「もらった命」。だから怖いものは何もない 自分にできることは何かを考えて、行うことが大事

ゲスト:大谷貴子 全国骨髄バンク推進連絡協議会会長
発行:2006年1月
更新:2013年5月

希望をつなぐ、バンクの存在

吉田 最終的にはお母様とHLAが奇跡的に適合することがわかり、お母様から骨髄移植を受けたわけですね。大谷さんは20代で発病して、頼れるお姉さんもいたし、お母さんもまだ若いからドナーになることができた。だから、わがまま放題に甘えるだけ甘えて「私は生きたいんだ」という気持ちになったのはすごく自然だと思うんですよ。
僕の場合はまったく逆。40歳過ぎで発病して、両親はもう70歳を超えていたし、妻は妊娠中で右も左もわからない。だから僕は患者でありながら、家族にはまったく弱みを見せられなかったわけです。僕が弱みを見せたらすべてが崩れていく感じがして、本当に怖かった。周囲に家族がいないときだけ内緒で泣いてましたね。

大谷 大変やったね。

吉田 ともあれ、大谷さんが骨髄バンクを設立したおかげで、数え切れないほどのがん患者さんが助かることになったわけです。僕自身も7人いたはずのドナーがゼロになり、選択肢がなくなりつつあったときに、たまたま骨髄バンクのホームページで臍帯血移植のデータを見て、ワラをもつかむ思いで臍帯血移植に踏み切った。その意味では、骨髄バンクのありがたみを体感した患者のひとりなんですよ。

大谷 もしも吉田さんが病気について調べるのを奥さん任せにしていたら、そうはならなかったでしょうね。

選択肢を増やす骨髄バンクと臍帯血バンク

吉田 ところで今、骨髄バンクと臍帯血バンクはどういう関係にあるんですか。

大谷 お互いに補完しあっています。以前は、骨髄バンクでドナーを探しても見つからなかった人が臍帯血移植を受けていたんですね。だから昔は臍帯血移植の治療成績が悪かったんです。でも今は、骨髄移植と臍帯血移植の同時検索をするようになった。チャンスは1つよりも2つのほうがいい。その意味では幅が広がったと思いますよ。

吉田 臍帯血移植が進んでいない5年前だったら、僕は確実に死んでますよ。医学の進歩は早いので、生き延びていれば医学のほうが追いついてくる。患者にとってはありがたいですね。

大谷 少子化で臍帯血の本数が伸び悩んでいるとはいえ、最近は十分確保できるようになってきている。骨髄移植のドナー登録数も現在20万人。まだまだ十分とは言えませんが、対象年齢を拡大したこともあって、10月に初めて月間登録者が6000人を超えたんですよ。だから骨髄バンクも臍帯血バンクも、互いに補完しながら大きくなって欲しいと思っているんです。臍帯血が5本あり、ドナーが5人いたとして、10の選択肢の中から最高に自分に合うものを選べる時代になってほしいですよね。

吉田 そうですね。大谷さんはもう18年経っているから問題ないけど、僕はまだ1年ちょっと。だから再発には気をつけないといけない状態なんです。

大谷 私は寛解でない状態で骨髄移植を受けているので、残存するがん細胞がどう悪さをするかが心配されていたんですね。でも無事5年目を迎えることになり、快気祝いを兼ねてパーティーをやろうということになったんです。そのときのスピーチで主治医の先生がこうおっしゃったんですね。「大谷さんが再発もせず、こんなに元気になるとは僕たちは思いもしませんでした。こんなに元気に5年目を迎えられたということは、完全に彼女の自然治癒力です」って。それを聞いて私にも思い当たることがあった。5年間いろんなことを忘れて骨髄バンク設立に没頭できたことが、再発しなかった理由なんじゃないかと。吉田さんも先日ロスに出張に行ったそうですが、内心「行け! 行け!」と思ってるんですよ。

吉田 そこはぜひ、書いておいてもらいたいな(笑)。

大谷 人生いつ死ぬか分からない。あれやりたかったなあ、と後悔することがないように。

余命とは「余りある命」


今ある命はもらった命、生かされた命。
だから怖いものはない

吉田 死と向き合う経験をすると、「生かされている」と感じるようになる。死の恐怖を克服すると、命をもらったような気持ちになりますよね。もうひとつの命を与えられたんだから今度は世のため人のために生きたい、と思うようになった。大谷さんもこれだけの活動をされている方だから、その辺はかなり意識されているんじゃないですか。

大谷 「余命」という言葉があるでしょ。「余った命」だなんて、すごくいやな言葉ですよね。私の言う余命とは「余りある命」。もらった命、継ぎ足された命と言う感覚ですね。だから怖いものなし。何しても楽しいんです。

吉田 そのありがたみを、元気なときは日々感じていなかった、ということだよね。生かされた命だから、僕もいろんな患者さんの力になりたい。でも、中には願いかなわず死を迎える方もいらっしゃる。そういう方と触れ合う心の準備が僕にはまだできなくて。きれいごとではボランティアはできない、助けようと思った人の死に直面することも覚悟して活動しないといけない。そう言えば、大谷さんも18年間、喪服をクリーニングに出すヒマがないとおっしゃっていましたね。

大谷 実は今日の午後、小学生の男の子の葬儀があったんですよ。先週初めに「今週一杯」と言われ、土曜日に亡くなったんですね。以前から「“まいうー”のタレントの石ちゃん(石塚英彦)に会いたい」というのが夢だったので、テレビ局の伝手をたどってマネージャーさんに連絡をとったんですね。そうしたら、なんと石ちゃんが名古屋の病院まで来てくれることになったんですよ。石ちゃんはタンクトップ姿で病院に現れて、時間の許す限りその子と一緒にいてくれて、「まいうー」とかやってくれたんだって。その子、最後はお父さんに体を拭いてもらってるときに、「お父さん、気持ちいい」と言ってスーッと亡くなったんですって。だから私は思うんです、自分にできることは何かと考えて、それをやることが大事なんだって。

吉田 本当にそうですよね。

(構成/吉田燿子)

関連書籍

大谷さん自身の体験を記した闘病記。慢性骨髄性白血病の発病、骨髄移植、骨髄バンク運動への参加から、現在に至るまでが克明に綴られている

『白血病からの生還「霧の中の命」増補版』
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二見書房 1575円(税込)
『生きてるってシアワセ!』
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スターツ出版 1365円(税込)

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