【第二十五時限目】病理診断 「がん」の診断を確定するために不可欠な組織診「生検」

監修●吉田和彦 東京慈恵会医科大学附属青戸病院副院長/外科診療部長
構成●吉田燿子
発行:2005年12月
更新:2019年7月

がん細胞の分化度や組織型を調べる

そこで、がんの確定診断をするには、生体の組織を検査する、生検が不可欠になります。

生検とは、患部の組織の一部を切り取って、病気の確定診断を行うための検査法です(組織の一部を切り取る……だから私の検査のとき痛かったんだ! と納得です)。

細胞診が細胞の1つひとつを調べるのだとすれば、生検では細胞のカタマリを調べます。ここが大きなちがいですね。

生検は、がんが疑われる組織を丸ごと調べるので、細胞の異形だけではなく細胞により形成されている構造の異形もわかり、診断がより正確になります。さらに、がん細胞の分化度や組織型などの詳しい情報も得られます。つまり生検をすると、「がんであるかどうか」に加えて、「高分化がんなのか未分化がんなのか」、「腺がんなのか扁平上皮がんなのか」ということまでわかってしまうのです。がんの種類や悪性度などが正確にわかるので、適切な治療法を選択したり、予後を推測したりすることもできるのです。

細胞診の場合は細胞の姿かたちを見て、診断します。指名手配写真と比べて容疑者が凶悪犯かどうかを判断しているわけです。これでは冤罪や見逃しもあるかもしれません。しかし、生検は、容疑者の性格や行動特性まで精密に調べるので、確実に起訴に持ち込むことができます。生検のほうが確定診断をすることができる、というわけで、私が生検を受けたとき、先生が「精密検査」とおっしゃったのも頷けます。

では、生検とはどのように行われるのでしょうか。

生検には大きく分けて「鉗子生検」「針生検」「外科生検」などがあります。

「鉗子生検」とは、内視鏡検査のときに、鉗子を使って患部の組織を採取する方法です。この方法は、子宮がんや消化器系のがんなど、内視鏡検査ができる臓器のがんを対象に行われます。

これに対して、しこりを直接触れながら、あるいはCTや超音波の画像を見ながら、体外から患部に向かって針を刺し、組織を採取するやり方を「針生検」といいます。これは乳がんや肝臓がん、腎臓がん、前立腺がんなどで行われます。

針生検で使う針にもいろいろあります。細い針を使う場合もあれば、局所麻酔をして太い針を使うこともあるんですね。

太い針を使う針生検としては、直径1.3ミリぐらいの針を使うコアニードル生検があります。1.3ミリ!! と思って驚いてはいけません。3~4ミリの針に高速で回転するカッターがついたものを使うマンモトーム生検というのもあるのです。

太い針を使うとそれだけ組織を多く採ることができて、より正確な診断が下せます。また、ごく早期の乳がんの中にはマンモトーム生検でがんを取りきることにより、治療が完了することもあります。たとえば乳がんでは、「ホルモン受容体が陽性かどうか」「ハーセプチンが効くかどうか」などをテストした上で手術や術前抗がん剤療法を行うケースが増えています。そのためには、術前になるべく多くの組織を採取して調べなければならない。そんな���きが太い針の出番です。そこまで太い針を使う場合は麻酔をしますから意外にラク、ともいえます。怖がらずに受けてください。

種類によって検査の仕方はさまざま

さらに、手術で組織を切り取って検査する「外科生検」があります。これには、腫瘍全体を切除する「全生検」と、腫瘍の一部を切除する「部分生検」があります。

乳がんの場合でいうと、針生検では診断がつかない場合に、外科生検が行われるのが一般的です。腫瘍が大きい場合には部分生検が行われますが、まだ腫瘍が小さく、しかもがんの可能性が高い場合には治療の目的も含めて全生検が行われます。というのも、がん細胞を中途半端に残してしまうと、切ったところからがん細胞が散らばって、かえって再発率が高くなってしまう可能性があります。そこで生検と治療をかねて、腫瘍を全部とってしまうわけです。

こうしてみると、生検ってかなりハード。「がんの確定診断をする」ためにはそれなりの覚悟がいる、ということですね。それだけに細胞診などと比べるとリスクも大きく、痛みや出血がともないます。

もうひとつのデメリットは、ごくまれにではありますが、生検で組織を切りとるときに、がん細胞を体内にまきちらしてしまう可能性があることです。

さらに、生検による医療事故も少なくありません。たとえばかなり太い針を刺す肺生検では、まれに肺に穴があいてパンクする気胸を引き起こすことがあります。また、肝生検でうっかり血管を傷つけてしまい、出血多量で死亡したケースもあります。

病理検査のやり方は、がんの部位や種類によってもずいぶんちがってきます。

たとえば乳がんでは、視触診やマンモグラフィ、超音波検査を行い、穿刺吸引細胞診、針生検と進むのがふつうです。また、針生検で診断がつかなければ外科生検を行うといった具合に、検査の手順が確立しています。

ところが、胃がんや大腸がんでは細胞診はほとんど行われません。内視鏡下で鉗子生検を行うのがふつうです。

体の奥にあって止血処理がむずかしい肝臓がんや膵臓がんの場合も、事情がやや異なります。針生検を行うこともありますが、画像診断をもとに最終的には医師の判断で生検をせずに手術に踏み切ることも多いとか。

このように、一口に病理検査といっても、がんの種類によってやり方はさまざま。がんの確定診断は命にかかわる一大事ですから、正確な検査を受けたいものです。検査の目的、内容、リスクと限界を知った上で、効果的で正しい病理検査を受けましょう。そのためにも、医師とよく話し合うこと。多少の痛みはガマンすべき、と思わずに、麻酔をしてもらえるかなど、よくよく話し合ってください。

「手術のうまい医師は生検もうまい」というお医者さんもいるそうです。手術件数の多い病院のほうが医師の技量は上がる、とも言います。病院を選ぶときの判断材料にしてもいいかもしれません。

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