1. ホーム  > 
  2. 連載  > 
  3. 特別対談
 

「がんは怖い病気」から「がんと共存する」時代へ

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年11月
更新:2019年7月

がん登録法案の制定で全国的ながん登録へ

「生と死を連続したものとして受け止める死生観を持つことが大切」と語る3人

樋野 私は5年前から「がん哲学外来」を各地に設けて、がんの相談を受けていますが、それが現在、32カ所に増えました。なぜこんなに増えたのかと言えば、がんの初期段階から緩和ケア的な心を持って相談に乗る部署が少ないことと関係があると考えています。ところで、がん登録の重要性は以前から指摘されています。院内登録や地域登録はかなり進んできたようですが、国レベルの登録は進んでいるのでしょうか。

門田 日本も他の先進国並みに、国の責任においてがんの全数登録を義務化し、網羅的なデータに基づいた分析、予防措置を含むがん対策、そして治療法の開発などができるよう法制化する「がん登録法案」が近いうちに成立するのではないかと思われます。

堀田 これまでは都道府県ごとに地域がん登録を進めてきたのですが、昨年、東京都と宮崎県が最後にがん登録を始め、全国レベルのがん登録がスタートラインに立ったところです。現在のところ、がん診療連携拠点病院の院内がん登録で65%をカバーし、残る35%を地域がん登録で把握する計算になります。

ただ、現在の状態では、患者さんが転院し、しかもそれが県をまたいでいる場合、予後をつかみきれないケースがあるんです。がんセンターが市町村に照会し、その調査をしましたが、協力してくれた市町村が半分、後の半分は有料だとか、個人情報を教えるわけにいかないとか、協力を得られませんでした。ですから、がん登録が法制化され、国レベルで一括してがん患者さんを把握できるようになれば、大きな前進ですが、患者さんや国民にがん登録のメリットを具体的に示す必要がありますね。

樋野 全国レベルでがん登録が行われれば、医療従事者のメリットは明らかですが、患者さんのメリットとなると、なかなかこれですと言い切れない。

堀田 直接のメリットはクリアに見えないんですね。それぞれの県が地域のがんの状況をきちんと把握した上で、全国レベルのがん登録の状況と比較しながら、地域のがん対策推進計画を立てたり、評価するといった、きめ細かな対策が欠かせないと思います。

がんになっても安心して暮らせる社会の構築へ

樋野 「基本計画」の全体目標の1つとして、「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が挙げら���ていますが、がん患者さんの就業問題については、どうお考えですか。

門田 がんから生還したサバイバーの人たちが、大変つらい目に遭っていますね。就労という面では、多くの人たちが会社を辞めざるを得なかったということです。また、サバイバーが加入できる生命保険も少ないですね。そういう面は改善していく必要があります。これも重要ながん対策ですね。

堀田 この数年間のがんに対する意識の変化が、この面に象徴的に現れています。以前は、がんが治ったんだから、少々のことは我慢しなさい、という感じでした。それが最近は、がん患者さんががんを抱えながらも、どうやったら充実した生活が送られるか、という視点に変わってきています。

樋野 企業側のがん患者さんに対する対応は、抗がん薬治療中は休職扱いにし、治療が終わったら復職させるとか、企業によっていろいろありますよね。

堀田 進んだ企業にはしっかりした相談窓口があり、きちんとしたプログラムに基づいて対応していますが、困るのは中小企業のがん患者さんが守られていない点です。中小企業に就労しているがん患者さんの3分の1ぐらいは、仕事を変わったり、職場を配置転換されたりして、苦労していますね。そして、5%程度の患者さんが解雇されています。今後、サバイバーがどんどん増えてきますから、きめ細かい対策が必要です。

同じカテゴリーの最新記事