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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
骨髄バンクの活動から生まれた、国境を越えたドラマ「IMAGINE9.11」 他人を思いやってみよう。そうすれば心が豊かになる
全土飛行禁止の中、日本人患者のためにチャーター機が飛んだ

吉田 2001年9月11日、アメリカでテロが起きたとき、日本には全米骨髄バンクからの骨髄液を待っている患者さんが3人いました。ところが、テロで米国が全面飛行停止になって、骨髄液が届かない、届ける方策がないという事態に直面しました。けれども、全米骨髄バンクではたいへんな努力をして緊急にチャーター機を飛ばし、骨髄液を届けてくれたんです。これは実話で、新聞でも報道されました。
刀根 ただ、新聞の報道は、チャーター機を飛ばすための募金の呼びかけがメインでした。
吉田 1600万円でしたね。
刀根 はい。当時は特定の患者さんのために、財団が呼びかけをすべきでない、といった反対意見もずいぶんあったようです。
吉田 でも、とにかく骨髄液が届かないと、どうしようもない状況です。ぼくも経験がありますが、放射線を浴び、白血球をゼロにして骨髄液を待っているわけですから、そこで届かないと、手の施しようがなくなってしまいます。
刀根 血液を自分の体でつくりだすことができない状態で、3人の患者さんが無菌室で待機していた、そのときにあのテロが起きたんです。
吉田 全米骨髄バンクからの空輸を待っていたということは、3人の患者さんたちは肉親にも、また、日本の骨髄バンクを探しても、型が合う人がいなかったわけですね。だから、窮余の一策でアメリカに問い合わせをしたら、アメリカにあった、ということだと思います。
刀根 そうです。
吉田 現在、日本の骨髄バンク登録者は、28万人弱です。アメリカにはその約10倍の登録者がいます。人種の違いもあり、型が合う確率も10倍であるとは言いませんが、少なくとも日本の何倍かの確率はあるわけです。
今、型の合う人がいなくて途方に暮れている日本の白血病患者さんには、そういう手もあるという事実を知っていただき、ぜひNMDP(全米骨髄バンク)に問い合わせをしてみていただきたいと思います。
初めて書いた物語が300枚の超大作に
吉田 そういう実話を聞いて、ご主人が夢を見て、その夢を物語に書き上げてしまったと。
刀根 自分の夫ながら不思議な体質の人で、すごい記憶力なんです。幼い頃に見た夢や寝言まで覚えているんですよ。
吉田 作家さんでしたっけ。
刀根 いえいえ。ずっと美容室��経営してきて、その後、出張美容を日本ではじめて立ち上げた人です。寝たきりの高齢の人や、障害があって美容室に行けない人のお宅を訪問して、プロの美容師としてサービスを提供する、というビジネスを立ち上げました。厚生省(当時)から、前例がないと反対されたり、妨害やいやがらせをする人や団体もあったそうです。
でも、もともとが非行少年で、根底に「怒り」をもっている人ですから、そういうときは絶対に闘ってしまうんですね。それで、むずかしい法律もクリアして立ち上げたところ、マスコミにすごく取り上げられました。もう10数年たちますが、いまだに取材が続いています。
彼はいろいろな体験をしているので、ものを書かせたらおもしろそうと、常々思っていました。でも、「おれは恥はかいても、ものは書かない」とか言って、絶対に書こうとしなかったんです。そんなとき、夢を見たというので、「人のことなら書けるでしょう」とけしかけて、書いてもらったのがこの作品です。
吉田 300ページにも及ぶ大作だったと。
刀根 ご飯も食べずに書いていましたね。3日間くらい放っておいてくれ、という感じ。誤字脱字変換ミスの嵐で、原稿用紙の使い方も知らないから、升目が全部埋まっているんです。きっと、デザイナーが自分の頭の中にある絵を、ラフに書くようなものだったんでしょうね。
漫画化の話あり、映画化の話ありそして、舞台劇になった理由

吉田 舞台劇になった経緯は?
