本邦初のチャリティレーベルに10人のプロミュージシャンが参集 音楽、アートを通して白血病患者支援の輪を拡げたい

ゲスト:大橋宏司 音楽プロデューサー
発行:2007年1月
更新:2013年5月

絵と音楽をコラボレートしたアートセラピー

写真:「Beautiful Gift」ト
白血病研究基金チャリティアルバム
「Beautiful Gift」のCDジャケット
写真:CDの制作中のセッションで
CDの制作中のセッションで。
左から中村梅雀さん、田中健さん、羽仁さん

チャリティアルバム「ビューティフル・ギフト」2,800円(税込)
購入はホームページ から

大橋 今回のこのCDで、もうひとつジャケットに使用しているこの絵のこともお話ししておきたいんです。私も本を読むまで知らなかったんですが、クレヨンと画用紙を持って「たからものって何ですか」というテーマで、世界中を回って、子どもたちとコミュニケーションしている伊勢華子さんという女性文筆家がいるんです。すでに22カ国を訪ねており、ずいぶん危ない地域にも足を踏み入れているらしいんですね。ジャケットに用いられているのは、この伊勢さんがカナダを訪ねたときに、8歳の女の子に描いてもらった絵なんです。子どもたちと一緒に描いた絵が集められている本を読んで感動して、ぜひ、CDのジャケットに使わせてほしいと私のほうから連絡してお願いしたんです。

吉田 その行動力が素晴らしい。本当にエネルギッシュですね。

大橋 いや、本を見てたまたまHPを開いたら、たまたま電話番号が載っていた。そこで電話をかけたらたまたまご本人がいらしたんです(笑)。そうして、じっさいに会ってチャリティCD制作の話をすると、共感していただけて使用の許可がいただけた。それがまた新たな活動につながってもいるんです。

吉田 具体的にはどういうことでしょう。

大橋 白血病に限りませんが、がんなどを患っている子どもたちは学校に行けないじゃないですか。それでそういう難病の子どもたちが多いこども病院でアートスクールを開設しようと考えました。プロの画家にもボランティアで講師をお願いしていますが、それとは別に伊勢さんにも、そのアートスクールのスーパーバイザーをお願いしているんです。このプロジェクトはすでに動き始めており、あるこども病院でも行うことが決定しています。時には絵と音楽をうまくコラボレートさせたアートセラピーも行いたいとも考えています。そうしてインターネット上で子どもたちの絵のミュージアムを開催し、もちろん許可がもらえればの話ですが、その絵をさら���次回のCDのアートワークに使わせてもらえればと計画しているんです。

吉田 いいですね。そうして絵が多くの人たちに伝えられると、今度はその絵にインスパイアされたミュージシャンたちが、CDづくりに参加したいと申し出てくることもあるでしょうね。

大橋 そうですね。そうなればと願っています。

吉田 絵と音楽という異なるジャンルの芸術が互いにエネルギーを交感しあうアートシェアリングということですね。がんのなかでも、白血病など血液がんの場合は、入院期間が長期に及びます。その間に子どもたちが絵を描く楽しみを学び、理解するというのは、素晴らしいことですね。そのことで入院生活がずっと充実したものに変わっていくということもあるでしょう。

大橋 アートセラピーに関していえば、ある老人病院でコンサートを行ったとき、演奏を待っている患者さんたちにそれこそ一筆、二筆ずつ描いてもらったこともあるんです。そうして完成された絵がロビーに飾ってあるんです。自分が参加しているんだから感慨も深いでしょうね。アートセラピーにはそんな方法もあるんです。
CDのことに話を戻すと、残念ながら、現実的には闘病中の子どもたちの絵の使用はすべて可能なわけではないと思っています。ご両親たちが子どもが白血病であることを知られることを恐れていますからね。日本ではまだまだ周囲の人たちにも、自分たちの子どもが白血病であることを伝えていない。残念だけれどそれが現実なんですね。

吉田 日本では大人の場合もそうですが、まだがんという病気を隠す傾向が根強いですね。がんであることはハンディキャップとして受け止める風土が災いしているのかもしれませんが、改めなければならないでしょう。今では日本人の2、3人に1人はがんになることがわかっている時代で、がんは誰もがかかる、とてもありふれた病気です。そのことを理解したうえで、患者と健康な人たちが互いに助け合うようにならなくては……。私なんか、なぜ他の人たちががんを隠そうとするのか、まるでわからないんですよ(笑)。

