患者が医師を評価するシステムの導入を 患者の意識変革が日本の医療を変える

ゲスト:田中祐次 デューク大学メディカルセンター研究員
NPO法人血液患者コミュニティ「ももの木」理事長
発行:2005年12月
更新:2013年5月

先生には笑顔、家族には愚痴


先生には笑顔、家族には愚痴を言うので、
医師は患者の気持ちがわからない

吉田 声を上げるというと、調子にのって言っちゃいますが、病院の待ち時間、あれなんとかならないものですかね~。

田中 患者さんは腰痛でも湿布1枚出してもらうのに1日待ったりしてるんですね。湿布を出す先生のほうは息も絶え絶えの重症患者がいて、ずーっとこの人を診ている。夕方になってよくやく落ち着いたら、看護師さんから「先生まだ湿布出してないんです」と言われて、気がつくが、先生は「湿布は明日にするか」ですます。でも患者はずーっと待っている。それを忘れてはいけないと、看護師をしている母親に言われました。

吉田 患者さんとメールで話をされて感じたことやわかったことなどありますか。

田中 患者さんは、先生にはその日100パーセントの笑顔を渡すんですって。次の笑顔は看護師さんに渡す。つらいことは家族とかに愚痴る。先生は、回診で「吉田さん調子はどう?」って聞くと、つらくても患者さんはニコニコして「はい、大丈夫です」って言う。しかし、時々看護師さんに「実はつらいんです」とこぼす。それで看護師さんがそのことを先生に告げると、先生は「僕が行った時は元気だよ」となる。

吉田 自然に先生に接することができないんですよ。回診に来たらちょっと緊張しちゃったり、ちょっと笑顔出してみたり、元気だよって見せたりしがちなんです。

インターネットが患者の力になる

田中 患者さんが先生を信じられなくなって、治療方針が大丈夫かなあって疑問が出て、僕のところに相談に来たりします。しかし、僕は実際にその患者さんの体を診ていないので、本当に治療方針がおかしいのか、先生と上手くコミュニケーションがとれないから先生に対する不信が出てきたのか、わからないんです。

吉田 今患者にはそういうのを相談できる場所とか、安心できる場所がないんですよ。セカンドオピニオンも、今の先生世話になっているからとか、先生を代えるなんて「とんでもない」って方がいます。しかし、自分の命ですからね。先生の腕、先生との相性、経験、移植ならどれだけ移植の症例数があったかとか、それから病院の評判など、あらゆる面から検討して医師を選び最善の結果を出す。それが病気を治すベストの方法なんですよね。

田中 だから患者さんも自分で学んで行くっていう意識が大事ですね。ただ、いくら調べても、わからないものもある。例えば先生同士の関係とか人脈とか、医療界の仕組みでもなかなかわかりにくい面もあります。

吉田 もちろん。それでも、インターネットでいろいろな情報を調べられるようになっているので、どんどん検索していけばいろいろな情報が手に入り、力になる時代になりました。それをどんどん活用していけばいいと思います。

患者の要求には自己責任も伴う

吉田 僕も入院が長かったのでいろいろな先生を見てきたけれど、逆に先生のほうが倒れちゃうんじゃないかって思ったりする方もいます。みんな過労で、患者側から見たら医師の数はどんどん増えて欲しいし、質も上がって欲しいんだけれども、そんな重労働だったら、あまり無理なお願いはできないな、そう思ったんですよ。そのへんはアメリカはドライなんですか?

田中 ええ、5時になったら帰りますね。講演があれば、朝早くて、その時自分が当番の時でも、今日は講演会でいかなければいけないからと、代理の先生にやってもらいます。患者さんも医者も皆がわがまま言ったらいいんですよ、医者も僕らは24時間働かされている。日曜日の朝から夜中まで、しかも月曜日の朝まで当直して、さらに月曜日朝から土曜日までまた働くんだと。それでも働かなければいけないのかって文句を言ったらいいんですよ。

吉田 そうですね。

田中 でも患者さんは先生に命を預けたんだから365日診てほしいんだと、24時間体制で、僕だけ診てほしいと言ったらいいんですよ。しかし、そう言った時には、やっぱり自己責任が付いてくるんですよ。それが重要なんです。

吉田 そうです、そこです。

田中 365日診てほしいと言うのなら、患者さんもそれを先生にしてもらうだけの何かをしなければいけない。ドクターを365日拘束したらそれなりの対価を払うとかしなくちゃいけないんですよ。ボランティアじゃすまない。

吉田 お上が何でもしてくれるっていう、自己責任を回避するようなところが日本人には若干あるような気がしますね。だから自分の自己責任において先生を選んだんだから、もうどんなことがあっても自分の責任でもある。そういう患者の心構えが必要になってくるんですよね。

治療の決定には十分な時間を

吉田 闘病で一番感じたのは、移植ってきつかったなあってこと。そこで、やっぱりお医者さんと患者さんがゆっくり話をして、どの治療法で行くかっていうのをお互いの合意のもとに決めることにもっともっと時間をかけるべきだと思いましたね。目線を同じにして、納得をするまで話をして、それで最終的に決める。

田中 ある先生は資料をちゃんと作って、患者さん、家族の方にまず問いかけるんですよ。 あとはこの人はどれくらい理解しているのかなっていうのをその問いかけで探っていく。そうして患者さんが納得のいく形にしています。

吉田 最後は患者さんが決めるが、「明後日までに決めてください」っていう先生もいて、それはそれでまた、苦渋します。体の具合、精神的にもとっても追い込まれる、下手すると白血病なんて2年も3年もかかる病気ですから、その時の精神的負担、入院すると外歩けないなど、全部ひっくるめて、ポケットの中のものをお互いに全部出し合って、それでどうしようかと検討する。患者からすれば、この部分に一番力を入れて欲しいし、患者の本心、本当の声を聞いて欲しいところですね。

田中 患者さんも十人十色。病気や治療のことをとことん知りたい人もいれば、そういうことはあまり知りたくないという人もいる。そこで、説明の際、そうした患者さんやご家族の方の性格や心理を探りながら説明していく医師もいます。

吉田 すごくいっぱい調べてる患者さんはドクターから嫌われるんじゃないかと。素人のくせに生意気なというように。

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