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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・幡野和男さん さらに副作用を少なく! 放射線の最先端治療 IMRTのこれから
治療を「待てる」こともあるが、治療の「住み分け」が理想的
田原 患者がIMRTを受けたいと思った場合、どんなふうにしたらこの治療に近づけるんでしょうか。
幡野 最近は患者さんのほうがインターネットなどで調べて、非常に詳しいんですが、この治療が適応かどうか患者さん自身が判断するのは難しいかもしれませんね。もしかかっている病院が放射線治療のできる施設なら、そこの放射線治療医に相談するのが第一だと思います。ただ、IMRTを受けられる病院が、北海道大学、札幌医科大学、東北大学、千葉県がんセンター、天理よろづ相談所、近畿大学、京都大学と、10施設に満たないんです。近くに住んでいる方はいいですが、遠くの方は受けたくてもやっている施設がない場合があります。
田原 これから増えるんでしょうか。
幡野 ちょうど、この治療に関する技術的なガイドラインが整備されつつありますので、この1、2年で15施設ぐらいに増えると思います。
田原 もし、千葉県がんセンターに相談に行って、治療が可能とわかったら、すぐに治療は受けられるんですか。
幡野 脳腫瘍など「待ったなし」の病気の場合は、すぐに始めるんですが、前立腺がんの場合は、実は6カ月待っていただかねばならないんです。
田原 6カ月も待つと、病気が進んでしまいませんか?
幡野 前立腺がんの場合、ホルモン療法を先に始めることで、PSA(前立腺特異抗原)も下がりますし、腫瘍そのものも小さくなるので、それから放射線を当てても十分治療効果が上がります。患者さんにも安心して待っていただける要素はあるんです。さきほど申し上げたように、手間暇のかかる治療なので、施設的にどうしても待っていただかなくてはならないのが現状です。
田原 ドクターの診断として「待てる」からお待ちなさい、ということですね。でも、待てないという方もいらっしゃるでしょう。
幡野 ホルモン療法のことを先に説明すると、たいていは待っていただけるんですが、どうしても待てないという方の場合は、ふつうの原体照射だと1、2週間以内に始められるので、そちらを提案します。
田原 前立腺がんだけでなく、どのがんでも、ふつうの照射でいいのなら、ほかの病院でもできるわけですよね。そちらに行っていただくことはできないんですか?
幡野 その「住み分け」ができれば一番いいのです。うちじゃなくても十分な治療が受けられる患者さんは、機械の空いているところでできればいい。実際は、放射線治療をセンター化すれば、人手も機械も十分あって問題ないのですが、現状では各病院で、自分たちでできるだけの��療を供給しようとしているので、無駄になっている装置が出ているんです。
田原 患者にとっても不幸なことだと思うんですが、どこが、誰が動けばいいんですか?
幡野 難しい問題ですね。行政側のシステムは箱ものや機械はそろえるけれども、そこに人はつけないよというものです。設備があるだけでなんとかしろよと。でも、IMRTのような高度な治療には、実際の治療に関する計算やコンピュータ技術に詳しい、医学物理士のような高度な専門スタッフが不可欠です。僕らのところには幸い2人いて、治療に必要なソフトを開発してくれたりもするのですが。アメリカのようにポストがきちんと整備されていないので、日本ではまだまだそのあたりが立ち後れています。こういうことは行政側が音頭をとってくれるのが第一だと思います。
田原 患者の側も、いくらより進んだ放射線治療だからといって、みんなこぞってわぁっと押しかけるのは良くないわけですよね。その治療が必要な人が行くもので、ふつうの治療で済む人は、ほかへ行きなさいと。
幡野 患者さんの心理としては、仕方ありませんけれどね。
田原 私だって、新しい治療というと、こんなに揺れ動いてしまいます(笑)。
がんは「考えて」いる?
田原 私は昨年の5月から7月にかけて1カ月半ぐらいの間に、立て続けに脳、脈絡膜、腰椎、大腿骨と転移が出て、その都度放射線で治療してきたんです。脈絡膜というのは非常に珍しいそうですね。
幡野 僕もだいぶ前に2例ぐらいの患者さんを診たことがありますが、最近はないですね。
田原 私の治療を受け持ってくれたドクターもそうおっしゃっていました。ところが、患者会では「私も脈絡膜です」と手を挙げた方が、2名もいらっしゃって、私を含めて3人で「脈絡膜の会」なんですよ。
幡野 それはすごい(笑)。
田原 脈絡膜の次は、どこへ出てくるのか、見当がつかないんですよ。放射線も相当たくさんいろいろなところにかけましたから、もう本当にピンポイントでないと当てられないのではないかと思うんです。放射線をかけられる範囲が狭くなってきているのに、そこをねらってまた転移が出てくるんじゃないかと。
幡野 確かに、がんにはそういうところがありますね。本当にヤツら頭がいいというか、なんでこんなところにと思うようなところ、サンクチュアリ・リージョンって言うんですが、「棲みやすい」ところをねらって出てくるんです。
田原 棲みやすいんですか? 脈絡膜なんていうところもそうなんでしょうか。
幡野 僕が15年ぐらい前に治療した脈絡膜の患者さんは、今でも時々電話をくれます。転移がそこで抑えられているんですよ。
田原 私も、昨年以来、次はどこだろう、と思っていたら、出てこない。止まっているんです。
幡野 なぜだか分からないんですが、どこかで止まる方がいらっしゃるんです。科学的なことは言えないんですけれど、がんがちょっと降参しているかもしれませんね。「あまり暴れないほうがいいのかなぁ」って反省しているのかも。
田原 叩かれて、今度はどこに放射線が飛んで来るかわからないと(笑)。
幡野 ヤツらは、何か考えているとしか思えないんですよ。ただ、その考え方がわからないから困るんですけれども(笑)。
新しい治療への第一歩は患者が踏み出していくもの

先人の知恵、技術機器の発達を結集して、
最先端の治療は日々進歩する。
忘れてはならないのが、
それに携わる人々の惜しみない労力だ。
治療の現場を支える人材の充実に、
行政の後押しは不可欠なのだ
田原 病気になって、5年半の間に、本当にいろんなものが変わりました。自分が病気になってはじめて医療がわかった、というせいもあるんですが、こうしてお話を伺っていても、刻々と何かが新しくなっていますね。かつては病気になったら、だんだんと悪くなって死ぬ、という感じだったのが、やりようによってはずいぶん引き延ばせるようになったというか。
幡野 患者さんのほうにがんが残っていても、QOLを保ったまま生活できればそれを良しとして受け入れられるというような、病気と共存するという考え方ができてきたということもありますね。それを踏まえて、医師側からもかなりの選択肢を提示できるようになった。
田原 確かに、どの治療法が自分の症状に一番ふさわしいかということは、結局主治医に見極めていただかなければならないわけですが、私が「がん友」によく言うのは、「こういう治療法は、自分には合いますか」という質問ぐらいは、主治医にしてもいいのではないかと。
幡野 それはもう当然ですね。相談された医者が、そこから先に踏み出して、自分のところでできるのであればそれでいいし、できない場合は、できるところへセカンドオピニオンとしてつなげられればいい。患者さんはまず、主治医に一歩踏み出せればいい。それが理想ですね。
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