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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
ポイントは、ナース。ナースが意思決定に加われば医療の質も、患者満足度も上がる がん医療全体の質を上げるために、骨身を惜しまず取り組む
物事を成さざることで罪を犯すこともある
吉田 前回、日本の医療も変わり始めたという話が出ましたが、埴岡さんは情報開示についても、闘ってこられましたね。
私が入院し、臍帯血移植を受けたとき、5年生存率のデータを必死に探しましたが、当時はラットのものしかありませんでした。でも、今はそれが公になっていて、埴岡さんたちの努力が結実していることを感じます。
埴岡 情報開示は世の中の流れですから、遅かれ早かれ開示されていくと思います。実際、医療界はかなり変わってきていると思いますよ。
前世紀の終わりに骨髄バンクでも施設別の症例数を開示し、次に治療成績を開示することになったのですが、その方針策定を担当していた医療委員会では、自分たちが意思決定をする前に、日本全国の血液内科医にアンケートを実施することになりました。
予想としては、多くの反対を見込んでいたのです。でも結果は、ほとんどの医師が賛成でした。開示の前には大混乱が起きるのではとの心配の声もありましたが、実際には何も起こらず、日本の移植は粛々と進んでいて、単に言いだしっぺがいなかっただけだなと思いましたね。
同じように、10年たてば、どの分野でも治療成績開示は当然のことになると思っています。でも、問題はスピードです。
骨髄バンクの情報開示がもっと早くされていても、問題は起きなかっただろうと思います。ぼくはよく「物事が成されない不作為という罪」と言うんです。何か物事を成して小さな混乱があると、「それ見たことか」「いったいどうするつもりか」などと言う人たちがいますが、何かに関わっている人は、物事を成さざることで罪を犯す可能性があることを忘れてはいけない。
成績開示も、なぜこんなにかかったのか、考える必要があります。また、他の領域でどうしてこれほど国際的にみて遅れているのかを反省しないとならないですね。技術的な障壁でできないというより、心理的障壁でやれないことが多いのではないでしょうか。
吉田 ちょっとテーマが違いますが、骨髄バンクのドナーさんと患者が、1年たって合意があれば会ってもいいのではないかという提案に関しても、骨髄バンクは「賛否両論ある」と結論を出していませんね。ぼくはまったく問題ないと思っているんですが、これも同じような話という気がしますね。
埴岡 まさにそうですね。ぼくもドナーと患者が会って、全然かまわないと思います。
吉田 何が問題なんでしょ��。
埴岡 何が問題だと言っているんでしょうかね。ひとりや2人はお金を請求する人がいるかもしれないとか、患者が心理的圧迫を受けるかもしれない、といったことでしょう。でも、確率はきわめて低いし、もし起きても解決できることですよ。医者でも薬でも治せない病気を赤の他人のドナーの善意によって治すという偉大なる社会システムを人類は発明して運営しているわけです。骨髄バンクってそういうことでしょう。骨髄バンク事業には患者とドナーのコーディネートにも、ドナーの骨髄採取にも一定のリスクが存在します。移植という治療自体も大きなリスクを伴うことです。
リスクのあることを、封じ込めながら人の命を助けること、人道的に正しいことをやろうというのが、骨髄バンクの精神ではないでしょうか。対面にも小さなリスクがあるかも知れませんが、何とかみんなの英知で対処できるでしょう。現に米国など対面を実施している国でも、骨髄バンクを揺るがすような問題は起きていません。ドナーと患者が対面するという美しいストーリーの実現のため、みんなで少しの労をとってもいいのではないでしょうか。そんな余裕もないのは悲しいですね。
吉田 だれかが言っていました。日本の社会は1のリスクのために、99の可能性を潰すと。
埴岡 リスクは世の終わりではないし、吸収することもできるのに、なぜできないか、一方で失っていることがあるのではないかと思うと本当に残念ですね。
吉田 どうぞ今後もよろしくお願いします。
(構成/半沢裕子)
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