【第三十二時限目】免疫療法 免疫細胞療法って本当にがんに効果があるの?

構成●吉田燿子
発行:2006年7月
更新:2019年7月

期待される樹状細胞療法

新しい免疫療法の中でも、今最も期待されているのが「樹状細胞療法」です。これは、免疫細胞の一種である樹状細胞にがんの特徴を覚えこませ、リンパ球に対して攻撃命令を出す“司令塔”の役割をさせるものです。

樹状細胞をBさんの体内から取り出し、手術で切り取ったがん組織を食べさせます。すると、樹状細胞はBさんのがんの特徴をインプットします。

その状態でBさんの体内に戻された樹状細胞は、さっそく体内のリンパ球にBさんのがんの人相書きを回し、総攻撃命令を下します。

「こういう特徴を持ったがん細胞がうろついてるから、見つけたら即、やっつけろ!」とゲキを飛ばすわけです。

ムム……この話、どっかで聞いたような。そうそう、パソコンのアンチウイルスソフト『ノートン(Norton)』です。我らが敬愛する“ドクター・ノートン”も、あらかじめ記憶したコンピュータウイルスにパソコンが感染すると、自動的に検出してウイルスの侵入を防いでくれるはず。樹状細胞もパソコンでいう『ノートン』と考えれば、わかりやすいですね!

これだけ聞くと、この樹状細胞療法、なんだかとっても効きそうな気がしませんか?

ところが例によって、そうカンタンにはいかないらしいのです。がん細胞も馬鹿じゃないので、ただムザムザと殺されはしない。リンパ球の働きを阻害する刺客を放ったり、免疫システムの目を欺いたりしてアザトク生き延びようとする。

……イヤハヤ、聞けば聞くほどコンピュータウイルスに似てますね。

ソフトウェアメーカーの技術者がワクチンを発明すれば、ハッカーが新手のウイルスを作って世界中に送り込む。ハッカーと技術者のイタチゴッコがここでも、てわけなんですねー。

「がんに向かって総攻撃」を目指して

ともあれ、免疫療法の一番の期待株が樹状細胞療法であることはたしかで、現在さかんに臨床試験が進められています。もうひとつ、最近注目されている治療法に「ペプチドワクチン療法」があります。

これは、免疫細胞ではなくがんの抗原そのものを使って、リンパ球にがんを攻撃させる治療法です。

がん細胞の表面には、そのがんに特有のタンパク質が表れます。がんの目印となるタンパク質の断片=ペプチドからワクチンを作って接種すれば、体内の樹状細胞が捕食してリンパ球に司令を飛ばし、がん細胞に総攻撃をかけるというわけです。

ただ問題は、このペプチドが、がんの種類や患者さんによって異なるということ。そこで、1人ひとりのがんとマッチするペプチドワクチンを開発することが、大きな研究課題となっています。

こうしてみると、ひと口に免疫療法といっても、世界中でさまざまな研究が進められているのですね!

 けっして、主治医の先生に内緒で受けなければならないような「異端の治療法」ではない、ということがよくわかりました。

現在、免疫療法はさまざまな形で受けることができます。活性化自己リンパ球療法は高度先進医療の指定病院や民間クリニ��クで受けられますし、樹状細胞療法やペプチドワクチン療法も、臨床試験を行っている病院であればトライすることができます。

しかし、保険診療が認められていないので、治療費用は馬鹿になりません。あるクリニックでは、6回1コースで150万円の費用がかかるとか。ウーン、毎度のことながら頭の痛いことです。

それにしても、研究の最前線で苦闘されている方々の熱意と努力には頭が下がります。私たちも、患者の立場で研究者や医師の方々を応援しながら、1日も早い研究の進歩を期待しようではありませんか。それが、明日を生きる希望につながるような気がします。

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