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患者のためのASCO特集 ASCO 2011で注目される5つの報告 質の高い生活を長期にわたって過ごすための新知見発表!
分子標的薬オラパリブが卵巣がんの維持療法に有効
(増悪イベント、無増悪生存期間中央値)
オラパリブ群 (136例) | 偽薬群 (129例) | |
---|---|---|
増悪イベント(%) | 60例(44) | 93例(72) |
無増悪生存期間 中央値 | 8.4カ月 | 4.8カ月 |
[卵巣がんに対するオラパリブの主な副作用]
卵巣がんに対する標準治療の1つは、プラチナ製剤を基本とする化学療法である。再発した場合、化学療法が効果を示す場合もあるが、毒性が強過ぎて治療継続が困難なため、これまで長期間にわたる投与の有用性が示された化学療法はなかった。
今回、卵巣がんに対して、DNAの修復にかかわるPARPと呼ばれる酵素を阻害する新たな分子標的薬オラパリブを用いた治療効果が、臨床試験によって初めて示された。
卵巣がん患者の約15パーセントは、BRCAという遺伝子の変異を有していて、DNA修復機能の経路が障害されている。こうした腫瘍の約30パーセントが、PARP阻害剤に反応するが、とくにプラチナ製剤の効果が認められるような腫瘍は、PARP阻害剤にも反応しやすい。
イギリスUCLがん研究所教授のジョナサン・レダーマンさんらは、卵巣がんの中でもBRCAという遺伝子の変異を有し、 DNA修復機能の経路が障害されている可能性の高い患者を対象に、臨床試験を実施した。
具体的には、「プラチナ製剤の効果が認められる、悪性度の高い漿液性腺がん」患者265名を、16カ国82施設で登録。プラチナ製剤を含む化学療法を行い、部分奏効または完全奏効を得た後に維持療法として、オラパリブを服用する群(136名)と、偽薬を服用する群(129名)に無作為に分けた。
その結果、無増悪生存期間中央値は、偽薬群が4.8カ月だったのに対して、オラパリブ群では8.4カ月とほぼ4カ月も延長することが明らかになった。副作用は偽薬群よりもオラパリブ群でより多く報告されていて、内容としては、吐き気、疲労感、嘔吐、貧血などだが、多くは重症ではなかった。
また副作用のために減量した患者は、オラパリブ群で23パーセントと、偽薬群の7パーセントより多かった。
レダーマンさんは、「この試験は、" PARP阻害剤を用いた卵巣がんに対する維持療法"の有用性を証明するものである。無増悪生存期間の違いは期待よりも大きく、非常に優れたものだった」と説明した。
また「この薬剤は忍容性(*)が高く、標準化学療法の後に、何カ月、あるいは何年にもわたる維持療法に用いることが可能である。このことは、卵巣がん治療において大きな前進であるとと���に、最終的に患者の生存期間延長につながる可能性もある」と述べた。
*忍容性=副作用に耐え得る程度
新規治療薬カボザンチニブさまざまな進行がんで有効

