子供に親のがんをどう伝え、どう支えるか 子供のいるがん患者支援と米国で開発された「チャイルド・ライフ・プログラム」の中身

レポート:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
撮影:向井歩
発行:2008年10月
更新:2013年4月

がんを理解できる状況を作っておく

富樫美佐子さん

「あけぼの会」副会長の富樫美佐子さん

マーサ・アッシェンブレナーさん

マーサ・アッシェンブレナーさん

では、どう子供に伝えるのか。

高橋 現在、親のがんをどう子供に伝えるか、インタビュー調査をしているが、それによると、知られたくない人にまで知られるのが嫌という人が、少なくありません。

大沢 無理して言わなきゃという義務感ではなく、自分の気持ちが落ちついてそういう気持ちになった時、必要ならば周囲の手助けも借りて話せばいいのではないでしょうか。

高橋 自分の気持ちのついて行き具合が大事です。

富樫 自分で子供に伝えることを決断したが、入院中に「ご主人とお子さん可哀相ね」と友人に言われたことが胸に突き刺さった。肺に転移した時も躊躇はしたが、夫と息子に自分で伝えました。

高橋 日本では、祖父母など周囲が子供に話すことを反対することも多い。

埴岡 そんな時には自分で説得するより、冊子やツールがあればそれを読んでもらうほうが楽です。

大沢 しかし、日本にはまだそうしたツールが少なく、外国のツールを日本語に訳して渡しているのが現状です。日本版のツールが必要とされています。

マーサ アメリカでも世代間の違いは大きいけれど、時間とともに社会は変わるものでゆっくりではあるが変化しつつあります。

高橋 マーサさんの講演で子供が長い時間をともにする学校関係者などとの連携も大事という指摘があったが、どういう形がありうるのでしょうか。

マーサ 事情を話して宿題ができないなど通常どおりのことができなくても理解できる状況を作っておくこと、かといって勉強しなくてもいいわけではないし、みんなと同じように扱ってもら��必要があります。

世の中の仕組みを変えていく

高橋都さん

パネルディスカッションの司会をした高橋都さん

では、日本では学校関係者に何を期待するのか。

高橋 日本では担任教師にも話さない人がたくさんいます。

富樫 がんという言葉がまだ日本では死と結び付けて考えられる傾向があり、そのために対応に困る先生も少なくない。小学校でもがんとはどういう病気なのか、簡単な教育があってほしい、親ががんになった子供にどう対応していくか、何か指導があればもっと話しやすくなるのではないでしょうか。

埴岡 アメリカではニューヨークでもシアトルでも学校の対応はほとんど同じだったので、教師の個性や環境などではなく、こうした場合の対処法を教育されているのではないか。日本もがん対策推進基本計画に、国民全体ががんを知りがんと向き合っていく社会にしましょうとあるように、地域のボランティア活動などに学校の先生も参加して議論していく中で理解も深まり、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

大沢かおりさん

東京共済病院医療ソーシャルワーカーでVOL-Netのメンバーである大沢かおりさん

大沢 母をがんで失い、2人の子供を育てていた父もがんの末期という厳しいケースで、児童相談所や担任の先生、教頭先生なども出てきて病状の説明を聞いたり、養育のことを相談したり、まるで新たなチームのように動いてくれた例があります。そういう人的資源はたくさんあるので、何をどうするのか、誰かが先頭に立って方向を示せば、日本でもチームはできると思います。

最後に、大沢さんは、まずこうした問題の存在に気づいてできることから始めて欲しい、埴岡さんもそれと同時に、世の中の仕組みを変えていくこと。そのためには情報を伝えることが必要で、患者全てががんになった時に受け取る冊子や医学教育にもこの問題を入れること、チャイルド・ライフ・スペシャリストという専門職を増やすなどの提言があった。富樫さんからは、みな同じことで悩んでいることがわかったので、今日の講演を参考にいい方向に進んでほしいという話があった。マーサさんの「全てを1度に解決することはできないけれど、1歩を踏み出すことから進んでいく」という言葉で会は盛況のうちに締めくくられた。


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