバコと食生活以外では、「ウイルスの感染」も意外に強力なリスクファクターです。

なかでも有名なのが、C型肝炎やB型肝炎のウイルスが原因で、肝硬変を経て肝臓がんになるケース。このほか、子宮頸がんなどはヒトパピローマ・ウイルスの感染によって、胃がんはヘリコバクター・ピロリ菌の感染によって起こる可能性が高いと言われています。でも、「ヒトパピローマ・ウイルスを持つ人が子宮頸がんになるリスクは高い」としても、「子宮頸がんになった人が、すべてヒトパピローマ・ウイルスを持っているわけではない」。ここは注意しておく必要があります。

なぜここを強調するかと言うと、子宮頸がんの原因のひとつといわれるヒトパピローマ・ウイルスは、性交渉によって感染することが多いといわれています。だから子宮頸がんの患者さんの中には、「子宮頸がんだなんて言ったら、みだらな性生活を送ってたと思われるんじゃないかしら」と思って、なかなかカミングアウトできない人も多いそうなのです。でも、私も子宮頸がん患者でしたが、がんというのはいくつもの要因が複雑にからみあって発症に至るのですから、性交渉だけが発がんの原因とは思えません。くよくよすれば免疫力も下がるだけ。「気にすることはありません!」と、声を大にして言いたいですね。

この他、がんのリスクファクターとしては、乳がんや卵巣がん、大腸がんなどにみられる遺伝があります。

遺伝性のがんとは、ふたつあるDNAの片方が傷ついた状態で両親から受け継ぐことによって起こります。この場合、もう片方のDNAが傷ついただけでがんを発症してしまうわけですから、確率的には最大のリスクファクターと言ってもいいかもしれません。とはいえ、遺伝性のがんが全体に占める割合はわずか約1~5パーセントにとどまっています。

がんの種類で変わるリスクファクター

こうしたリスクファクターは、がんの種類によっても変わってきます。たとえば胃がんでは、塩分の取りすぎやヘリコバクター・ピロリ菌への感染が、大腸がんでは、赤身の肉やアルコールの過度の摂取が、肺がんでは、喫煙や大気汚染などがリスクファクターとなります。

女性特有のがんとなると、話はもっと複雑です。たとえば卵巣がんでは、初潮年齢が早いことや閉経年齢が遅いこと、家族歴、妊娠歴がないことがリスクファクターとなります。

乳がんでは、年齢や乳がんの家族歴、高脂肪食や過度のアルコール摂取などのほか、出産回数が少ないことや第1子出産が遅いこともリスクファクターになると言われています。

乳がんや卵巣がんを予防するためには、早く結婚して出産したほうがいい……理屈の上ではそうですが、これはあくまでその人の人生の選択の問題。「がんのリスクを避けるため」に結婚や出産を急ぐ、というわけにもいきませんよね。いずれにせよ、自分自身のリスクファクターを十分に理解した上で、自分にできる範囲の努力をする。それが何よりも大切なことではないかと思います。

「くよくよリスクファクター」私説

ここまでリスクファクターについて勉強してきました。でも、ひとつだけどうしても気になることがあります。心理的な要因はリスクファクターにはならないのか、です。ストレスが高じたり、否定的な感情にとらわれすぎると、免疫力が下がってがんにかかりやすくなる。巷ではそんな説がよく聞かれます。ところが臨床研究の現場では、心の状態とがんの発生との関連を示す有力な証拠は、いまだに認められていないのです。

でも、ストレスによって自己免疫力が下がるのだとしたら、体がウイルスを排除したり、がん細胞の発生を叩く働きも弱まるはず。統計にでるほど強い因子ではないにしても、やっぱり、くよくよするより明るく前向きに生きて免疫力を上げることのほうが大切だと思うんです。

特に、私は漫画家という、徹夜も多くて生活が不規則でストレスの多い職業についています。これだけでもリスクファクターは高いと言えるでしょう。だから、どんなことでも、いいと言われることややったほうがいい、と思ってます。野菜や果物、食物繊維を十分にとり、適度な運動をして、くよくよせずに笑って過ごす。そうやって自分のリスクファクターと地道につきあっていくしかないなあ、と思う今日この頃です。

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