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- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
血液内科志望の医師が血液の難病から生還した貴重な体験と教訓 2度の死にかかった体験から「生かされた。使命を与えられて」と感じる
自分自身の命をもって、毎日データを更新中

田結庄さんの誕生石と臍帯血の赤ちゃんの誕生石の2つの石を
リングにしたネックレスは父からプレゼントされたもの
吉田 再発に不安がよぎったりすることはありますか。
田結庄 もちろん、あります。
吉田 私も3カ月に1回、マルク(注5)をやっていますが、再発したときはマルクをやったある夜、外で気持ちよく飲んでいたら電話がかかってきました。だから、今もマルクの夜はこわいですね。
田結庄 同じです。私は月1回の通院ですが、午前中に採血をして、午後診察。その間にお昼を食べているときが、いちばんいやです。
吉田 私は3年がめどで、次は5年と思っているんですが、再生不良性貧血の場合はどうですか。
田結庄 実は、成人の再生不良性貧血に対して臍帯血移植を行うというのは、今は適応がありません。教科書にも、「生着不全が起こる可能性があるから、やるべきでない」と書いてあります。
吉田 ええっ?
田結庄 私をふくめ、移植を行ったのは虎の門病院で6~7名です。どのくらい再発するのか、拒絶反応が起こるのかも、まだわかっていないんですね。
吉田 田結庄さんは、1日1日データを更新しているんだ(笑)。
田結庄 だから、交通事故に気をつけないといけません(笑)。
吉田 あまり無理に働くのもね。
田結庄 そうなんです。私が無理に現場に戻るより、データを残したり、移植後の免疫状態をデータベースに残してもらったほうが、よほど血液科に貢献するのかも(笑)。
臍帯血移植全体の生存率を見ると、現状ではなかなか厳しいものがあります。とりあえず2年がんばって生きて、あとは何とかなればといい加減に暮らしています。
吉田 そうか、きびしいなあ。でも、潔いですね。日頃から患者さんに接して来られて、死をどう受けとめるかという心の準備ができていたのでしょうか。
(注5)マルク ドイツ語で「骨髄」の意味。骨髄を調べるために骨髄穿刺といって、胸骨または腸骨に針���刺して骨髄液をとる検査
命をくれた赤ちゃんとおかあさんに日々感謝
田結庄 どうでしょう。みんな「どこかで終わりが来る」と思っているけれど、普段は見えませんよね。私、たぶん見えたと思うんです。今も「明日死ぬかもしれない」とどこかで思っていて、それはすごくこわいけど、明日死んでしまいたいと思うほうがずっとつらいと思うので、今は幸せだなあと思って暮らしています。
吉田 私は生に執着して、「絶対に生きる!」という意志で生につながった気がしています。でも、田結庄さんのように、死を必然のものとして受け入れ、なすがままに治療を受けていくことが、生につながることもあるんですね。
私は病気以来、「生かされている」と感じるのですが、田結庄さんはいかがですか。
田結庄 すごく感じます。感謝の気持ちは何百倍にもなりました。おいしいものを食べてもきれいな景色を見ても、「私に命をくれたおかあさんと赤ちゃんも、幸せに暮らせていますように。ありがとうございます」と思います。吉田さんのご著書にもありましたが、偶然と偶然、巡り合わせが重なって、ようやく生きていられる。ですから、私ができることは今後の医療への貢献と、やはり思っています。
吉田 医師を志すきっかけになったのは、阪神大震災だとか。
田結庄 はい。私、神戸市長田区の生まれなんです。
吉田 えっ、いちばんの被害の中心地?
田結庄 高校2年生の冬でした。家は焼け残りましたが、とても住める状態ではなく、まわりに亡くなった方がいます。そんな中、「人を助ける仕事ってすごいなあ」と思いました。同時に、「人って死ぬんだ」と思いました。
吉田 死がリアリティをもって自分の周りに見えたんですね。私も発病したときそうでした。死なんて遠いものだったのに……。
田結庄 そうそう。このときも、いきなりゴールが見えました。当たり前に日常生活だったものが、30秒後にすべてなくなり、「世の中ってこんなに変わるんだ」と。水道なし、ガスなし生活が3カ月で、朝は水を汲みに行くところから始まりましたもの。
吉田 貴重な体験を、2回もされてしまったわけですね。
田結庄 波乱万丈よ、と言ってます(笑)。
吉田 やっぱり何か使命を与えられて、生かされているんですよ。
田結庄 がんばって勉強しないといけませんね。
(構成/半沢裕子)
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