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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
医療の第一歩は患者さんから話を聞くことから始まる
患者が教える的確な医療
吉田 医師と患者の関係性でも日本はアメリカに学ぶ点が少なくないように思うのですが。
田島 アメリカの医師は徹底して、患者さんの利益を優先します。それが結局は自分の評価にもつながっていくからですね。そんな医師の姿勢がもっとも端的に現れているのが、セカンドオピニオンへの対応ではないでしょうか。アメリカでは日本と違って、医師主導のセカンドオピニオンが常識ですからね。
吉田 日本ではセカンドオピニオンを受けるためにカルテをもらうのにも、患者は神経をすり減らしますからね。私自身、入院中、翌日カルテをもらうのに主治医にどう話を切り出そうかと、頭を悩ませたこともあります。実際に話してみると何の問題もなく、逆に拍子抜けしたくらいですが(笑)……。やっぱり力のある医師は、セカンドオピニオンもスムーズに受け入れるものだと納得させられました。
田島 アメリカの場合、セカンドオピニオンを患者さんが求める必要性が日本よりも低いことがあります。なぜならばオープンシステムが基盤にあって医療レベルの標準化が容易に広がる形ですから、受ける医療に対する患者さんの不安が少ないからです。先ほど言った医師主導というのは、患者さんに受けてはどうかと持ちかけるのではなく、医師がその地域の同じ領域の専門医と気軽に相談して、医師自らがセカンドオピニオンを得るということなのです。当然ながら、すべては患者さんにベストの医療を提供しようという医療マインドに発しています。
吉田 日本では考えられませんね。日本の場合は、患者と医師が対等に話すということもなかなか難しいですからね。
田島 それではベストの医療を提供することは難しいわけです。私は医療の世界に入ってきたばかりの若い人たちに必ず、リッスン・トゥー・ザ・ペイシェントと教えます。医療行為の第一歩は、患者さんから話を聞くことから始まります。患者さんの話を聞いていれば、トータルで患者さんの何が問題なのか、どんな診療をどう行えばいいかは自ら明らかです。
吉田 田島先生は治療を行わない治療の大切さも提言しておられますね。それも、患者さんの意向を汲み取ることの大切さを鑑みてのことでしょうね。
田島 そうですね。同じことはインフォームド・コンセントにも当てはまりますね。私のいまの専門は乳がんで、当然のこととして病状説明のなかに病名が自然に出てくるのです。受胎告知ではないので、私は告知という仰々しい言葉を好みません。話の幅と深さとは、会話のキャッチボールのやり取りのなかで、患者さんと医師との間で、自ずと決まってくるのです。
吉田 日本ではインフォームド・コンセントは、医師のいわばアリバイ証明のように考えられている嫌いもあるのではないですか。患者さんは内容を理解していないのに医師が一方的に話をして、それで了解が得られたと考えられているようなところもあるように思いますが……。
田島 医師のなかには、話し合いの時間ばかりにこだわる傾向があるようですが、大切なのはあくまでも話し合いの中身なのです。また、1度で全部をすまそうとしないで、必要に応じて、繰り返せばよいのです。
ご指摘のように、医師が一方的に話しているケースも少なくないでしょう。何より大切なのは、患者さんがどこまで自分の病気を知りたがっているのか、聞きたがっているのかをきちんと理解することでしょう。患者さんには聞きたくない権利もあるのですから……。
日本の医療再生には医療機関の再編が不可欠
吉田 ここまで話を伺っていて、日本の医療界の問題の根深さを垣間見たように思います。そうした問題を少しでも改善していくために、先生はどんなことをお考えですか。
田島 政府や厚生労働省がさまざまな対策を打ち出しているようですが、私から見れば、小手先のその場しのぎにすぎないように思えてなりません。中途半端な対策を講じるために、逆に問題の本質が見えにくくなっているようにも思います。日本の医療を再生するには、たとえば医療機関の再編など抜本的な改革が不可欠でしょうね。そのためには、マスコミも勉強をして、どこがどうなっているか、どこがどう問題なのかをよく調べて、その情報を国民にフルに提供し、国民が最適な医業の仕組みについて正しい選択肢に辿り着けるようにしないといけません。
吉田 医療機関の再編とは、具体的にはどういうことでしょう。
田島 日本は医師不足に象徴されるように、医療資源が不足しています。しかし、実は余剰部分もあると私は思っているんです。日本では無数の個人病院や単科病院がありますが、それらはとても中途半端な存在ですね。
たとえば最近では、横浜のある産婦人科病院が、資格のない看護師に出産業務をさせていたとして問題になりました。新聞では無資格者に内診行為をさせていたことばかりが問題視されていた。
しかし私はそれよりも、出産後に体調が崩れた患者さんを別の病院に搬送していたことのほうが重大な問題ではないかと思うんです。出産にはさまざまなトラブルが生じがちです。にも関わらず、その手当てをすべきシステムもスタッフも用意されていないということですね。このこと自体が大きな問題で、根本的には医業の仕組みに関することなので、検察も不起訴にしたのでしょう。
求められる医療資源の集約化

吉田 いい医療を提供するためには、ある程度、医療資源を集約させて、フェアな競争をしてもらうということですね。しかし、実現は難しそうですね。
田島 アメリカのオープンシステムを導入するには、医療費の支払いシステムまで、変えていかなければなりませんからね。しかし、そうなれば個々の医師のモチベーションも高まり、医療界全体に活気が出てくると思います。今、開業医でやっている人たちも、最先端の現場に戻ってくるかもしれません。私は常々、若い人たちが当初の志を忘れて、病院を離れることを残念に思っているのです。開業してしまうと、重症患者さんのケアから離れ、それまで蓄積したプロとしての技量の多くが無駄になってしまいます。
吉田 そうなれば先生が指摘されておられる「医は算術」の傾向も変わってくるでしょうね。
田島 そのとおりです。医療者イコール経営者というあり方では、患者さん中心のいい医療を提供することはできないと私は思っています。
吉田 私は、過酷な状況で黙々と仕事を続けている勤務医の声にも耳を傾ける必要があるとも思います。
田島 そのためにも構造改革が不可欠ですね。現在、報われなさが際立っているのは基幹病院の勤務医ですが、開業医も初心を貫けていないことが多く、その意味で不本意です。日本医師会も実態は開業医の組織ですので、理想を追い求めることには限界があります。問題は医業のシステムにあるわけで、現場の努力には限りがあって、逆に努力が問題を先送りしてしまう結果になっているということです。日本の医業のどこに問題があるかについて、国民が知ることがまず大切でしょう。
吉田 そうした改革を少しでも実現に近づけていくには、1人ひとりの患者さんが、真摯に医療を考えていく必要があるのでしょうね。幸い最近ではインターネットを通して、患者の声を集約していくことも簡単にできるようになっています。
田島 結局、それが医療を変える最大の原動力になるのですが、わが国の医業のあり方がグローバル・スタンダードでないままに、現在に至っているので、根源的なところにつながる素朴な疑問の声を上げることがまず大切です。より多くの患者さんがベストの医療を受けられるように、私たち医療者も患者さんと協力し合いたいですね。
(構成/常蔭純一)
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