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「がんは怖い病気」から「がんと共存する」時代へ

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2013年11月
更新:2019年7月

諸外国と比べて低い日本のがん検診率

2013_11_08_04日本のがん医療の現状と将来を3時間に渡り熱く語り合った門田さん、樋野さん、堀田さん(写真左から)

樋野 最近のがん治療の進歩には目覚ましいものがありますが、死亡率の減少という目標は達成されていますか。

門田 10年で20%減少という目標を定めていますが、これはほぼ達成できると思っています。ただ、これはがん医療全体から見れば、特別な治療法の開発によって達成するというよりも、検診による早期発見がポイントですね。

樋野 しかし、日本はアメリカなどと比べて、検診率がまだ低いですよね。

堀田 胃がんや大腸がんの検診率は高まってきましたが、それでもまだ4割に達していません。子宮がんや乳がんはようやく3割というのが実態です。ただ、日本ではドックや診療の中で検診を行っていますから、実際はもう少し高いとは思いますが、それでも低いです。諸外国では7~8割ですからね。日本ではとくに乳がんの患者さんが増え、死亡率も高まっていますから、乳がん検診を広げるのは喫緊の課題だと思います。

門田 乳がん検診はクーポン券を発行して受診を促しましたが、それでも、大幅な検診率アップにはなっていません。

堀田 今、「がん検診のあり方検討会」で議論が進められていますが、本当に根拠のある検診とは何なのか、という議論も行われています。いずれにしても、がん治療は早期発見、早期治療が大事であることは確かですよ。

死生観を確立しないとがん診断時に落ち込む

樋野 さて、今回の「基本計画」では、がん教育の重要性にも言及されていますね。

門田 大きな視点から言えば、現在の日本の教育課程の中で、人間が生きること、死ぬこと、病気になることなどを学ぶ機会がないんですよ。昔は大家族でしたから、おじいちゃん、おばあちゃんが布団の中で死んでいくのを、実体験として見ていましたが、今は核家族ですから、そういうことがまったくないわけです。そういう中では、きちんとした死生観は育まれません。

ですから、もう少し幅広い人間学、人間教育が必要だと思いますよ。「基本計画」ではがん対策ですから「がん教育」と言っていますが、たとえ時間はかかるとしても、死生観を含めたもっと広い観点からの人間教育をやるべきですね。

樋野 大人に対するがん教育、小・中・高の生徒に対するがん教育、医療従事者へのがん教育などさまざまです。

堀田 家庭や学校におけるがん教育は、門田さんが言われたように、やはりベースとして人間学が欠かせませんね。医療従事者にしても、患者さんに対する対応のベースには、死生観をきちんとわきまえていることが求められます。きちんとした死生観を身につけていない患者さんは、がんと診断されたとたんに、なぜ私だけが、と不幸のどん底に落ち込みがちです。

2人に1人ががんになる時代ですから、いつ自分ががんになっても不思議ではないのに、がんと診断されると落ち込む。昨日と今日は同じ自分なのに、断絶したかのように感じる。それには生と死を連続したものとして受け止める死生観が大切ではないかと思います。

超高齢化で問われる高齢者のがん治療

樋野 最後になりますが、これからのがん研究の方向性については、どうお考えですか。

堀田 これまで我が国のがん研究は第1次、2次、3次10カ年戦略で、30年間にわたり、がんの本体解明から死亡率の激減を目指してやってきました。それなりの成果は挙げてきましたが、まだまだ未解決の課題がたくさんあります。また、がんを取り巻く環境も少しずつ変わってきています。

今後、2030年ぐらいまでの間、がん患者さんが減ることはありません。となると、働く世代の人にとっては、いかにして早期発見し、治癒可能な段階で治療を開始できるかが、がん医療の重要なカギになってきます。一方、高齢者のがん患者さんにも同じ医療を提供するのかとなると、どこかの時点で正面切って考え直すことも必要になってくるという感じがします。

樋野 私は「天寿がん」ということを教わりました。天寿を全うしてがんで死ぬときに、積極的治療を行うのかどうかです。

堀田 高齢者のがん患者さんには何も治療しないということではなく、高齢者にふさわしいがん医療の方法があるはずです。しかし、そのことはこれまで真剣に議論されたことはなかったんです。

門田 従来のがん医療は、治るものは治る。治らないものは治らない、という感じでした。しかし、私たちは例えば膵臓がんのようながんも、できるだけ治せるように研究を続けていかなければならない。それと、やはり超高齢化の問題ですね。高齢者のがん医療の問題は、決して他人事ではなく、私たち自身の問題として受け止め、私ならどうしてほしいのかを、真剣に見つめるべきだと思います。

がんは在宅治療向き新たな看取りの施設を

「私の父は92歳でまさに天寿がんで亡くなりました」と樋野さん

樋野 私の父親は92歳のときにがんで死にました。そのときは積極的な治療は行っていません。まさに天寿がんです。

堀田 私は、がんは在宅医療に向いていると思っています。がん患者さんが自分で身体をコントロールできなくなるのは、亡くなる2カ月ぐらい前からです。それは家族にも予測がつきます。他の病気のように、何年も寝たきりになることはほとんどありません。そういう意味で、がんの終末期は在宅医療に向いていると思っています。

門田 今後、病院のベッド数が今以上増えることは考えられません。がん患者さんは増えますが、すべてのがん患者さんを病院でカバーすることはできないのです。できることなら自宅で、家族に見守られながら、と考える人は多いと思いますよ。

しかし、核家族化が進み、老夫婦の2人暮らしとか、高齢者の1人暮らしといった状況を見ると、在宅で死を迎えるのが難しい面もあります。ですから私は、今後30年を見据えて、病院とは違う新たな施設を作ることも、超高齢化時代を乗り切る1つの方策ではないかと思います。

堀田 コミュニティの中に、病院とは異なる、看取りのできる中間的施設を用意するということですね。

樋野 いずれにしても、がんは他の病気と違って、終末期が短いですから、そうした看取りのモデルは提唱しやすいかも知れませんね。本日は、長時間ありがとうございました。

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