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シリーズ対談 田原節子のもっと聞きたい ゲスト・竹中文良さん 『がん』と『心』の深い結びつきにさらなる注目を!!
アクティブながん患者になる!!

田原 わたしも、そのことは実感しました。自分の頭で考え、自分の意思で行動するアクティブながん患者になるには、まず、自分の病気のことを知ることです。
私が、余命3カ月ないし6カ月と言われながら、5年以上生きることができているのも、がんを人任せにせず、絶えず自分から体に良いか悪いかを考えて、私なりにさまざまな選択をしてきたからだと思っています。
竹中 それがまさに「アクティブながん患者になる」ということなんです。アクティブながん患者になれば、寿命も延びるんです。がん患者の皆さんは「がん」と「心」の関連の深さをもっと認識すべきです。
田原 抗がん剤治療の限界がわかってきたいま、それが大変必要になってきてるように思いますが。

田原さんの病室に飾られた家族からの花籠。
「愛してるよ」の添え書きが微笑ましい
竹中 そのとおりです。いま医者の中には、抗がん剤治療の限界を認識し、これ以上叩くと体を痛めるから、やめるべきだと判断して、「もう医学的治療はやり尽くしたから、残りの命は自分で納得いく生きかたをしてください」と突き放すケースが多くなっています。ジャパン・ウェルネスにも、そうやって放り投げられた患者さんがたくさんやってくるのですが、抗がん剤治療も何もやらなくなってから、元気な人が多いのです。これには私自身びっくりしているくらいです。
今年5月に、私はフランスのルルドに23人の患者さんを連れて行ったのですが、そのうちの5人は行けるかどうか危ぶまれていたんです。とくに、大腸がんが再発して肝臓に転移していた人なんかは、顔が真ッ黄色になっていて、とても行ける感じではなかったんです。それでも、本人がどうしても行きたいと言うので、ご家族を呼んで、万が一のことがあったら、私が骨を持って帰るから行かせてほしいといって説得したんです。
そんな状態で出かけた5人でしたが、ルルドで1万人以上が連なるキャンドル行列を見て感動したり、ルルドの奇跡の水を飲んだりしているうちにすっかり元気になり、帰国後も体調がいいのです。
田原 私も熊野古道のうっそうとした森の中を歩いたり、安芸の宮島で海の風と地の風がまじわる所に身を置いて、かぐわしい空気を胸いっぱい吸い込んだときは、スーっと体の中が洗われたような気分になったものです。
竹中 かぐわしい自然の成分を含んだ空気を吸うと自然治癒力が増しますが、実際にアメリカのウェルネス・コミュニティには、このことに着目し、アロマテラピーやハーブを使った健康法に取り組むプログラムもあります。
会の運営を通して感じる日米���文化の格差
田原 そうした活動を行うにはそれなりの資金が必要になると思うのですが、アメリカのウェルネス・コミュニティはそういった活動をどのようにして運営しているのですか?
竹中 すべて寄付でまかなっているんです。
田原 アメリカには寄付の文化があるので、そういった篤志家が大勢いるのでしょうね。
竹中 そうです。そういった方々はウエルネス・コミュニティが行う活動の社会的意義をしっかり認識しているので、お金を出すだけでなく、がん患者さんたちとの交流の場にも積極的に参加しています。日本ではとてもこうはいきませんね。
田原 ジャパン・ウェルネスの運営はどのような形で行われているのですか?
竹中 本来ならばアメリカのようにすべてを寄付でまかなえればいいのですが、日本ではそうもいきません。しかし、組織を運営していくには、通信費、事務所の経費からボランティアの方たちの交通費まで、いろいろなことにお金が必要になります。そこで、会員であるがん患者さんから入会金2000円、年に5000円の会費をいただいています。
しかし、それだけでは1年間に必要な経費の2割程しかカバーできないので、あとは賛助会員、協賛会員を募ってお金を集め、組織の運営に充てています。賛助会員は個人が対象で会費が年1万円、協賛会員は企業が対象で会費が年5万円です。もちろんこうしたシステムを作っても、すぐに会員になってくれる人が出てくるわけではありません。
とくに1年目は当初期待していたところから集めることができず、苦戦しました。ようやく集まりだしたのは、2年目の途中からで、3年目はまずまずの線まできています。
田原 やはり運動が世間に認められるまでには時間と労力がかかりますね。
竹中 反面、予想外のことで感激したのは、医学界の重鎮のある先生が突然、赤坂にあるジャパン・ウェルネスの事務所にお見えになって、私が雑誌に書いた記事を見て心を動かされたから、少しでもお役に立ちたいと思って来ましたとおっしゃるのです。
てっきりボランティアとしてお手伝いいただけるのだと思っていたら、自分は高齢で、医療の現場を離れて大分たつので適任ではない。その代わり、少し寄付をさせていただきたいとおっしゃって、お金の振り込み先をメモし、寄付のことは絶対に公表しないでほしいと念を押して帰られたのです。それから10日くらいして300万円振り込まれていました。あのときは、本当に感激しました。
田原 協賛会員や賛助会員になってくださる方はお付き合いでなってくださる方ではなく、そういった会の理念に共鳴された方たちが多いのですか?
竹中 お付き合いでなってくれる方が多いのは事実です。1年目、賛助会員になってくださった方は私の昔の患者さんが多かったように思います。協賛会員になってくださる企業も、ボランティアでジャパン・ウェルネスの資金集めに協力してくださっている方の顔をたてて、なって下さるケースが少なくありません。
でも、僕はそれはそれでいいと思っています。あとは、こちらがこうした方たちに会員を継続する努力をすればいいのです。
田原 例えばどういう努力ですか?
竹中 僕がロサンゼルス郊外のサンタモニカにあるウェルネス・コミュニティの本部で2カ月間研修したときに感じたのは、寄付してくれた人に対する感謝の意の表し方が実にうまいということでした。
田原 どういうことでしょう?
竹中 寄付してくれた人を本部に招待して、あなたたちの寄付があるからやっていけるのだとみんなで感謝したり、あなたの寄付はこんな形で役だっていると伝えたりするんです。感謝された方は、自分の善意で、これだけの人がこんなに感謝してくれるのなら、ずっと寄付しようという気持ちになりますよ。
実際、私自身もアメリカで研修を終えた際に少額ですが、寄付をさせて頂きました。そのときに心から、寄付をして良かったと思える対応をされたのを覚えています。
田原 日本人は自分が得をしないと何かをしないという人が多いですね。でも、ここのところへきてようやくそういう考えが根付いてきたような気がします。
竹中 そうです。日本人は必要な幇助などは公的な機関がすればよいと思っている人が非常に多いです。特にカルチャーに対しての寄付などは。しかし、この1、2年活動をしてみて、私も日本でもいけるという手応えは感じてきています。
3分間診療では心のケアまで期待できない

