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- 赤星たみこの「がんの授業」
【第二十四時限目】PET検査 今話題のPET検査のメリット・デメリット
「がんの疑いがある」に保険適用
ところで、最近話題のPETも、実は意外に古い歴史を持っています。最初にPET装置が考案されたのは1970年代半ば。これはCTの開発とほぼ同時期にあたります。ところが普及という点では、PETはCTよりもはるかに遅れをとってしまったのです。これはなぜかというと、PET検査の装置が大がかりで設備費や人件費がかさむためでした。
しかし、その後の技術の進歩でPET検査の自動化が進んだこともあって、今では以前よりも安価かつ安定的に運用ができるようになっています。
2002年にはFDGを使ったPET検査の保険適用が認められ、PET検査はいっそう身近なものとなりました。今では12の病気(脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、転移性肝がん、大腸がん、悪性リンパ腫、悪性黒色腫、原発不明がん、てんかん、虚血性心疾患)に限り、保険の適用が認められています。
ただし、これらの病気についても、無条件に保険が適用されるわけではありません。「がんの疑いがある」と医師が認めない限り、保険でPET検査を受けることはできないのですね。たとえば「がんの疑いで他の画像診断をしたが、結果がよくわからなかった」、「生検をしたけれど組織の診断がうまくつかなかった」等々。一定の条件を満たして初めてPET検査が保険適用になるわけです。
「がんがあるかどうかわからないけど、念のためPET検査を受けておきたい」という場合は保険が下りないので要注意。
現在、PET検査費用の相場は平均7、8万円台。「PET検査だけに8万円払うぐらいなら、10万円払って旅も楽しみたいわ」というわけで、リゾート・ツアーが大人気なのですね。それなら、こうしたツアーを賢く利用して、健康維持に役立てるのも手かもしれません。
では現在、医療の現場では、PET検査はどのような場合に行われているのでしょうか。
第1に、がんの疑いはあるが他の診断法では診断が確定できないとき。第2に、がんの診断が確定し、全身への転移や再発の有無を調べるとき。
特に再発・転移したがんの発見はPETが有効とされるもの。なにしろ1度の検査で全身をくまなく調べてくれるのですから、頼もしいかぎり。がんは転移の有無によって治療法が大きく変わる病気です。それだけに、QOLを重視した治療を選択する意味でも、PET検査が果たす役割は大きいでしょう。
放射線被曝の心配は?
「でも、PETって体の中に放射線を入れるんでしょ。被曝の心配はどうなの?」
その不安、ごもっとも。たしかにPET検査では放射性物質を体内に入れるので、放射線被曝がまったくないわけではありません。しかし実際には、PET検査による被曝線量はCTよりも少ないのです。
たとえば、私たちは日々、大地や宇宙から自然放射線を受けています。その量が年間2.4ミリシーベルトだとすると、1回のPET検査で受ける被曝線量は約7ミリシーベルト。いわば3年間普通に暮らした場合の被曝線量に相当します。
とはいうものの、わずかとはいえ被曝があるのも事実。PET検査をむやみに受けるのもお薦めできません。ある専門家の先生はこう言っておられました。
「年齢50歳以上でがんの家族歴が多い……というように、がんのリスクが高い方は、年1回PET検査を受けることで得られるメリットが多い。かといって、がんのリスクが低い20代の方が毎年PET検査を受けるのは、被曝という点からも感心できませんね」
過ぎたるは及ばざるがごとし。PET検査も過度の盲信は禁物、というわけです。PETも得意不得意があり、けっしてパーフェクトではない。それを肝に銘じて、検査を受けるときはメリット、デメリットも含めてよく医師に説明してもらうことが必要です。

ある検診センターの先生が、PETのがん検診でこんなことを言っておられたそうです。
「PETはたとえていえば、オリンピック10種競技の金メダリスト。個々の競技では100メートル走や棒高跳びの選手に劣るが、トータルで見れば優れている」
ウーン、言いえて妙とはこのことですね。個別検診と比べると、PET検査は全身をトータルに診断できるという点で、まさに10種競技やトライアスロンのようなもの。極めて早期のがんを見つけるのは少々苦手ですが、進行がんや転移したがんを見つけるのは得意中の得意です。また、再発や転移を見逃さないので、病期診断の精度を上げることもできる。ステージに合わせて適切な治療法が選べるので、QOLを重視した治療法を選ぶこともできるのです。
しかも最近、PETとCTを同時に撮影できるPET/CT装置が日本でも使えるようになりました。このPET/CTが本格的に利用できるようになれば、「10種競技と100メートル走の両方で金メダルをとる」なんてことも夢物語ではなくなるかもしれません。
そんなこんなで、ますます期待は高まるばかり。しばらくは、PETから目が離せなくなりそうです。
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