がん医療の弱点を補完するアンチ・エイジング医療 病気を治す医療から健康を守る医療へ

ゲスト:澤登雅一 三番町ごきげんクリニック院長
発行:2007年6月
更新:2013年5月

がん患者にとっての、アンチ・エイジング医療の可能性

吉田 ところで、がん患者にとって、アンチ・エイジング医療はどんな可能性を持っているのでしょうか。

澤登 がんという病気も、老化と同じようなメカニズムによって起こっていると考えられています。活性酸素(フリーラジカル)の影響で、体が酸化することにより老化が進行していきますが、その過程で細胞の核内にあるDNAも酸化され、傷つけられます。損傷と修復を繰り返していくうちに遺伝子に突然変異が起こり、その結果、正常細胞の一部ががん化していくのです。もちろん、ほとんどの場合は体内の免疫機構により、そうしたがんの芽は排除されます。しかし何度も同じ過程が繰り返されるなかで、免疫で排除しきれず、がんを発症してしまう。つまり身体の老化ということも発がんの1つの要因として考えられるということです。
さらに言えば、老化、すなわち身体機能の低下によって、すでに体内に生じているがん細胞の増殖にも拍車がかかると考えられるのです。逆に言えば、アンチ・エイジング医療によって身体の働きを高めることで、ある程度はがんの進行に歯止めをかけることもできるかもしれません。

吉田 先ほど、血管をはじめとする体内の酸化現象が老化につながっていく、と話されました。その原因としては、どんなことが考えられるのですか。

澤登 それはもう、さまざまですね。私たちは、呼吸によって酸素を体内に取り込むことで生命を維持していますが、そうして取り込んだなかの一部はどうしても不安定な活性酸素に変わります。また、それ以外でも、最近では太陽光に含まれる紫外線、電磁波、食品に含まれるさまざまな添加物、喫煙、過度の飲酒、偏食などの生活習慣。さらにストレスによっても活性酸素をはじめとするフリーラジカルが生じることがわかっています。私がビタミンやミネラルなどのサプリメントを活用しているのも、そうしたフリーラジカルを排除する抗酸化作用に着目した結果です。

吉田 サプリメントの働きについてのエビデンスはどうなっているのでしょう。

澤登 ビタミンCに抗腫瘍効果があるということは、40年前から言われています。しかし残念ながら、明確なエビデンスが示されたことはありませんでした。
ただ最近になって、アメリカのNIH(国立衛生研究所)で行われた悪性リンパ腫の患者さんを対象にした研究で、点滴による高濃度のビタミンC投与により、抗腫瘍効果が認められたと報告されています。意外なことに、ビタミンCそのものではなく、ビタミンCによって誘導されたH2О2というフリーラジカルの一種が腫瘍を叩いているのです。
発がんの原因となるフリーラジカルが、実はがんを抑える働きも持っているということです。さらにこの研究で注目されるのは、がんを叩いているフリーラジカルは正常細胞に、なんら影響を与えていないということです。

吉田 それは興味深いですね。そこから新たながん治療の方向性が見出される可能性もあるのではないですか。

澤登 そうですね。私自身も、ビタミンC大量療法の抗腫瘍効果には期待を持っています。現在、ある大学と協力して、悪性リンパ腫の患者さんを対象にした共同研究を手がけています。

アンチ・エイジング医療で既存の医療を補完する

写真:澤登さんと吉田さん

抗がん剤や放射線治療には必ず副作用の問題がつきまといます。私はアンチ・エイジング医療によって、こうした現代医療の弱点をカバーすることができればと考えているんです、と語る澤登さん

澤登 現在のがん医療では、外科手術、抗がん剤による化学療法、それに放射線治療が3大治療法となっています。私は、そうした現代医療を否定する気はまったくありません。
ただ、これらの治療法に弱点があるのも事実です。具体的に言うと、外科手術を行うには患者さんにはある程度の体力が必要だし、抗がん剤や放射線治療には必ず副作用の問題がつきまといます。私はアンチ・エイジング医療によって、こうした現代医療の弱点をカバーすることができればと考えています。

吉田 なるほど。アンチ・エイジング医療には、がん患者の治療中のQOL(生活の質)を高めたり、身体の機能を高めて副作用を予防する働きもあるということですね。初発で外科手術を行った後の再発予防にも、アンチ・エイジング医療が有効なようにも思います。

澤登 そのとおりです。定期的なサプリメントの摂取やビタミンやミネラル、アミノ酸などの点滴療法により、予後はまったく変わってくるのではないかと思っています。そうしたことも含めて、これからは医療により大きな統合医療の視点が求められるでしょう。私はそうした統合医療の一環として、アンチ・エイジング医学を位置づけているのです。

吉田 がん治療におけるサプリメントということで言えば、実は私自身も治療中に使ったことがあるんですが、先生は健康食品についてはどうお考えですか。

澤登 うーん。それは難しい質問ですね。私自身はそうした健康食品には明確なエビデンスも確立されていないし、特段の効果があると思っていません。ただ、だからといってそれらを否定しようとも思いません。明確なエビデンスはなくても何人かに1人、あるいは何10人かに1人は、そうした食品が効果を及ぼすケースもあるわけでしょう。患者さんは、自分こそがその1人になりたいと思ってその食品を利用しているわけで、そうした希望まで否定することはできませんからね。実際、そうして希望を持つことが、病気と闘ううえでの励みにもなりますからね。

原点にあるのは生活習慣の見直し

吉田 話をアンチ・エイジング医療に戻しますが、先生のところではサプリメントや点滴療法を中心に扱っておられますね。
健康を維持していくためには、それ以前の問題として食生活など生活全般の見直しということも大切なように思うのですが。

澤登 それは、アンチ・エイジング医療を進めるうえでの基本ですね。生活を変えないことには、いくらサプリメントを利用しても高い効果は望めません。ただ現在の社会状況では、生活を変えても効果を求めにくいのも事実です。

吉田 生活の見直しということでは、運動やストレスの解消ということも大切ですね。

澤登 もちろんです。日本人は元来、運動を軽視しがちですし、ストレス解消もうまくないからなおさらですね。欧米では、出勤前にジムに寄ってひと汗流すという人も少なくないのですが、日本人の場合は、仕事を始める前に疲れてどうするのか、と考えてしまいますからね。ひと汗流してリフレッシュすることで、心身両面の機能も高められるのですが……。1日30分、歩くことだけでもいいから運動の習慣をつけてもらいたいですね。それに、趣味などを積極的に楽しむことで、ある程度はストレスの解消もはかれるでしょう。

吉田 それは、がん患者にもあてはまりますね。

澤登 もちろんです。生活そのものを前向きに変えていくことが、アンチ・エイジング医療の基本です。そうした前提があって、サプリメントの効果にも期待が持てるということです。
アンチ・エイジングというと何だか大げさな響きがありますが、実はその原点は生活の見直しにあるのです。自らの生活をチェックし、よくないところを改善していくことから心身両面の病気と闘うエネルギーが湧き上がってくる。がん患者さんには、そのことをよく理解していただきたいと思います。

(構成/常蔭純一)


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