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- 赤星たみこの「がんの授業」
【第三十時限目】がんと迷信 間違いだらけのがん常識。正しい知識と認識を持つことが大切
がんは遺伝するか?
祖母が胃がんで、姉は乳がん、そして私は子宮頸がん……「赤星さんのおうちって、がん家系なんだね」とよく言われます。でも、この表現、ちょっとビミョー。
「がん家系」というと、まるで「がんが遺伝している家系」というイメージがありますよね。でも、がん全体に占める遺伝性のがんは全体の5パーセントもない。しかも、その場合、原因となる遺伝子はハッキリ特定されています。
したがって、赤星家のようにいろいろながんが入り混じった「がん家系」は、がんになりやすい体質や生活習慣(食生活、喫煙、化学物質など)を共有しているケースがほとんどだといえます。
ここで、がんができるメカニズムを今一度おさらいしましょう。がんは複数の遺伝子が順次傷つき、突然変異を起こすことによって起こる病気です。でも、それはあくまで後天的なもの。長い間、放射線や化学物質、ウイルスなどの発がん物質にさらされるうちに、「遺伝子がケガをして起こる」のが、がんなのです。

とはいうものの、遺伝性のがんもわずかながら存在します。卵子や精子を通して傷のついた(がん抑制)遺伝子が親から子へそのまま受け継がれ、結果としてがんの素因はその家系に代々伝えられます。
遺伝性のがんとしては、一部の乳がん、卵巣がん、大腸がんなどが有名です。なかでも「家族性大腸ポリポーシス(FAP)」は、APCと言うがん抑制遺伝子を介して生じ、40歳までにはほぼ80パーセント程度の人が大腸がんを発症するといわれ、15~20歳の時点で大腸がんが発症する前に予防的な切除を受けることが推奨されます。
でも、こうした遺伝性のがんはほんのひと握り。「ほとんどのがんは遺伝しない」と言っていいでしょう。「うちはがん家系だから、娘の結婚にさしつかえるかも……」などと悶々とする必要はありません! やみくもに恐れることなく、まずは自分のがんを知ることから始めることが大切だと思います。
がんは伝染するか?
これも深刻な誤解を生む迷信ですね。冒頭に紹介したエピソードは、まさに「がんは伝染する」という誤解から生じたもの。でも、がんとは遺伝子が後天的に変化して起こるのであって、基本的には伝染しません。仮に、ある人のがん細胞を無理やり他の人に移植しようとしても、免疫パトロール隊が駆けつけて、自分の者ではない(非自己)と認識し、がん細胞をやっつけてしまうのです。
一方で、特定のウイルスが感染することにより生じるがんが存在するのも事実です。その代表的なものが、肝臓がんです。これはC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスに感染して肝炎、肝硬変と進み、最後に肝臓がんの発症に至るケースが多いのですね。これは血液製剤の輸血で感染が広がり社会問題化したので、ご存じの方も多いと思います。 この他ウイルスの感染によって生じるがんとしては、九州・四国地方に多い「成人T細胞白血病」が有名です。これは成人T細胞白血病ウイルスの感染によって起こるもので、輸血や性行為、母乳により感染します。もっとも、ウイルスに感染しても発病するのはほんの数パーセントといわれています。
この他ウイルスの感染によって生じるがんとしては、九州・四国地方に多い「成人T細胞白血病」が有名です。これは成人T細胞白血病ウイルスの感染によって起こるもので、輸血や性行為、母乳により感染します。もっとも、ウイルスに感染しても発病するのはほんの数パーセントといわれています。
この他、ウイルスによる感染が原因とされているものに、子宮頸がんがあります。これはヒトパピローマウイルスの感染が最大の原因といわれ、その多くは性行為によって感染する、というのが定説になっています。
ところが、このことはちょっとした問題をはらんでいます。まるで、「子宮頸がんになったのは乱れた性生活のせい」という偏見を持つ人が少なくないんですね。一方で、(特定の)パートナーがウイルスのキャリアであることが見過ごされていることもあります。
ある読者の方からこんなメールをいただきました。その方は十代で子宮頸がんになったのですが、それまで性経験はなかったそうです。
ところが、ある雑誌で有名な婦人科医師が「性経験のない子宮頸がん患者はいない」と断言していたのを読み、とてもショックを受けたのだとか。まるで「子宮頸がんになったのは自己責任」とでも言わんばかりの発言に、とても落ち込んでしまったそうです。

しかし、ヒトパピローマウイルスの保持者が100パーセント発がんするわけでもなく、子宮頸がんの患者さんがすべて性行為で感染したとは言い切れない。化学物質や食物、電磁波、タバコなど、考えられる原因は無数にあります。
第一、私の友人でうらやましくなるぐらいモテモテの人もいれば、ミダラな日常をインターネットで発表している人もいますけどね。彼女たちが子宮頸がんにならずして、なんでこの私が子宮頸がんにならなきゃいけないのか!?「子宮頸がんイコール発展家(古い?)」という連想は、いい加減やめてほしいものです。
今回は、がんにまつわる迷信について採り上げてみました。「がんは100のちがう病気」だけに、十杷一からげにこうとは決めつけられない難しさがあります。変な風説や迷信に惑わされないためにも、自分のがんについての正しい情報を知るよう努力したいものですね。
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