【第二十三時限目】内視鏡手術 飛びつく前に見極めよう、内視鏡手術の光と影

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長
構成●吉田燿子
発行:2005年9月
更新:2019年7月

内視鏡手術の技術的困難

まず第1に、内視鏡手術ではリンパ節の郭清が難しいということ。

第2に、お腹に開けた穴を通して手術器具を出し入れするときに、穴の周囲にがんが着床し、再発しやすいということ。鉗子などでうっかり触ってしまったがん細胞が周辺にまき散らされ、がんが再発してしまったケースもあったとか。

第3に、内視鏡手術の技術的な難しさ。お腹を大きく切る開腹手術とちがって、どうしても視野が限られてしまうし、内視鏡が入りにくいところは死角になりやすい。このため、内視鏡下で安全かつ正確に手術を行うためには、ある程度の慣れが必要です。

ところが、技術的に未熟な医師が内視鏡手術を行うと、手術のリスクはとたんに跳ね上がります。たとえば、お腹に穴を開けるときにうっかり臓器や動脈を傷つけ、大出血を起こしてしまう可能性だってあるのです。

生存率、QOL上のメリットはあるか

……とまあ、いろいろな理由から、がんの内視鏡手術は普及が遅れたのですが、その後は早期がんの治療などに使われるようになりました。技術が発達した今では、進行がんの治療にも腹腔鏡手術が積極的に行われるようになっています。

たとえば、がんの再発にしても、切除したがんのびょうそう病巣に袋をかぶせて取り出すことで、かなり防げるようになりました。その結果、内視鏡手術をしたからといって再発率が高まる心配はほぼなくなったといわれています。

さらに医療機関の間でも、「内視鏡手術に精通した医師を育てよう」という機運が高まっています。

その1つが、日本内視鏡外科学会による技術認定制度。これは、実際に行われた内視鏡手術のビデオ映像を2名の審査員が判定し、一定の技術レベルに達している医師だけに「内視鏡外科技術認定医」のお墨付きを与える制度です。

現在は「消化器・一般外科」「産科婦人科」「泌尿器科」の3つで技術認定が行われており、今後は他の分野にも広げていく予定だとか。今のところ、認定試験の合格者は消化器・一般外科の場合、全国で200名程度。かなり厳しい審査が行われているようです。

いずれにしても技術認定制度がスタートしたことは、患者にとっては喜ばしいかぎり! これをきっかけに全国的に内視鏡手術の技術レベルが上がれば、安心して手術を受けられますよね。それに、技術認定の有無がわかれば医師の腕前を判断する目安にもなります。患者としては、今後の展開に大いに期待したいところです。

「治せるものは確実に治す」大切さ

「そーか、これからは内視鏡手術が得意なお医者さんがどんどん増えるのねー。それなら、やっぱり開腹手術より内視鏡手術のほうがいいんじゃないの? お腹を大きく切ると10年後や20年後に影響が出るっていうしねー」

チョット待ってください! それが一概にそうとばかりも言えないのです。

内視鏡手術の進歩に引きずられるように、開腹手術の技術もどんどん進歩しています。最近は手術の際の傷口をなるべく小さくしようとする傾向にあり、なかには10センチ以内で��腹手術を済ませる外科医もいるほどです。

一方、内視鏡手術だって、手術器具を出し入れする穴さえ開ければいいというわけではありません。切り取ったがんを取り出すために、大腸がんなら4センチ程度、胃がんなら5センチ程度の穴を開ける必要があります。

「内視鏡手術だ開腹手術だって大げさに言うけどさ、5センチと10センチじゃ、大したちがいはないんじゃないの?」

ウーン、たしかに。中長期的な生存率やQOLを考えたとき、内視鏡手術に一体どれほどのメリットがあるのか――それは今のところ未知数です。それを明らかにするため、開腹手術と内視鏡手術の比較試験も行われていますが、結論はまだ出ていません。

薬にしても手術の方法にしても、新しいからいいとは限らない! がんの手術で最も大切なことは、「治せるものは確実に治す」ということです。

ところが、医師の中には自分の実績を増やしたい一心で、内視鏡手術を勧める人もいるから要注意です。患者としては医師と相談しながら、メリットとデメリットを両天秤にかけ、冷静に考えてみることが必要かもしれません。

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