- ホーム >
- 連載 >
- 吉田寿哉のリレーフォーライフ対談
患者が医師を評価するシステムの導入を 患者の意識変革が日本の医療を変える
治療のタイミングを合わせる困難さ
田中 臍帯血移植をした患者さんの立場として、移植で感じたことは?
吉田 一番感じたのは、寛解になって体の良い状態で移植をするときの成功率は、良くない状態よりとっても成績がいいんです。したがって、良い状態で移植をするために、いろいろな条件を、そのタイミングに持って行かなければいけない。それがもう精神的にも肉体的にも大変疲れちゃうんです。
田中 そうですね。
吉田 骨髄移植はどうしても相手の都合があります。検査をする、相手がいつ休みを取れるか確認する、健康診断をする、3泊4日の入院が可能か、いろいろなことをやっていると、いいタイミングを逃しちゃう可能性があるんですね。ところが臍帯血の場合はもう冷凍保存されているので、血清っていうのがピッタリ会わなくてもできる。僕の場合、実際にドナーがいなくって、アメリカ探しても、中国、韓国探してもいなくって、兄弟もいなくってもうどうしようもないっていう状況で、助けてもらったわけです。
田中 臍帯血というのは重要ですが、臍帯血バンクっていう問題が確かにあるんですね。何が問題なのかっていうのを正直にちゃんと出して、解決したらいいと思うんですよね。話は単純だと思うんです。ぶっちゃけて言うと、なんで骨髄バンクと臍帯血バンク分かれているの?なんで臍帯血バンクが全国に散らばっているの? ってこと。
吉田 国の補助を受ける財団法人とNPOと、どう違うのかとか。
田中 もう1つの問題は、臍帯血バンクは本当に必要なのかって問題。臍帯血バンクといっても、どこかで利益をださなければいけないでしょう。臍帯血移植をした患者さん自身にもらうようにしなければいけないのか、それとも一定額国の補助を入れなければいけないのか。そこも考えなければいけない。
お金のない小学生が寄付できる仕組み
吉田 以前先生と電話で話をしていてとってもびっくりしたことは、日米でボランティア献金の規模の違いです。日本よりも桁違いの基金が向こうは集まるらしい。
田中 「白血病と悪性リンパ腫の会」という組織があって、銀行が億のお金を出したり、大リーガーが何千万出したり、それでチャリティマラソンとかやると、それでまた集まるんですよね。向こうに行って初めて知ったんですけれど、小学生が寄付する時にお金がない。どうするかっていうと、10キロマラソンをやるんですって。そして僕が10キロ走ったらみなさん100円くださいって、レース前にいろいろな人に広報する。そしてもらうんです。そうして集めたお金を寄付する。そうするとお金がなくっても寄付できる。そういうのが結構あって、お金がグワッって集まる。これも社会の仕組み��と思うんですよ。
吉田 日本では寄付っていう形がそんなには根付いていないですよね。
田中 向こうのテレビ番組で、結構好きなのがあるんですよ。「笑っていいとも!」のショッピング版。1時間番組で歌もあり結構楽しいんですよ。それでこの間、「津波」の被害があったとき寄付を募った。すると2千万円寄付するっていう人が現れてくるんですね。その番組だけで総額1億円集めちゃうんですよ。日本はどうかというと集まらないんです。でも国が出すんです。つまり僕ら寄付は払わないけれど、払っている税金で寄付しているんですよ。
吉田 結局出所は一緒。自主的か強制的かの違いですね。
生きていれば、何でもできる
田中 今日本の若い人で「明日死ぬ」って思っている人っていないんですよ。皆来週の予定たて、1年後の予定たてている。でも白血病の患者さんは違う。彼らは、死を頭で理解するんじゃない。入院して1カ月ぐらいすると同じ部屋の人が何人か亡くなるんです。夜中に寝ていると、バタッバタッと主治医や看護師が来て、病室を出て行く。皆眠れない夜を過ごすんですよ。次は、自分じゃないかって。じゃ、そういう患者さんの気持ちを誰がもう1回蘇らせてくれるかっていうと、死というものを身近に感じてそれを克服した白血病の患者さんじゃないかって思うんです。
吉田 まさに私ですね。(笑)
