11年間5000件に上る血液がん患者さん電話相談の現場から 患者さんが言いたいけれど言えない「もう一言」を受け止めたい

取材・文:常蔭純一
発行:2008年9月
更新:2013年4月

家族との関係に悩むがん患者さんからの電話

写真:2007年、コールセンター開設について厚生労働大臣、国立がん研究センター総長宛に要望書を提出

2007年、コールセンター開設について厚生労働大臣、国立がん研究センター総長宛に要望書を提出

病気そのものや治療法の複雑さとともに、治療期間が長期に及ぶことが血液がんの特徴であることは前述したとおりだが、そのこともあるのだろう。家族との関係に悩む患者さん、また、あるいは逆に患者さんとの関係を模索する家族側からの相談が寄せられることも少なくない。

「もともと、がんを患うということは当事者以外には理解されにくいものです。もちろん病気が見つかった当初は、家族は団結し、互いに協力して病気に立ち向かいます。しかし闘病期間が何年にも及び、患者さんにもそして家族にも疲れが表れ始めると、両者の関係にほころびが出てくることもあります」(橋本さん)

このような相談の場合、患者さんに対しては、じっくりと相談者の話を聞いたうえで、患者会や患者さんが集まるサークルなどへの参加を勧めることもあるという。同じ境遇にいる患者さんたちとの交流によって、「自分は1人ではない」と実感することが、癒やしにつながることもあるからだそうだ。

一方、家族に対しても、やはりじっくりと相談者の話に耳を傾け、相談者の行動についてともに振り返ることもあるという。

「患者さんの家族は、患者さんに前向きに病気と向き合ってほしいと願っています。でも時に、その愛情あふれる切望が、患者さんには押し付けと感じられることもあります。患者さんには患者さんの思いや生き方があります。家族の方には、そのことを理解していただければと思います。ただ、その家族の想いも、ここで受け止め理解します」 と、橋本さんは語る。

電話相談から費用軽減のための署名活動が始まる

患者さんや家族から寄せられる相談には、もっと切実で現実的なものも少なくない。治療費用に関する相談も、その1つ。

「グリベック(一般名イマチニブ)という画期的な治療薬の登場によって多くの慢性骨髄性白血病の患者さんが救われていますが、薬の価格が高価であるのも事実です。
高額療養費制度もありますが、薬を数カ月分ま���めて出してもらうと治療費は安く済みます。そこで、90日間の処方をしてもらっていたのですが、厚生労働省の指導は60日間の処方となってしまいました」(橋本さん)

慢性骨髄性白血病の患者さんにとっては、グリベックは生涯を通じて服用を続けなければならない不可欠の存在だ。だからこそ、費用負担の問題も重くのしかかる。このような電話相談を受け、「深刻な問題だと思った」と感じた橋本さんは、2008年5月からグリベックの処方に関する署名運動を開始した。9月には、集まった署名を携えて、厚生労働省に再び90日処方を認めてもらうよう嘆願書を提出する方針だ。厚生労働省に、グリベックを服用している患者さんや橋本さんたちの声が届くことを期待したい。

無目的に話せる場であり続けたい

写真:「がん電話情報センター」にて

「がん電話情報センター」にて、電話相談にあたる相談員たち

病気そのものや治療法、不安、費用負担といった問題以外にも、治療には常につきまとう副作用の問題、セカンドオピニオンに関する相談など、がん電話情報センターには毎日、多種多様な相談が寄せられる。患者さんの「もう一言」を聞くために、橋本さんたち相談員は受話器に向かい続けている。97年からがん患者さんの相談を受け続けている「電話相談」という場について、橋本さんはこう語る。

「近年は、医療側も病気や治療について良く説明するようになりました。治療前・中・後、折々にしっかりと説明を受けるようになったことは、長い電話相談業務で感じています。それでもがん患者さんはたえず不安を抱き、プレッシャーを受けながら生きています。そのこともあるのでしょう。患者さんの多くは別にこれといった用がなくても、何となく誰かと話したい、話を聞いてもらいたいというささやかな願いを持っています。そんな患者さんの心をわかろうとする、受け止める場が、長い闘病生活の中で、1カ所くらいあってもいいのではないでしょうか」

電話相談の対応を終えた後、相談者から「また電話をかけてもいいですか」と、たずねられることも多いという。そんなとき、橋本さんはずっしりとした手ごたえを感じるのだそうだ。

「話したいと思ったら、とにかく電話をかけてほしい。(電話をする)目的も必要ないし、時間制限もありません。好きなだけ好きなことを話せばいいのです。たっぷり声呼吸をして余裕のできたところにこそ情報は届き、担当医の説明もより良く理解できると思います。情報提供の対として、傾聴の方法をスキルアップしていきたい」


がん電話情報センター

血液がん、乳がんを診断された方とそのご家族のために

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※8月11日(月)~15日(金)は夏期休業のため、18日(月)12時より受け付けます
※全国一律の通話料金でご利用いただけます。PHS、一部のIP電話からはご利用いただけません

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