がんになってから生きている時間は、
大変貴重な時間だと思います。
前を向いて頑張っている人を見ると、
本当に勇気づけられますね
田原 アメリカでは、次々にがんの新しい治療法が報告されていますね。一方で、患者の心のケアに取組むウェルネス・コミュニティのような組織もあるので、どんどん日本との格差が広がっていくように思えてならないのですが。
竹中 たしかにアメリカではがんの治療法が日進月歩で進歩している感があります。しかし日本に紹介される最先端医療を受けることができるアメリカ人は30パーセント程度です。逆に、下の30パーセントはどこに放りこまれるかわからないような医療で我慢しなければならない現実がありますから、一概にアメリカがすべての面で進んでいると言えない面もあります。
田原 たしかに日本ではどんな人でも高度な医療水準をもつ医療機関で診察を受けることができますね。ただし、どこも3分間診療で心のケアまでとても期待できないのが現状です。
竹中 日本の今の医療制度では、医者にそこまで要求するのは酷な面もあるんです。外来の医師はおびただしい数の患者さんをさばかなければならないので疲れきってそれどころではないのです。がんセンターの外来にいる僕の知り合いの医者などは、4時半に事務局が閉まり、7時に職員が帰った後も、9時ごろまで患者を診ています。
代表的な医療機関がこのような状態になっているのは、日本の医療が立ち遅れているからではなく、制度に原因があるのです。いまの健康保険制度では質の高い医療でも、低レベルのものでも報酬は一緒ですから、水準の高い医療を受けられるところに患者が殺到するのは仕方のないことなのです。この状態は変わらないでしょうね。
田原 そうなると、心のケアはどうなってしまうのでしょう?
竹中 大病院の医師にもたくさん知り合いがいますが、彼らは、「忙しくてとてもそこまで手が回らない」と言ってます。
田原 その一方で、西洋医学の限界が認識され、抗がん剤も手術も、やり尽くしたからあとはじゃあ好きなように生きてくれ、という患者さんが多くなるでしょうから、ジャパン・ウェルネスなどの存在意義がどんどん増すのではないですか。
竹中 一つひとつ努力を重ねて、そういわれるような存在になりたいと思っています。
田原 ぜひとも患者さんのために、頑張ってください。本日は、お暑い中病室までご足労頂き、恐縮でした。ありがとうございました。
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