シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・佐々木常雄さん 腫瘍に精通したホームドクターが増え、チーム医療が充実すれば、がんの在宅治療は定着する!

撮影:板橋雄一
発行:2004年8月
更新:2019年7月

なぜ化学療法を受けるのか 理由をしっかり理解する

田原 化学療法を受けるときの患者の心構えをまとめていただけますか。

佐々木 「私はどうして化学療法を受けるのか」ということを、理解することです。これに尽きます。具体的には、化学療法で治るのか、小さくしてから切るのか、治癒する可能性は少ないが、延命効果を狙うのか、術後の再発予防なのか、それとも、すでに緩和としての化学療法なのか……。何の目的で化学療法を行うかを理解し、納得しないと結局はこれからの人生設計も立てられないんです。

田原 本当にそうですね。私にとって化学療法を受けるということは、1日でも生きる可能性にかけるということです。

佐々木 化学療法をスタートしたら、できるだけ検査結果などを聞いておくことをおすすめします。腫瘍マーカーが上がるがんでは、その効果を推測できます。よその病院の意見をセカンドオピニオンとして求めることもできます。

田原 副作用はどうですか。

佐々木 吐き気、嘔吐、下痢、口内炎、アレルギー反応、腎障害などは、抗がん剤投与後、わりあいすぐに出る症状です。1~2週間以降に来るものとしては、白血球減少で、しびれ感、脱毛はさらにあとでやってくることがあります。吐き気や嘔吐、白血球減少などに対しては薬も進歩し、化学療法は以前よりずっとやりやすくなりました。
一方、より効果の強い薬剤では、どうしても副作用が強く出ます。また、最近の分子標的治療薬はがん細胞だけをやっつけるとされていますが、そのかわり今までの抗がん剤の常識にはなかった副作用がありますね。このようにお話ししてきますと、副作用がいっぱいと思われてしまいそうですが、化学療法によっては大部分の患者さんがまったく副作用を感じないものも多くあります。
それから、副作用に限らず抗がん剤治療全般に関して、患者さんやご家族は医師や看護師とよく連絡しあい、不安を取り除くことが大切です。その点、患者さんは遠慮をされるので、私たち医療者は患者さんに気軽に話しかけてもらえる態度を身につけることが不可欠だと思っています。
なお、抗がん剤の副作用については今年、『癌化学療法 副作用対策のベストプラクティス』という本が出ました。���が監修させていただいています。主に看護師向けの本ですが、田原さんや皆さんにも参考にしていただけたら幸いです。

田原 勉強させていただきます。確かに、副作用については数年前に比べて格段に楽になりましたね。

開業のがん専門医が在宅医療を支援するアメリカ

田原 では、在宅医療についてうかがいます。かつて病人はみんな在宅看護でした。それが病院に入院することが当たり前になり、今また在宅医療がクローズアップされています。理由は何でしょう。

佐々木 日本は諸外国に比べ、入院している日数が長い。これを短くして、なんとか医療費の増加を抑制しようということもあると思いますが、でも、一番には患者さんのQOLの問題です。どんなに立派な病室だろうと、うちで過ごせるものならこれに越したことはない。何とかそんな治療生活を送れるよう支援しようと見直されているのが、在宅医療です。

田原 今までの生活の続きで治療が受けられれば、こんなありがたいことはありませんからね。でも、その体制作りはたいへんでは?

佐々木 そうだと思います。今の日本の在宅医療は、がんの場合まだまだうまくいっているとは言えません。開業医の方もがんについてはあまりご存じなかったり、痛みのケアに欠かせない麻薬の許可証をおもちでなかったり……。 でも、がん患者さんの中にも、入院と同じ治療ができるなら家にいたほうがいい、という人が断然多いわけです。最近は注射と同じくらい効く内服の抗がん剤なども開発され、どうしても注射の必要なときだけ病院に行くことができるようになっていますし。

田原 私の場合、静脈が細いので、点滴のケアが病院じゃないとできないんです。逆に言うと、点滴がスムーズにできるなら、病院でケアしていただく必要はありません。それでも、がんの治療では放射線のような特殊な設備が必要だったり、在宅治療はむずかしいのかなあと考えていたのですが。

佐々木 いや、そうでもないと思います。アメリカでも、遠くに住む人が病院の近くのビジネスホテルに泊まって治療に通うことはありますが、中心はやっぱり在宅医療ですよ。

田原 中心になりますか。

佐々木 中心です。もちろん、骨髄移植など特殊なケースはありますが、そういう場合でも入院は短いです。アメリカの入院費は非常に高いですから。かわりに、検査も治療も短期間で終え、あとはがんもわかるホームドクターにお願いする。日本から見ると驚きですが、アメリカでは腫瘍内科医のほとんどは開業医。ホームドクターのなかで腫瘍内科医の資格をもっているんです。

田原 そうなんですか。日本はまだまだですね。国民性の違いでしょうか。

佐々木 そもそも、日本の大学には腫瘍内科がなかなかできませんでした。がんという病名を患者に言わない時代が長かったので、「腫瘍」とつく科が作りにくかったのかもしれません。

田原 がんといえば、95パーセントは外科ですしね。日本だけが腫瘍の歴史が短いわけじゃないのにね。

佐々木 ただ、ここに来てがん治療は大きな手術が減ってきて、薬や放射線治療のウエイトが大きくなってきた。その変化は大きいと思います。つまり、薬や放射線が急速に発達し、その治療効果がどんどんよくなってきているということです。

田原 内科的治療ですね。

佐々木 そうです。しかし、抗がん剤を使ったことのない医師が、抗がん剤で医療ミスなどを起こし、がんの専門医の必要性が認識されました。学会などの場でも、具体的に専門医を作ることが決定されています。

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