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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・渡辺 亨さん 知れば知るほど奥の深い抗がん剤、もっともっと知りたい
ホルモンを食べるがんを兵糧攻めにする

渡辺 図3は、左がたちのいい乳がん、右がたちの悪い乳がんです。肉食恐竜と草食恐竜で表してありますが、肉を食う恐竜からは肉を、草を食う恐竜からは草を取り上げればいい。細胞毒性抗がん剤は、正常細胞もやっつけてしまうので、さまざまな副作用が出ますが、ホルモン剤は、がんが食べているものを取り上げて兵糧攻めにすることによって、がんだけを抑えるので、副作用が大変軽いわけです。
田原 がんが食べるものとは、人それぞれちがうんですか?
渡辺 いいえ。食べるものは女性ホルモンですが、ホルモン受容体陽性の場合だけです。
田原 具体的にはどこで「兵糧」を止めるんですか。
渡辺 アロマシンやアリミデックスは、副腎から出る男性ホルモンが女性ホルモンに変わるのを妨げて元を断ちます。
田原 あるときから、ホルモン剤も効かなくなりますか?
渡辺 それも耐性です。たくさんのがん細胞のなかには、もともとホルモン剤が効かないものも混じっています。ホルモン剤が効くものは死んでも、効かないものは残って分裂して増え、最終的にホルモン剤が効かないものばかりになると考えられます。
田原 一人の人のがん細胞の中にも、いろいろあるんですか? 私は、個体差はあっても、個人の中で違うとは思っていませんでした。
渡辺 まったく同じではありませんが、概ね同じ性格ということができます。
田原 ホルモンレセプターのあるなしは、単なるキャラクターの違いですか。
渡辺 ホルモンレセプターがあるということは、もともとの乳腺組織の性格をより強く持っているということです。より分化度が高く、正常細胞に近い。ホルモンレセプターがないほうが、より逸脱している。これまでは逸脱したものには対処の方法がありませんでしたが、HER2という特性を持っていることがわかったので、ハーセプチンで攻められるようになりました。
田原 私の場合、ホルモン療法では副作用がまったくなかったんです。副作用がないから効かないというような感じでした。
渡辺 よく、副作用がないと効かないように言われますが、これはぜんぜん別のことです。ホルモン療法は、ホルモンの流れを遮断することにだけ働くので、副作用が少ないんです。
田原 抗がん剤は組み合わせるけれども、ホルモン剤と抗がん剤の組み合わせはしないのだそうですね。
渡辺 ホルモン剤と抗がん剤を一緒に使わないのは、二つの理由があります。一つは、同時に使うと効果が減弱する場合があること、二つめは、同時に使うと何が効いているのかが分からなくなるからです。よく効いているものを、いかに効率よく使うかに専念するために、抗がん剤とホルモン剤は分けて使います。
正しい情報で誤った抗がん剤のイメージの払拭を

田原 私たちは、親とか、上の世代が経験したことを見聞きして、抗がん剤のひどい副作用というイメージが植え付けられています。でも自分の体験から言うと、確かに楽ではないけれど、言われるほど刺激的なものではない。命に別状のない副作用ならばがまんしきれる、と言えちゃうということは、それほど厳しくはないということです。
渡辺 私の家族も乳がんで、相当きつい抗がん剤治療をしました。治療の最中は、外に出るときは身ぎれいにしていても、寝起きの顔なんて、髪も抜けているし、ちょっとびっくりするぐらいでしたけれど、「抗がん剤の副作用がすごいというけれど、私が受けたのはつらいほうなの?」と聞くので、「分類からいうと、一番つらいほうだよ」というと「あれで?もう1回やれと言われればやれるわよ」と。
田原 カイトリルやデカドロンが使われ始めたのはいつぐらいですか?
渡辺 92~93年ごろからです。それ以前は、抗がん剤によっては吐きどおし吐いているという人もいました。けれども今は、そういう人はめったにいません。
田原 私のがん友達たちにも、吐いて大変という話はほとんど聞きません。
渡辺 間違ったイメージが強く刷り込まれていて、本来得られるメリットを得ていない人は、多いかもしれません。
田原 以前は抗がん剤という名前さえ変えたほうがいいんじゃないかと思うぐらい、拒絶反応が強かったんです。そのあと、何度かの抗がん剤治療を受けて、私自身これだけ変わっていますから、案外簡単に変わるものかもしれません。
渡辺 僕自身は父親も内科医なので、子供の頃から薬には抵抗はありません。注射はきらいですけどね(笑)。必要な薬は必要なときに飲むほうがいいと思っています。どちらにしても、正しい情報が大切ですね。
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