がん医療の総帥に聞く! 新しい薬・適応外の治療をもっと早く、患者さんのもとへ

取材:がんサポート編集部
構成:吉田燿子
発行:2012年2月
更新:2013年5月

課題は拠点病院のレベルアップ

――日本のがん医療におけるもう1つの課題として、副作用に対する支持療法の開発の遅れが指摘されています。この問題に対してはどうお考えですか。

堀田 近年、従来の抗がん薬の副作用対策は、かなり進んできました。一方で、新しい分子標的薬に対する副作用対策は、まだまだ進んでいないのが実情です。分子標的薬の副作用は、従来の抗がん薬とはかなり様相が異なるため、治療法と平行して、支持療法の開発にも積極的に取り組んでいく必要があると考えています。

――治療に限らず副作用対策や患者支援についても、病院間でがん医療の質の差が大きいです。これは、「がん対策推進基本計画」に基づいて各都道府県に置かれた「がん診療連携拠点病院」についても同じです。拠点病院であっても、たとえば、必要な疼痛治療が行われていないケースもあるなど、理念と現実との間にはまだまだギャップがあるのが実情です。こうしたギャップを埋めるために、何をすべきだとお考えですか。

堀田 拠点病院の指定にあたっては、適切な緩和ケアの提供や「相談支援センター」の設置など、患者の立場に立った医療を提供するための仕組み作りが行われました。しかし一方では、緩和ケア専門医の不足や標準的治療の不徹底、地域間格差の存在など、まだまだ問題が多いのも事実です。がん対策については、「質」の面についてもしっかりと評価を行い、患者さんの満足度向上につなげていく必要があります。

現在、全国の拠点病院が参加する連絡協議会では、専門的な議論や情報共有、国への要望・提言などが行われています。がん研究センターはその中心として機能し、日本のがん医療のレベルアップに努めたいと考えています。

患者さんと協力してがん医療をつくる時代に

――希少がんなど、治療法が確立していない疾患への取り組みについて教えてください。

堀田 希少がんや小児がん、難治がんについては、標準治療が確立していないケースが多く、新薬もなかなか承認されないなど、多くの問題を抱えています。これこそ、がん研究センターが先陣を切って取り組まなければならない課題です。

これらについては、がんセンターが直接医療を提供していく場合と、中枢的な機能を果たすべき場合と、切り分けが必要になってきます。例えば、小児がんについては、標準的な治療を提供する専門の医療機関があるので、当センターは各病院の治療情報を集約して臨床試験に乗せて新規治療薬を開発するなどの中枢的な機能を果たし、実際の治療数を積み上げるのは、専門病院におまかせすることになるでしょう。現在、この2つの役割をどう切り分��るか、当センターの果たすべき役割を模索しているところです。

――堀田さんは、「医療者・患者・市民の皆さん・行政が協力して『がん医療を創る』時代に入った」だと語っておられますね。

堀田 がん対策基本法の施行により「がん対策推進協議会」が発足し、20人の委員のなかに、5人の患者さん団体の代表がメンバーに加わりました。これによって、患者さんの声は、国の施策に直接反映されるものと位置づけられたのです。これをきっかけに、患者さんは医療者と一緒にがん医療を創り上げていく、力強いパートナーとなりつつあります。

医療設備が充実し、保険制度も完備した日本の医療レベルは、国際的に見てもけっして低くはありません。にもかかわらず、患者さんの満足度は高いとはいえないのが現状です。患者さんの満足度を上げるためには、患者さん1人ひとりと向き合い、価値観を共有していく必要がある。その意味でも、今後は医療者と患者さん、市民の皆さん、行政が協力して、「がんとともに生きる社会」を創っていくことが必要だと思います。

患者さんが満足するがん医療へ研究がスタート

――「がんとともに生きる社会」に向けた歩みについては、とくに治療後の社会復帰には障害も多く、家族の悩みも深いのが現状です。しかし、この問題を放置していては、「患者さんのためのがん医療」を実現することは難しい。そのための対策として、どのようなことをお考えですか。

堀田 患者さんの就労支援やご家族への支援については、当センターとしても力を入れていく必要があると考えています。その一環として、院内の相談支援センターに産業カウンセラーや社会保険労務士を配置し、患者さんの就労支援に取り組み始めました。また、脳腫瘍や胆嚢がん、膵がんなどの患者さんのご家族を対象に、家族教室を開催しています。とくに東病院では、相談支援センターを院外に開設し、柏市と地元医師会、東病院が地域ぐるみで共同運営しながら、料理教室や勉強会、交流会や医療相談などを行っています。こうした試みを、もっともっと広げていければと思っています。

これらの支援は、患者さんご家族の真の要望を反映したものでなくてはなりません。そのためには、患者さんが社会のなかで、どのような考えをもち、何を求めているのかを把握する必要があります。現実に合った政策提言をしていくためにも、これまでのような医学的な研究活動の範囲を越えて、今後は、がん医療に関する社会学的調査を行うなど、社会学的なアプローチを強めていかなければならない。それと同時に、患者さんの満足度を上げるためには、死生観や生命倫理などを中心に、哲学的・人文学的な研究にも取り組んでいく必要があります。来年度には、新しい研究体制を作る予定で準備を進めているところです。

――今後がん医療は、人々の生活や生き方により密着した進化を期待していいわけですね。本日はありがとうございました。

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