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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
ポイントは、ナース。ナースが意思決定に加われば医療の質も、患者満足度も上がる がん医療全体の質を上げるために、骨身を惜しまず取り組む
ナースのアドバイスで医師が治療を行うことも

「アメリカでは医師をチェックする
役割を担うナースがいます」(埴岡)
「そのとき医師は黙って従うシステムが
確立されているのがすごい」(吉田)
吉田 そうした分業体制だから、患者ひとりあたりのナースの数が多いんですね。
埴岡 アメリカではここ数年、「ナースの多い病院は医療事故が少ない」、「ナースに投資をすると医療の質がよくなり、患者の満足度も上がる」といった論文が続々と発表され、議会でも取り上げられました。結果、ナースの重要性に対する認識が高まってきています。
吉田 あれだけの激務なのですから、日本でも給料と社会的地位を上げ、かわりにもっと権限を与えるべきだと思います。そして、待遇がよくなれば、いい人がさらに集まり、いい循環ができると思うんです。今は逆に、悪い循環ですよね。
埴岡 そのとおりです。私が先日訪ねた中では、ジョンズ・ホプキンス病院がナースの地位という点では、一番しっかりしていました。まず、いい看護大学があり、現場にリンクしています。それから、各診療科に医長、事務長、ナース長がいる。組織の要にナースがいて権限を持っています。
さらに、各診療科に必ずひとりリサーチ・ナースがいました。治療に関する最新情報などを調べ、医師に提案する役割です。たとえば、カテーテルの入れ方について、「こういうケースでは、こんな使い方があります」というように。医師は細かい手技や処置に関することまで、なかなか最新情報がチェックできませんからね。
ジョンズ・ホプキンスは最初に骨髄移植を行っているチームでリサーチ・ナースを採用し、その結果、とても有効ということであらゆる診療科に導入したのだそうですよ。
吉田 すごいですねえ。
埴岡 もっとすごいのは、プラクティショナル・ナースです。彼女たちが日常診療のかなりの範囲をカバーしています。
また、アメリカの看護師協会には「マグネット」と呼ばれる一種の認定制度があり、看護師が医療現場で意思決定に加わり、医療の質を上げている病院に対して与えられます。認定されたのははじめ5施設くらいでしたが、今では全米で50施設くらいになっています。
吉田 医師とナースの関係はどんな様子ですか。
埴岡 たとえば、いまアメリカでは「抑止可能な死」を防ごうとい��運動が全米の病院に広がっています。集中治療室(ICU)で人工呼吸器を付けた患者さんの肺炎をゼロにする方法が開発されました。その際、「肺炎をなくすためには、5つの手技をしなければならない」など、マニュアルがあり、医師がやっているかどうか、ナースがチェックします。そして、やっていない項目があったら、「トム、ひとつ戻してやり直して」というふうに指示する。このマニュアルの最後には、「医師が従わないときは、病院長に連絡するように」と書かれ、その電話番号が付記されています。
吉田 医師は黙って従う?
埴岡 向こうではそれが看護師の役割として、すでに医師も受け入れていますからね。でも、この話をすると、日本の医師はみんな「おれ、そんな看護師に監視されるくらいなら、医者やめるわ」と言います(笑)。監視というのでもないんですがね。チーム医療の中のチェック役ということでしょう。
吉田 日本の医師は看護師を格下扱いしますからね。
埴岡 ところが、これが定着すると、医師のほうも「私は自分の良心にしたがって医療を行う。そのためには、チェックする人がいたほうが安心だ」と変わるんです。ナースが調べ、アドバイスし、チェックしてくれる、その舞台とお膳立ての上で自分は治療をすればいいと。
実は、アメリカも20~30年前まで医師とナースはすごい上下関係で、日本と同じようだったそうです。日本だって、変われるはずです。お手本があるのだから、変わるために何10年も必要ないでしょうし。
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