田中 僕の診ていた患者さんに野球少年だった人がいるんです。20代半ばで入院してきたんだけれども、死ぬのが怖い、死んだら何もできなくなっちゃうのが怖いって言う。そこで僕は「今生きているから、何でもできるじゃんか。頑張れ!」って言ったら、最後の1年にかけてマイナーリーグの試験を受けに行ったんです。本当に死と向かい合った人、闘った人の言葉って強いですね、心震わせるんですよ。
吉田 僕も、病気をして初めて、自分は生かされている存在ということに気付いて、それで何か社会に役立つことをやりたいと心の底から思うようになったんです。
日本の医療を変える患者の意識変革

医師と患者の距離は縮まれば縮まるほど
患者は安心する
田中 僕は、患者会の活動として、小学校に患者さんと一緒に行って「命の授業」っていう講演会をやっているんです。小学生なんかに命、死、闘病って言ったってわかんないよとよく言われるんですけれども、でもやってみたら5、6年生の反応がすごいんですよ。それに心を震わせる人が出てきて、何か変わって行くんじゃないかなと思って。吉田さんの本はそういう影響力が出る本だと思うんですよ。
吉田 ありがとうございます。「頬に風があたる嬉しさ」なんて、普通の人は考えもしないですよね。だけど無菌室や病棟から出られない生活から、1日だけだけど「外泊していいよ」って言われた時にポッと外にでて風があたるその嬉しさが、「ああ、生きていてよかったなあ」っていう瞬間ですね。そういう瞬間に毎日、毎日接しているのを人は感じなくなっているんですね。
田中 病気は確かに不幸なことかもしれないけれど、その経験をすることによって、今まで見えていなかったものが見えてくるのは、貴重な経験ですね。
吉田 それに、この世の中、1人では生きていないってことですね。病気をすると、これがもっとわかります。まず家族があって友人がいて、それから先生方がいて看護師さんがいて、みんなに支えられて生きている。だからそれはお返しして行かなければいけない。それが支え合って生きていく社会であり国であり地球であればいいですね。
田中 患者さんは皆言うんですよ。人間ってね、人の間って書くんだよ。人との間に居なくなったら人間でなくなるよって。
吉田 僕、今まで仕事がものすごく忙しいっていう言い訳で、知人が闘病していてもあまり見舞いには行かなかったんですよ。そんな恥ずかしいことないって、今感じていて、仕事が多少急がしくても僕が行くことで、元気が出たり、励ますことができるのなら、どんなところにでも顔出そうって思っています。そういうふうに意識がガラッと変わった。
田中 そういうのがこれからの日本の医療が変わっていく1つだと思うんですよ。その人のできることなんでも良いと思うんですよ。隣の人に「どうぞ」って言ってあげる1言でもいいし、できることをちょっとやって行くことが繋がると思うんですね。
吉田 そうですね。
同じカテゴリーの最新記事
- がん医療の弱点を補完するアンチ・エイジング医療 病気を治す医療から健康を守る医療へ
- 医療の第一歩は患者さんから話を聞くことから始まる
- 治療困難な「難治性白血病」の子どもたちが3割以上もいる 行政には医療制度のしっかりした骨格を、血肉の部分は「みんな」で育てる
- 本邦初のチャリティレーベルに10人のプロミュージシャンが参集 音楽、アートを通して白血病患者支援の輪を拡げたい
- 何よりも治療のタイミングが大切。治療成績向上の秘訣はそこにある 血液がん治療に新たな可能性を開く臍帯血移植
- がん患者、家族1800人を対象にした大規模調査から問題点をアピール 患者の声を医療政策に反映させようと立ち上がった
- 人の痛みや苦しみを体感した彼女が、自ら生み出した“LIVE FOR LIFE” 同じ境遇の人たちに勇気と希望のエールを。美奈子はそれをライフワークに選んだ
- ポイントは、ナース。ナースが意思決定に加われば医療の質も、患者満足度も上がる がん医療全体の質を上げるために、骨身を惜しまず取り組む
- 「なぜベストな治療にまっすぐたどり着けないのか」という疑問から出発した医療改革の道 日本の医療を良くするには、アメリカの医療の良い面を取り入れるのが早道