刀根 まず、一気に書く前に、彼は15枚くらいのプロットを書きました。それを読んだとき、私は「すごい大作映画を1本見たみたい!」という印象を受けたんです。
そう思うのは私だけじゃないだろうと思って、出版社の友人などにも読んでもらいました。そうしたら、なかの1人が「すぐに見せたい漫画家がいるんだけど、持って行っていい?」と言うんです。でも、漫画にする気持ちはこのときは1ミリもなかったので断りました。
映画化の話もありましたし、私たち自身、できれば映画にとは思っていますが、どうも話があわず、1年半くらい放っておきました。その間に、舞台の役者さんたちと出会ったんです。
年末のある日、役者さんの1人が家に遊びに来ていたとき、「舞台なら、ぼくが見せられた夢のまんま上演できるのかな」と言いだしました。そうしたら、その役者さん、「ぜひやりたい!」と盛り上がったんですね。私たちは翌年7月か8月には初演をしたいと言いました。役者さんには「無理ですよ」と言われましたが、年明けから彼が脚本化にかかり、本当に8月には上演してしまいました。一昨年のことです。無謀ですよね、本当に(笑)。
吉田 夢を覚えていて、それを15枚のプロットにするなんて、とても常人ではありませんね。一昨年はどこで公演をされたんですか?
刀根 一昨年は東京だけで3日間5公演やりました。去年はある企業から特別協賛をいただいて、全国展開をしました。ただ、突然決まったためスケジュールがきびしく、いっぱい反省点が残りました。ですので、今年はもう1度、東京だけでやり、同時に来年以降の準備をしていこう、ということになったんです。
目標はハリウッド映画化!多くの日本人を動かせるように
吉田 最終的にはハリウッド映画にしたいと考えておられるそうですが?
刀根 そう願っています。ハリウッドのスターたちが命の大切さや人のきずななど、目に見えない大切なことを伝える役割を担ってくれたらいいなあと。そうしたら、影響を受ける日本人が、すごくたくさんいると思うんです。骨髄バンクに限定した話ではありませんから、広く人間愛に訴えられるだろうと思いますし。
吉田 ある国の人の骨髄を移植して、別な国の人が助かるというのは、命の連鎖が国境を越えて実現することですから、ある意味、象徴的ですね。世界平和とか、考えさせられます。
刀根 本当に象徴的だと思います。
骨髄を待っている患者さんや家族の皆さんには、ぜひ笑顔にあふれる暮らしを取り戻していただきたいのですが、その一方、みんなが自分以外の人の気持ちや立場をリアルに想像することができたら、どんなに豊かになれるか、ということも伝わってほしいと思います。
吉田 だから、「イマジン」なんですね。ぼくもハリウッドのコンテンツを創る人たちとの交流が多少ありますが、彼らはいい脚本をいつも探しているので、そこで何かお手伝いができればいいなあと思います。
闘病している人たちに、エンターテインメントの力を
吉田 「骨髄バンクボランティアネットワーク」は、古くから活動をさせているボランティアさんたちが始められたものでしたね。
刀根 お子さんを白血病で亡くしたおかあさんたちがつくっている会でした。主婦だけだと限界があるから、刀根さん代表になってよと2002年に言われました。私自身は組織のトップという柄じゃないので、ことわったんですが、頼むからやってちょうだいと拝み倒されて、仕方なくお引き受けしています(笑)。
ただ、皆さんの活動を引き継ぐわけですから、少しでも成果をあげたいと思い、昨年の公演では全国のボランティアさんにお手伝いをいただきました。みんなで力をあわせて何かに向かうのは、なかなかむずかしいことです。でも、エンターテインメントだったら、そういうこともできるかもしれないと思ったんです。
吉田 エンターテインメントの力は、たしかにあると思います。ぼくもエンターテインメントで人をつないで行きたい、と考えているんです。
特に、血液疾患の患者さんは闘病期間が長いので、入院中に時間をもて余したり、ずっと学校に行けない子どもの勉強が滞ったり、いろいろな問題があります。ですから、エンターテインメントを映像化して各病院で見てもらったり、それによって骨髄バンクの重要性なども理解してもらえたら、いいなあと思いますね。
刀根 「IMAGINE9.11」そのものは、子どもには少しむずかしいのですが、私たちも小さな子どもにもわかってもらえるものが作りたいと思って、今、絵本も作り始めています。また、シンポジウムなどでお金をかけられない場合は、スライドと朗読という形でもできるようにしたいと思っています。
吉田 がんは今や必ずしも不治の病ではありませんが、逆に言うと、それは「治療をしながら長く生きる」ということでもあります。そのためには、社会的なさまざまなサポートが必要ですが、現実には「がんはこわい」といったイメージがいまだに強く、「がんになったら会社を首になった」とか、「地域で仲間はずれにされた」などといった話があとを絶ちません。
そんな中、刀根さんのような方が、正しい情報を広めたり、多くの人の協力を求めたりする活動にご参加くださって、熱心に続けてくださっているのは、本当にありがたいことだと思います。ハリウッド映画化、ぜひとも実現したいですね!
刀根 はい、ぜひ。ご支援よろしくお願いします。
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