【第二十一時限目】がんの組織分類 扁平上皮がんと腺がんは何が違うの?

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2005年7月
更新:2019年7月

がんは100のちがう病気

さて、ここまで、がんの組織型分類についてお話をしてきました。組織型分類では、がん細胞が「誰に似ているか」=「体の正常な組織のどの部分に似ているか」が大事なポイントになることが、おわかりいただけたかと思います。

その一方で、小細胞がんや大細胞がんのように、「誰に似ているかわからない」がんがある、ということもお話しましたね。こうしたがんは別名、分化度の低い「未分化がん」とも呼ばれることがあります。

未分化がんはどの臓器にも生じ、がん細胞の増殖が速く転移しやすいという特徴があります。

これはなぜかというと、未分化がんが“がんの赤ちゃん”だからなんです。つまり、細胞として成長=分化しきっていないということです。顔つきがどれも似たり寄ったりなのも、赤ちゃんが将来どんな顔になるかなんて、よくわからないのと同じです。

でも、赤ちゃんがみるみる成長するように、この未分化がんも成長する力はハンパじゃありません。活発に細胞分裂して、あっという間に体中に広がってしまいます。「うわ、怖ろしい!」とおびえる方も多いでしょうが、増殖が速いと、その分、抗がん剤の餌食となりやすいのは、前にも小細胞がんのところでふれたとおり。どんなことにも、悪い面も、いい面もあるのですね。

しかし、がん細胞も「低分化がん」「高分化がん」と分化が進むにつれ、徐々に元の細胞の形態の特徴が出てきます。「アラ、扁平上皮がんちゃん、最近ますますお母さん(扁平上皮)に似てきたねえ」というわけです。そして分化すればするほど、がん細胞もオトナになって、増殖速度も弱く、性格も穏やかになっていく。これも普通の人間と同じです。不思議なもんですねー。

ちなみに悪性度の高いがんとしては、スキルス胃がんがよく知られています。胃がんはふつう、胃の粘膜に潰瘍や隆起を作りますが、スキルス胃がんは初期のうちから粘膜下層でどんどん広がっていくのが特徴です。初期の段階で目に見える潰瘍などが現れないので、気づかないうちに胃全体に大きく広がってしまう。したがって早期発見がむずかしい、という厄介な代物です。このスキルス胃がんの正体も、組織型でいえば印環細胞がんなどの「未分化・低分化の腺がん」と言うことができます。

こうしてみると、がんと一口に言っても、本当にいろいろです。「がんは100のちがう病気」とよく言われているのに、さらに同じ臓器のがんでも、組織型によって性格もちがえば、進行のしかたや治療法も全然ちがってくるのです。

同じ乳がんや子宮がんだからといって、十杷一からげにはできない! 他の患者さんに効かなかった薬が、自分にも効かないとはかぎらない。がんが人によってそんなにちがうなら、世の中にひとつぐらい、私に合う薬があるんじゃないか……そんな希望も湧いてきます。 自分のがんをよく知り、自分にあった治療を選んでいきたいものです。これまで「治りにくい」と言われ続けてきたがんが、新薬の登場で「治りやすい」がんに変わる可能性だってあるのですから…���。

だからこそ、勉強を怠らず、最新の情報を仕入れることが大事! あきらめず、がんばりすぎず、情報収集を続けていくことが大事だと思うのです。

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