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子供に親のがんをどう伝え、どう支えるか 子供のいるがん患者支援と米国で開発された「チャイルド・ライフ・プログラム」の中身
みんなで情報を共有する
治療中はノートを1冊用意し、子供の質問やそれに対する回答、新たな出来事などを書いて家族みんなでやりとりする、つまりみんなで情報を共有するのもいい方法だそうだ。この時、何か聞きたいことがある? と質問するより、私ならお母さん病院でどうしているかなと考えちゃうけどあなたはどう? というふうに、子供が話しやすいようにしむけることが大切だという。
さらに、アメリカにはがんになった親を持つ子供のサポートグループもある。MDアンダーソンの場合、治療中の親を持つ6~12歳の子供を対象に6週間グループセッションを行う。ここで、怒りや悲しみなど感情をテーマに自分の手で作品を作るそうだ。
一方、集中治療室に患者が入った場合にも、援助が行われる。以前は子供は入室が禁じられていたため、最後のお別れを言えないこともあったが、マーサさんがKNITプログラムを始めてからは、調整して会えるようになったそうだ。ICU(集中治療室)では、親はさまざまな器具や計器につながれているので、子供が恐怖を感じないように、あらかじめ患者の状態を告げ、管のついた人形を使って説明したり、器具に触らせることもある。面会するかどうかは子供に選択させるが、99パーセントの子供が親に会いたがるそうだ。
隠すより悲しみを共有したほうがよい
では、親の状態が悪くなったときはどうするか。親の死から子供を守ることはできないし、事前に知らせることがお互いの信頼を増すことにもなるとマーサさんは語っている。その時期やどこまで話すかは、子供の年齢によって異なる。10代の子供にはもう治療手段がないなど基本的な情報はできるだけ多く伝える。死に対する準備をするという意味でも、なるべく早く数週間前には伝えたいという。
一方、12歳以下の子供の場合は、わかっている情報に基づいて共に考え、一緒に立ち向かっていくことをうながす。これまでに何が起き、今後何が起こりうるのか、それが家族にとってどういう意味を持つのか。たとえば、お父さんが死んだら家族みんなで支え合っていかなくてはならないといったことを、少なくとも4週間ぐらい前には知らせておく。もっと小さな子供の場合は、がんという診断を知らせ、死がどういうものかを説明する。つまり、体が働きをやめ、息をしたり、食べたりしなくなる。2度と生き返ることはないといった簡単な事実を話す。大きい子供とは違って5~7歳ぐらいの子供は死の2週間ぐらい前、もっと小さな子供は数日前に知らせるのだそうだ。
マーサさんは、子供を親の死から守ることはできないこと、事実を隠せば子供は孤独の中で悲嘆を味わうことになる、それより誰かと悲しみを共有したほうがましだということを覚えておいてほしいと語った。
さらに、親の死後の子供の悲嘆も年齢によって異なり、場合によっては子供にカウンセリングを勧めたり、地域のサポートや学校、教師、子供のグリーフセンターの活用などがあることが語られた。
日本とは文化的背景が異なることもあり、小さなときから子供を個として認め、しっかりと事実を伝えるという姿勢が一貫していること、また学校も含めて周囲にそうした状況を肯定的に受入れ、サポートするシステムや精神的土壌が培われていることが、あらためて思い知らされる講演だった。
パネルディスカッション
子供への伝え方・支え方 日本の場合

では、日本の現状はどうなのだろうか。第2部では、東京大学の内科医であり、老年社会科学分野講師である高橋都さんの司会でパネルディスカッションが行われた。パネリストは、マーサさんの他、乳がん患者会「あけぼの会」副会長の富樫美佐子さん。東大医療政策人材養成講座特任准教授の埴岡健一さん、東京共済病院医療ソーシャルワーカーでVOL-Netメンバーでもある大沢かおりさんの4人。
富樫さんは、9年前に乳がん手術を受けたときに高校生だった息子に口では言えずに手紙を書いた。1番悩んだのは親としての責任をどう果たすかだったと語った。埴岡さんは米国滞在中に前妻が白血病を発症、子供が7歳のときに亡くなっている。アメリカにいたので、発病、再発、末期までさまざまなサポートがあり、子供にも院内学級があって、それが当たり前のシステムになっていたこと。また、院外でもオープンで学校に事情を話すと担任がクラスで話し合いの場を設け、それをきっかけに家庭でも話し合いが行われ、クラスをあげて支援してくれた経験が語られた。大沢さんは、5年前に乳がんになり、そのとき支えてくれた夫が3年前に急死。精神的に参っていたときに米国でマーサさんの話を聞き、子供を残して亡くなっていった親にこうした情報があればどんなによかったかという強い思いから、今回の講演会につながったことが話された。
知らせないと子供が傷つく

ディスカッションは、参加者からの質問への回答を中心に行われた。
子供が第3者の口から親のがんを知らされるのも嫌だけれど、自分からも言いたくないというジレンマに悩む親は多い。
富樫 家庭の事情にもよるが、乳がんの国際会議で外国の子供が大きくなってから初めて親ががんだったことを知り、一時的にではあるが話をしてくれなかったことを恨んだという発表がありました。子供に心配させたくないという気持ちはわかるけれど、親から子供の発達段階に応じて話をするべきでしょう。
大沢 ソーシャルワーカーとしての経験から、日本人患者の心情として、子供に話すことで子供の友人からその親に病気のことが伝わり、知らないところで噂されるのが嫌だという方が多い。また、死期が迫り、自分の死後の子供のことを心配する人には、入学や成人式など人生の節目に読む手紙を書くことを勧めた本を紹介したりしています。

マーサ なぜ子供に知らせたくないのか、子供の反応が怖いのか、質問されるのが嫌なのか、その理由をきちんと押さえておくことが大事で、もし手術の跡を見られるのが嫌で一緒にお風呂に入らなくなれば、子供は、自分が何か悪いことをしたからお母さんは一緒に入ってくれないのだと考える。そうした感情を抱かせないためには、真実を告げるより道はありません。
埴岡 あの人には知られたくないなどいろいろあっても、子供に知らせないことで子供が傷つくことのほうがはるかに重大であること。それを避けるためにどうするかを考えれば、問題を整理しやすいのではないでしょうか。
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