シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・西尾正道さん 初期治療から緩和ケアまで、がん治療に大活躍する放射線治療のすべて

撮影:岡田光次郎
発行:2004年4月
更新:2019年7月

説明さえきちんとあれば、患者は納得できる

リンパ節転移を「抗がん剤の効き目の判定に使う」ようなことも、長いスパンで見れば病状マネジメントのひとつ。必要なときに必要な治療を行えればよい
リンパ節転移を「抗がん剤の効き目の判定に使う」
ようなことも、
長いスパンで見れば病状マネジメントのひとつ。
必要なときに必要な治療を行えればよい

田原 私は、最初の治療で胸がどろどろになってしまったので、放射線の印象は良くなかったんです。

西尾 田原さんは炎症性乳がんで、皮膚表面までがんが来てしまって、皮膚まで100パーセント焼かなければ治療できなかったんです。結果的に、炎症性乳がんを手術できるところまで持っていけた。これは大変なことです。だから、1回目の治療は非常に上手にいったと僕は思います。

田原 私も今はそう思うんです。当時は、説明がなかったのが決定的でしたね。

西尾 こういう理由でこうなりますと説明すれば、患者さんは安心するものなんです。

田原 病気になったのは自分ですから、きちんとした説明さえあれば、患者は辛抱できます。

西尾 ふつうの人なら1カ月で治るところ、田原さんはがん細胞が混ざった皮膚でしたから、治るのに3カ月かかってしまった。またよく動くところですから、傷も治りにくかったんです。

田原 腕を上げ下げする運動を、すぐにさせられて、だから穴が空いて、そこに継ぎを当てたようなものですが、お裁縫でも難しいところですからね(笑)。

放射線にも種類がある?

[各種放射線の深部量百率曲線]
各種放射線の深部量百率曲線
放射線の種類によって、身体のどの深さで
一番エネルギーを発するかが違う

田原 昔はコバルト線と言っていましたね。今の放射線は違うんですか?

西尾 コバルトなどの自然界にある放射性物質から出る放射線はアルファ線、ベータ線、ガンマ線などとギリシア文字で呼びます。

田原 私の脳転移を治療したガンマナイフはガンマ線。

西尾 そうです。

田原 これまでの放射線治療とリニアックというのは、何がどう違うのですか?

西尾 現在の放射線治療は高電圧により真空管の中で電子を加速して、人工的に色々なエネルギーのX線を出して使っています。このX線の発生装置がリニアック(直線加速器)です。

田原 つまり、より強力な治療ができる?

西尾 というよりも、病巣の深さに適したエネルギーのX線を使うことで、効率よくがん病巣に照射���ることができるということです。

田原 部位によるということですね。

西尾 最適なエネルギーの放射線を使うことと、多方向から照射したり、回転しながらかけるなど、最適な照射技術も駆使します。エネルギーと照射技術をうまく組み合わせることが大切なのです。

足りないマンパワー、需要を満たせない機器

田原 患者としては、一番効く治療法を受けたい。でも、非常に高価で、何億円もの設備投資が要るから、重粒子線治療装置などは日本に2、3カ所しかない。実験的な治療する以外は、実際にはお金を払っても受けさせてもらえない。非常に疎外された気分になります。

西尾 普通の放射線では効かない悪性黒色腫や肉腫にも、炭素イオン線だと効く。でもそれは最先端の治療で、まだ研究段階です。それよりも、日本中に700カ所もあるリニアックをきちんと使いこなすほうが患者さんには利益は大きいと思います。
でも、日本ではそれができていません。リニアック1台あればすべてOKではなく、コンピュータ技術を使って高精度に照射するための周辺機器が必要ですが、それが揃っていない病院が多いのです。

田原 放射線治療のドクターも、少ないですよね。

西尾 日本の医学部で、放射線治療の教授は、20人ぐらいです。

田原 は?たった20人?

西尾 放射線科の教授といっても、診断の人が多いんです。日本全国に放射線科医は4500人ほどいますが、そのうち9割が画像診断医で、放射線治療医は400人ぐらいしかいない。圧倒的にマンパワーが不足しています。
また欧米では、医学物理士とか線量計算士という専門職種が院内にたくさん雇用されていて、複雑な放射線治療機器の管理や正確で効率的な放射線治療を行うための線量計算などの仕事をしています。しかし日本ではその職種もありません。

田原 ドクターが機械の管理までされるのは、大変ですよね。

西尾 医者がやるのは無理ですが、現状は少ない放射線治療医と放射線技師が、一人で何役もこなしている状況です。

田原 私は数少ない放射線治療のドクターの、何人かを存じ上げてることになりますね。

西尾 教授が少ないため、育つ治療医も少ないんです。04年から卒後研修制度も変わるので、放射線科に来る人はもっと減ります。2015年にはがん患者は89万人となります。手術も抗がん剤も使えないため、放射線が治療の柱になる人ももっと増えます。ニーズは高いのに、やる人がいない。これは社会全体の問題です。小児科医が少ないといっても、放射線治療医はその比じゃないんです。

重粒子線=炭素イオン、陽子など、ふつうの放射線(電子)より重い粒子を利用した放射線
炭素イオン線=重粒子線のひとつで、炭素原子に電圧をかけてイオン化したもの

同じカテゴリーの最新記事