早期・探索臨床研究センター(NCC-EPOC):今こそ世界に日本の存在感を示す最後のチャンス 世界のがん専門医療機関トップ10に入れば、ドラッグ・ラグは解消する

ゲスト●藤原康弘さん 国立がん研究センター早期・探索臨床研究センター副センター長
聞き手●「がんサポート」編集部
構成●柄川昭彦
発行:2013年1月
更新:2019年12月

診療科を横断してスムーズに

■図4 早期・探索臨床研究センターの組織図
■図4 早期・探索臨床研究センターの組織図

――そうした中で昨年、国立がん研究センターは「早期・探索臨床研究センター(NCC-EPOC:エヌシーシーエポック)」を立ち上げました。欧米にモデルがあったのですか(図4)。

藤原 欧米のどこかの施設を視察にいき、そこを参考にして作ったということはありません。早期・探索臨床研究センター(NCC-EPOC:エヌシーシーエポック)に求められる要件は世界共通なので、必要となる人と物をそろえていったということです。例えば、臨床試験の質を保証してくれる人や(データマネージャー、モニター、監査担当者)、英語を理解して契約書を作ってくれる人、また研究費の会計をしっかり行える事務職員の人たちも必要です。

――もともとフェーズ1試験は国立がん研究センター中央病院や東病院でも行っていましたが、センター化したことで何が変わったのですか。

藤原 これまで中央病院では、各診療科別にフェーズ1試験を行っていたのですが、センター化したことをきっかけに、グループ横断的によりスムーズにフェーズ1試験を進めていく形に変わりました。1つの診療科だけでなく、各科と連携して行うことで「うちにもこんな患者さんがいるので、試験に参加できるのでは」といった情報もリアルタイムに共有でき、より効率的に治験を進められるようになりました(図5)。

■図5 早期・探索臨床研究センターによって引き起こされる新薬開発の動き

■図5 早期・探索臨床研究センターによって引き起こされる新薬開発の動き

POC試験=新規薬剤がコンセプトどおりに効果を発揮しているかどうかを確認する試験

――例えば、乳がんで使われているハーセプチンという薬が、HER2遺伝子をもった胃がんでも有効だというように、科を越えた横断的な薬の開発が進むということですね。

藤原 そういうことです。他にも、センター化したことで大きく変わった点は、研究所との連携が強化されたことです。例えばフェーズ1試験に入る人というのは、他の薬が効かなくなった人が多いのですが、その人のがん組織を頂いて次世代シークエンサーという機械にかけて、遺伝子変異を調べます。その結果から、「あそこの企業のフェーズ1試験に入るのがいいのではないか」といったこともわかるような時代になってきています。このように研究所との連携を強化することで、それぞれの患者さんに合った抗がん薬を選ぶ、個別化医療が進むことを期待しています。

――中央病院には、治験を支える医師やCRCは現在どのくらいいるのですか。

藤原 CRCは中央病院だけで22人います。このうち診療科横断的築地フェーズ1ユニットに加わっているCRCは3~4名、また築地フェーズ1ユニットには各科の医師が11人、研究所の人たちも9人います。この人たちによって、週に1回ミーティングを行っています。

ハーセプチン=一般名トラスツズマブ

世界のトップ10を目指す

■図6 早期・探索臨床研究センターの近未来図
■図6 早期・探索臨床研究センターの近未来図

――早期・探索臨床研究センター(NCC-EPOC:エヌシーシーエポック)が目標としていることは?(図6)

藤原 グローバル企業は、人に初めて投与するタイプのフェーズ1試験を世界の10カ所くらいの医療機関でしか行っていません。そのため、そういった試験は、日本ではほとんど行われていません。医療機関として世界のトップ10でないと、相手にしてもらえないのです。うちでやらせてくださいと言っても、MDアンダーソンがんセンターやハーバード大学でやるからいいよ、と言われてしまうわけです。ですから、目標は世界のトップ10に入ることです。それによって、新薬の開発に最初から関われるようになります。すでに企業に対する宣伝活動はすませました。あとはしっかりパフォーマンスを示すことです。

――開発に関わるのは抗がん薬だけですか。

藤原 分子標的薬の時代になって、従来の抗がん薬とは異なる副作用が問題になっています。そうした副作用に対応する支持療法の開発も行っていく必要があります。他にも、医療機器の開発にも関わる方向に舵を切っています。また免疫療法についても、きちんと評価し、よいものは後押しして、世の中に提供できるようにする体制を整えています。

世界に日本のポテンシャルを示す最後のチャンス

――ドラッグ・ラグはいつごろ解消されるでしょうか。

藤原 来年には解消しなければ、と考えています。現在海外の製薬企業は、中国にシフトするか、韓国にシフトするか考えています。中国も韓国も、治験・臨床試験を振興する予算をたくさん用意して医療機関の整備を進めています。日本が何もせずにこのままだと、追い越されてしまいます。しかし、中国はやや知財を守る姿勢が不安定、韓国は基礎研究が弱い、という弱点があって、今が日本の存在感を示す最後のチャンスなのです。企業が求めているのは、早く質の高い試験をしてくれること。日本にその力があると示すチャンスは来年くらいまでしかありません。

――フェーズ1試験に日本が加わるようになれば、ドラッグ・ラグは解消しそうですね。

藤原 それが我々の役目です。今回早期・探索臨床研究センター(NCC-EPOC:エヌシーシーエポック)設立にあたっては、税金から事業費を毎年約5億円も頂いているわけですから、きちんとした結果を残さなければと思っています。今回の研究費は、がん患者さんに研究の成果をいち早く届けるために、国立がん研究センターが世界のトップ10のがん専門病院に入るための資金だと考えています。

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