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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・荻野尚さん コンピュータと情報の時代の申し子 陽子線治療は手術に匹敵する治療法
自分に向く治療かどうかは地元の放射線科医に相談を
田原 陽子線治療を受けたくて東病院まで行っても、荻野さんがごらんになって「これは向きません」となるケースもありますか。
荻野 開設当時はまだ情報が錯綜していて、陽子線治療に向かない方が8割から9割おられました。陽子線治療はピンポイントですから、たとえば全身に転移しているような場合は治療に向きません。あくまでも、なんらかの事情で手術ができないときや受けたくないときに、代わりに使うというのが陽子線本来の使い方です。
田原 最近はどうでしょうか。
荻野 ここ4年間でようやく情報が整理されてきて、あらかじめ電話などで問い合わせてこられる方も多くなりました。最近は、みなさんよくご存知で、治療に向く方が来られます。
田原 ほかのドクターからの紹介という形が多いんですか。
荻野 実は、陽子線治療のことは患者さんのほうがよく知っておられるんです。放射線治療の専門医はもちろんみなよく知っていますが、普通の内科や外科、とくにがんを専門としていない医者にとっては、陽子線治療といっても頭の中にクエスチョンマークが浮かぶようですね。一般開業医では、まだまだ知らない方のほうが多いでしょう。
田原 患者は自分に一番合う治療を常に探していますからね。でも、実際に陽子線治療が向くか向かないか迷った場合は、直接伺ったほうがいいんですか。
荻野 地元の放射線治療の専門医に相談されるのが一番いいんです。
田原 どこに放射線治療の専門医がいらっしゃるか、患者からはわかりにくいんです。ですから、地元のドクターを探すのも東病院に直接伺うのも、患者からの「距離」は似たようなものかもしれない。
荻野 日本放射線腫瘍学会という組織があって、そこの*ホームページに放射線治療認定施設の一覧が載っています。それを見ると、ご自宅から一番近い放射線治療の専門施設がわかります。
*日本放射線腫瘍学会ホームページ=http://www.jastro.jp/
ここの「認定制度」のページから認定放射線治療施設をクリックすると全国の施設の一覧がある
それぞれの治療のよいところを組み合わせる時代

「値段が高い治療でも、それが自分に
合うとなると、選びたい。患者は悩ましいですね」
「陽子線は万能ではありません。費用も含め、
これから改善していく点はまだあります」
田原 がんの患者にとって、自分の病気にどの治療がふさわしいか知る、自分で判断して患者が主役で治療を進めていくのが一番いいとは思っているんですが……。
荻野 実は、95年にアメリカで前立腺がんの患者さんにアンケートをして調べたデータですが、アメリカ人でさえも医師から治療法を提示された場合、治療法の決定は「医師にお任せします」という方が多いんです。
田原 男性にとって特に前立腺の場合は、後遺症の残ることが多い手術は避けたいでしょうね。
荻野 泌尿器科の医師は「手術だと尿失禁の頻度も高いし男性機能も失われるかもしれません、だけど手術だと全部取れますから治りますよ」と治癒への期待感を持たせる話をしがちなんです。アメリカの泌尿器科医500人と放射線科医500人へのアンケートで「中分化型の前立腺がんで10年以上生存するだろうと見込まれる患者さんの治療法は、1、前立腺全摘手術が優れている、2、放射線治療が優れている、3、どちらも同じ」という3択があって、正解は3のどちらも同じ、なんです。けれども泌尿器科医の93パーセントが前立腺全摘手術と答え、放射線治療医の72パーセントがどちらも同じと答えました。治療に迷っている人に対しては、まさしく医師の考え方が大きく影響を与えるということです。
田原 外科のドクターにかかると手術を、内科医だと抗がん剤治療、放射線のドクターだと、放射線治療を勧められるんでしょうか。
荻野 放射線治療を専門にするには、手術や抗がん剤のことも知っていないとできません。私たちは、もし陽子線を受けたいといって来られる方がいても、肺がんの早期のように手術が標準治療の場合は、特別な事情がない限り先にそちらをお勧めします。治療に迷ったら放射線治療医に聞くというのは、一番役に立つ方法かもしれません。
田原 手術、抗がん剤、放射線、この三つが並列しているわけですが、ここ数年でいっせいに走り出しているという気がします。患者は、何を選んでいけばいいんでしょうか。
荻野 それぞれの治療法を単独で勧めるという方法から、組み合わせで勧めるという方法に変化してきています。抗がん剤と陽子線の組み合わせ、手術と陽子線の組み合わせで治療している人もおられます。
田原 その患者の選択をリードなさるドクターの知恵の出所が大切ですね。
荻野 専門用語で集学的治療といいますが、それぞれのいいところを組み合わせてパワーを引き出す、そんな時代になっているんじゃないでしょうか。
田原 ひとつの治療だけでなんとかしようと思わなくていい時代ともいえますね。
荻野 陽子線も、これから国内の施設が共同で治療データ、エビデンスを出していこうとしています。世界的にも横のつながりを強くしようという動きです。その上で、患者さんに治療の指図をするのではなく、私たちが患者さんの選択のお手伝いをする、特に放射線治療医はそうあるべきだと思っています。
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