多くのがんの進行、増悪には、キナーゼと呼ばれる酵素の一種が関与している。これらを阻害する新規経口薬カボザンチニブが、さまざまな進行がん患者を対象とする第2相試験において、有効との結果を示した。
同試験を行った米国スコッツデールのピナクル・オンコロジー・ヘマトロジーの腫瘍内科医マイケル・ゴードンさんによれば、とくに従来の治療で効果がみられなかった進行前立腺がん、卵巣がん、肝がんで、高い疾患コントロール(腫瘍が縮小または安定した状態)が得られたという。さらに、前立腺がん、乳がんおよび悪性黒色腫の患者の骨転移が、一部または完全に消失したと報告した。
対象は進行した固形がん患者398名で、39パーセントが試験開始時に骨転移を有していた。患者は12週以上にわたってカボザンチニブを投与された。
評価可能だった398例の奏効率は9パーセント(34例/398例)。
12週における疾患コントロール率は肝がんで76パーセント、前立腺がん71パーセント、卵巣がんでは58 パーセントと、良好であった。
また骨転移のある68例の患者のうち(乳がん、前立腺がんおよび悪性黒色腫)49例で、骨スキャンによって、部分的あるいは完全な骨転移の消失が認められた。またその多くで、大きな痛みの緩和と、他のがん関連の症状改善、鎮痛剤の減量、貧血患者における持続的なヘモグロビン(*)増加などが認められた。
最も一般的なグレード3以上の副作用は、疲労9パーセント、手足症候群8パーセント、高血圧5パーセントであった。
*ヘモグロビン=血液中に存在する赤血球の中にあるタンパク質のこと。不足するとさまざまな細胞組織で酸素が欠乏した状態になる
治療が困難な骨転移にも効果
現在、進行がん患者の発病、死亡に大きな影響を及ぼす骨転移を煩う米国人患者は約30万人にものぼるという。従来のがん治療では、骨転移に対する効果がほとんどないのが現状だ。
こうした中、カボザンチニブによって、前立腺がん、乳がん、悪性黒色腫、腎細胞がん、甲状腺がんの骨転移の骨スキャン上での改善が認められたという。
ゴードンさんは、「骨転移の減少と痛みの緩和に関して、この試験では、期待していた以上のものではなかったが、非常に面白い結果である」と述べている。
またカボザンチニブは、これまで13のがん種で効果が検討され、うち12のがん種で、その有効性が認められているという。
長期の喫煙で女性の発がんリスク上昇

[喫煙と肺がんの関係](非喫煙者と比べてのリスク増加の割合)

1万3000人以上の乳がんのリスクが高い健康な女性を対象とする試験において、長期にわたって喫煙歴がある女性は、喫煙歴の短い女性と比較して、浸潤性乳がん、肺がん、大腸がんのリスクが、有意に高いことが示された。
結果を発表したピッツバーグ大学のステファニー・ランドさんによれば、非喫煙者と比較して、少なくとも35年間喫煙している人は乳がん発症リスクが1.59倍と高く、15年から35年の間の場合には1.34倍と高くなることがわかった。
ただし15年未満の喫煙者ではリスク上昇はなかった。
これは、喫煙と乳がんが強い相関関係にあることを示す試験であり、また、高リスクの女性でも、喫煙によってさらにリスクが増すことを示した最初の試験でもある。
大腸がんの発症リスクは、喫煙未経験者と比較して、35年以上の喫煙歴で5倍に、15~35年の喫煙歴では1.07倍と上昇していた。
同様に、肺がんについても、「喫煙歴のある女性では肺がんのリスクが高い」という、従来の知見が裏付けられた。
肺がんのリスクは、喫煙未経験者と比較して、1日1箱以上の量を35年以上にわたって吸っている喫煙者で30倍、1箱未満を35年間喫煙した場合は13倍であった。
ほどほどのアルコール摂取で大腸がんのリスクが低下

[身体活動とがんとの関連]

一方、アルコール摂取は、乳がんの発症リスクに影響を与えなかった。また大腸がんリスクは、1日1杯までの、ほどほどのアルコール摂取の場合、飲酒しない場合よりも65パーセント低かった。
ただしこの試験では、大量飲酒者は含まれていないこと、飲酒習慣に関する1回の自己申告に基づくものであることなど、過去のアルコール摂取とがんリスクの関係が示されてきた試験とは、いくつかの因子が異なる可能性があると、ランドさんは述べている。
また身体活動の低さは、予想に反して乳がん、肺がん、大腸がんは関連していなかったが、子宮内膜がんのリスクが72パーセント増加していた。
これについては、子宮内膜がんのリスク因子である肥満との関係によるものではないかと指摘された。
ランドさんは、「家族歴や他の因子によって高リスクにある女性では、他の女性たちと比較して、喫煙の影響がより大きいことが示唆された。このことは、家族歴のある女性に対して、長期喫煙のリスクを警告したものである。多くのがんのリスク低下に最も有効な手だての1つが禁煙だということが、またしても示された」と結論づけた。
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