大橋 本当におっしゃるとおりですね。そうした偏見を解消するためにも、吉田さんのような人に前面に出ていただいて、どんどん発言してもらいたいと思いますね。

吉田 白血病の子どもたちの場合は、そのために社会から閉ざされてしまっています。もっとも多感な時期に社会との接点が失われるのだから、おとなの場合に比べて、より問題は切実ですからね。

大橋 その意味でも今回のアートスクールやアートセラピーには大いに期待しているんです。でも一般的には病院における音楽ボランティアはなかなか実現が難しいんです。いくら無償で行われるといっても、病院側からすれば、コンサートのために患者さんを移動させたりという普段にはない余計な労力も必要になるわけです。気持ちでは患者さんの喜ぶ顔が見たい。でも、普段の重労働だけでも精一杯努力されてるということなんですね。
また現場の人たちがぜひやってもらいたいと全面賛同してくれても、決済を担当する人たちがなかなか腰をあげないことも多いですね。

求められるボランティアネットワークの構築

写真:CD発売記念ライブ

2006年10月15日に行われたCD発売記念ライブ。右端が大橋宏司さん

吉田 ボランティアを始めたいという人はたくさんいるのに、もったいない話ですね。

大橋 そうなんです。僕のところにも、たとえば音楽大学でピアノをやっていた、ボランティアで演奏することはできないか、といった問い合わせのメールがよく来るんです。本当をいえば、活動の場は自分で探すべきだと思いますが、なかなかそうもいきませんからね。そういった人たちとじっさいの活動をつなぐネットワークを構築することも、これからの自分の役割ではないかと思っています。

吉田 そうですね。大橋さんのような活動が求められているのは東京だけじゃありませんからね。たとえば福岡で同じような話があったときに、そうそう簡単にはボランティア出張というわけにはいきませんからね。そんな場合にもネットワークがあれば、活動が展開できますからね。

大橋 そうですね。ネットワークに関していえば、スポンサーとしての企業をうまく取り込んでいくためのシステムづくりということも大切でしょうね。企業のなかには社会貢献に参加したいが、具体的な方法論を持たないために手をこまねいているところもたくさんありますからね。

吉田 そうですね。その点では税制の見直しなど環境の改善も必要でしょう。私自身の仕事としても、企業の社会貢献には真剣に取り組みたいと思っているんです。それとは別に、私は子どもたちをボランティア活動に参加させることも大切だと思っているんです。私のところも大橋さんのところも、子どもは3、4歳ですよね。それくらいからボランティア活動に参加させて、白血病の子どもたちをサポートしていれば、病気の子どもたちの世界も広がっていくし、一般社会のがんに対する偏見も解消していくような気もしますね。

大橋 本当にそのとおりですね。実はNTT DoCoMoが相互交流のための新しいプロジェクターを貸し出し、モニターを募集しているという話を聞きました。例えば子ども病院と学校とでモニター画面を通じて、病気の子どもたちとそうでない子どもたちが「宏君、元気?」とやり合って交流する。こんなことができたら素晴らしいですよね。

吉田 子どもたちの相互交流はいいですね。病院の近くには、必ず学校もあるんだから、プロジェクターとは別に、交流を深めていけばいいですよね。

大橋 もうひとつ、これからの白血病支援活動についてお話しさせていただくと、韓国にも白血病研究基金があり、日韓の音楽家や文化人で一緒に活動支援ができたらいいのでは、という話もあります。

吉田 それもまた素晴らしい。そうした交流が進めば、将来的には骨髄バンクの共有化も実現するかもしれません。私自身、臍帯血移植を経験しているのでよくわかるのですが、アジア人にはやはりアジア人の骨髄が適合しやすいんですね。将来的には僕の骨髄は韓国のあの子から提供してもらったって話が当たり前のこととして、出てくるかもしれませんね。

大橋 そうですね。そうして治療の輪を広げるためにも、まずはこの日本で多くの人に白血病の現状を理解してもらいたい。今でも多くの人は白血病というと不治の病というイメージを抱いているし、骨髄移植が成功したというと100パーセント完治したように考えがちです。じっさいのところはまったく違う。同じ病気でも人によって、症状の表れ方も違えば治療効果も違っています。そうした基本的な部分から理解を広げていきたいですね。

吉田 大橋さんのような人が1人いることで、活動の輪が広がっていく。私もその輪のなかに加わりたい。仲間の1人として、協力させていただければと思います。

(構成/常蔭純一)


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